3. 遺伝医療・ゲノム医療 Flashcards
遺伝学の定義
⽣物の種間,種内集団間,あるいは個体間の差異や多様性を研究する学問
遺伝学の目標
・上位世代から下位世代への遺伝継承の機序を明らかにすること
・同世代間のおける多様性の根源を明らかにする
ゲノム医療の定義
個⼈個⼈に異なるゲノム情報を網羅的に解析して,その個⼈に適した医療の概念
ゲノム(genome)とは
ある⽣命体中の遺伝情報の最⼩必須セットのこと
ヒトでは,細胞核の染⾊体に存在する核内DNAと細胞質中のミトコンドリアDNAを含む
ヒトゲノム総塩基対数、遺伝子数
約30億、20000個
ゲノムの個人間の違い
0.1%
タンパクをコードしないDNA
Junk DNA(ほとんど)
タンパク質をコードする部分の割合
約1%
反復配列の割合
50%
変異と多型の統一単語
バリアント(variant)
遺伝⼦関連検査の分類と定義
- 病原体遺伝⼦検査(病原体核酸検査)(nucleic-acid testing)
- ヒト体細胞遺伝⼦検査(gene-based testing)
- ヒト遺伝学的検査(genetic testing)
ゲノム情報(遺伝情報)の特徴
不変性:⽣涯変化しない 予測性:将来の発症を予測できる可能性 共有性:家系で共通な情報を有する 容易性:試料が得やすい 曖昧性:常に不確実性がある
遺伝性疾患の分類7つ
単一遺伝子疾患(メンデル遺伝病) 多因子遺伝病 体細胞遺伝病 染色体異常症 ゲノム病 ミトコンドリア遺伝病 エピジェネティクス機構の異常による疾患
単一遺伝子疾患(メンデル遺伝病)の原因
単一遺伝子の変異
単一遺伝子疾患(メンデル遺伝病)の例
先天性疾患
多発形態異常症
単一遺伝子疾患(メンデル遺伝病)の遺伝形式
メンデル遺伝
単一遺伝子疾患(メンデル遺伝病)の頻度
2%
多因子遺伝病の原因
複数の遺伝子における変異/多型と環境要因
多因子遺伝病の例
生活習慣病、精神疾患、口唇口蓋裂
多因子遺伝病の遺伝形式
経験的再発率
多因子遺伝病の頻度
60%~
体細胞遺伝病の原因
体細胞の遺伝情報(染色体、遺伝子)の突然変異
体細胞遺伝病の例
腫瘍
体細胞遺伝病の頻度
30%~
染色体異常症の原因
染色体の数的・構造的異常
染色体異常症の例
ダウン症候群、不均衡型相互転座
染色体異常症の遺伝形式
配偶子形成時の新生変異・経験的再発率
染色体異常症の頻度
0.4%
ゲノム病の原因
共通の機構により一定のゲノム領域における欠失や重複
ゲノム病の例
ウイリアムズ症候群・22q11.2欠失症候群
ゲノム病の遺伝形式
多くは新生突然変異
ミトコンドリア遺伝病の原因
ミトコンドリアDNA(核外遺伝子)による変異
ミトコンドリア遺伝病の例
Leigh脳症
ミトコンドリア遺伝病の遺伝形式
母系遺伝
核内遺伝子変異ではメンデル遺伝
エピジェネティクス機構の異常による疾患の原因
インプリンティング
遺伝子関連の異常
エピジェネティクス機構の異常による疾患の例
Prader-Willi症候群/Angelman症候群
独立の法則
⼆つの形質は独⽴に⽣殖細胞へ分配される。
ただし、この場合、2つの形質を⽀配する遺伝⼦座は、別々の染⾊体にあることが前提となる
メンデルの法則3つ
- 優劣の法則
- 分離の法則
- 独⽴の法則
常染色体優性遺伝疾患(AD)例
家族性⾼コレステロール⾎症
軟⾻無形成症
マルファン症候群
常染色体優性遺伝疾患(AD)の発症に影響する因子
- 浸透率と表現度の差異
- 生殖適応度と突然変異
- 生殖細胞系列モザイク
- 表現促進現象
- 遺伝的異質性
不完全浸透
バリアントを有しても発症しない
表現度の差異
同⼀家系内であっても症状が異なる
生殖適応度
特定の遺伝型をもつ個体が生涯に残すことのできる子の数。
生殖細胞系列モザイク
配偶子形成細胞に、病的バリアントを有する細胞と有さない細胞が混在している
表現促進現象
世代が進むと発症年齢が早まり、より重症化する現象で、トリプレットリピートの伸長と関連する。
遺伝的異質性の種類
座位異質性
アレル異質性
座位異質性
臨床的には区別が困難であるが、原因遺伝子が異なる疾患
アレル異質性
同一疾患でも遺伝子内のバリアントの場所や種類が異なること
常染色体劣性遺伝病 (Autosomal Recessive: AR)疾患例
⽐較的重篤な先天性疾患
先天代謝異常症の多く
遺伝的複合
ある遺伝子に関して、異なるバリアントのアレルを同時に持つ状態
複合ヘテロ接合体であり、疾患を発症する
片親性ダイソミー
Uniparental disomy
一対の相同染色体の全体あるいは一部が片方の親に由来し他方の親には由来しない状態のこと
X連鎖劣性遺伝性疾患例
血友病
デュシェンヌ型筋ジストロフィー
ペリツェウスメルツバッハ病
ペリツェウス・メルツバッハ病(PMD)
広範な中枢神経の髄鞘形成障害が起こり,その結果,重篤な脳障害となる.
X連鎖優性遺伝性疾患例
Alport症候群(85%ほど)
レット症候群
ビタミンD抵抗性くる病
家族歴の傾聴
- リスクアセスメントに必要な医学情報の把握
- クライエントの内側からの理解
- 家族との関係性の理解
多因子遺伝の定義
家族集積性の傾向を示しながらも、優性、劣勢といったメンデルの法則に従ったパターンを示さない
多因子遺伝の例
口唇口蓋裂、肥厚性幽門狭窄、糖尿病、高血圧、気管支喘息、アトピー性皮膚炎
ゲノム多様性で最も頻度が高いもの
一塩基バリアント
頻度が1%以上の一塩基バリアント
遺伝子多型、SNP (スニップ、single nucleotide polymorphism)or SNV (single nucleotide variant)
SNVのトランジションとは
同種の塩基の変異(A→G、T→C)
SNVのトランスバージョン
異なる塩基の変異(A→C、T→G)
CNV (Copy Number Variation)とは
1000塩基以上のゲノム上の領域の存在数(コピー数)に個人間の違いがある状態
“アルコールに対する強さ”に関連する有名な遺伝バリアント
rs671
eQTL (Expression Quantitative Trait Locus)
遺伝子発現量を調節するゲノム領域
エンハンサーやプロモーター、転写因子の結合などに影響される
疾患関連バリアントはアミノ酸をコードする領域に少ない
多くがeQTLを示す
多因子遺伝の遺伝要因の研究手法
症例対象関連解析(ケースコントロールスタディ)
GWAS(genome-wide association study)
症例対象関連解析(ケースコントロールスタディ)
疾患群とコントロール群とで遺伝バリアントのアレル頻度の差を統計学的に検定
GWAS(genome-wide association study)
全ゲノムを対象とした仮説を設定しない、バイアスのかからない関連解析
代表的なゲノムコホート(海外)
DeCODE(アイスランド、古い)
UK BioBank(最大規模)
FinnGen
代表的なゲノムコホート(日本)
BioBank Japan
Tohoku Medical Megabank Organization
Polygenic risk scoreとは
GWASにより疾患や形質との関連が示唆された数十~数千の遺伝バリアントの重み付きの和を個人ごとに計算したスコア
家族性高コレステロール血症の原因遺伝子
LDL受容体
アポリポ蛋白B
PCSK9
エピゲノムの定義
遺伝子配列を変更しない化学的な修飾による遺伝子の発現の制御・維持機構のこと
ヒストン修飾,DNA メチル化,RNA 修飾など
エピゲノムの種類
ヒストン修飾
DNAメチル化
RNA修飾
最も多く修飾を受けるヒストン
H3
ヒストンの修飾を調べる方法
クロマチン免疫沈降法
DNAメチル化の影響
転写抑制
クロマチン病
クロマチン関連遺伝子の変異による疾患
ゲノムインプリンティング
父由来遺伝子と母由来遺伝子のうち、一方の発現が選択的に抑制される現象
全胞状奇胎とは
核のない卵子と受精or精子同士が受精
全遺伝子が父由来
卵巣奇形腫とは
第一減数分裂後の卵子が自然に活性化し発生が進む
全遺伝子が母由来
インプリンティング異常症
1)遺伝学的変化(染色体に欠失や重複などの構造異常がある場合やインプリント遺伝子の変異がある場合)
2)インプリンティングの制御領域(ICR)のエピゲノム変化、メチル化異常
3)片親性ダイソミー
Angelman症候群 (AS)、Prader-Willi症候群 (PWS)
第15番染色体15q11-12領域に存在するインプリント遺伝子が関与
Angelman症候群 (AS)は母性欠失or父性欠失
母性欠失
Prader-Willi症候群 (PWS)は母性欠失or父性欠失
父性欠失
DOHaD
新生児期の成育環境が成長後の健康や疾病発症のリスクに影響を及ぼす現象
ヘテロプラスミー(異質性)
細胞内で正常ミトコンドリア遺伝子と変異をもつミトコンドリア遺伝子が混在した状態のこと
ヘテロプラスミーの閾値効果
ミトコンドリア遺伝子の変異率や変異を持ったミトコンドリアの割合が高くなり、ある一定レベル(閾値)を超えると、細胞、組織、臓器レベルで機能障害を呈する(発症)こと
集団遺伝学とは
ある集団の遺伝学的多様性の分布やある集団内あるいは異なる集団間での遺伝子や遺伝型の頻度がどのように維持され、あるいは時間とともに変化するか定量的に研究する学問
遺伝的多型
その座位において大多数を占めるアレルのほかに、マイナーアレルminor alleleが集団の中で1%以上ある状態
遺伝子領域のSNPの分類
調節領域(rSNP)
イントロン内(iSNP)
エクソン内のアミノ酸変化をもたらすSNP(cSNP)
アミノ酸変化をもたらさないSNP(sSNP)
適応度 ωとは
ある表現型を持つ個体の繁殖成功度
次世代へ子孫をどれだけ残せるかということ
個体が繁殖年齢まで生きる数と子を作る数に依存
自然淘汰とは
進化的変化の過程で、新しい適応を生み出す
自然淘汰は個体の適応度に差があるときに生じる
大きな集団でより高い効果が認められる
Hardy-Weinbergの法則
個体群におけるアレル頻度は世代が変わっても変化しない
Hardy-Weinbergの条件
・集団が無限大であること
・自然選択、突然変異、多集団との個体の交換がないこと
・任意交配であること
・遺伝型の違いによる生存力や妊孕力に差がないこと
遺伝的浮動 random genetic driftとは
集団の大きさがHardy-Weinbergの法則が成立するよりも小さな集団の場合、親の集団におけるアレル頻度と子の集団におけるアレル頻度が偶然性によって異なることがある
平衡淘汰
複数の対立遺伝子を残すようにはたらく自然淘汰。偶然や突然変異から予想される以上に複数の対立遺伝子頻度を高く保ち、集団の遺伝的多様性を維持する
ボトルネック効果
季節、飢餓による集団の激減や移住などにより個体数の少ない集団が新たに作られるときに、一時的に遺伝的浮動が大きくなり、その後、アレル頻度の異なる均質性の高い集団となってゆくこと
創始者効果
祖先のひとりがある遺伝病の原因遺伝子をもち、これが子孫の集団に広まることで、地域にその遺伝病が多発すること
単一遺伝子病(メンデル遺伝病)神経・筋疾患
Huntington病/ 脊髄性筋萎縮症(SMA)/ DMD
単一遺伝子病(メンデル遺伝病)骨・結合織疾患
軟骨無形成症/ Ehlers Danlos 症候群/ 骨形成不全(OI)
単一遺伝子病(メンデル遺伝病)代謝疾患
PKU/ Fabry病/ Wilson 病
単一遺伝子病(メンデル遺伝病)血液・免疫不全
鎌状赤血球症/ 血友病/ Wiskott-Aldrich症候群
単一遺伝子病(メンデル遺伝病)呼吸器
嚢胞線維症(CF)/ATT欠損
単一遺伝子病(メンデル遺伝病)家族性腫瘍
家族性大腸ポリポーシス/ 家族性乳がん/ Von Hippel-Lindau病
エピジェネテイック病UPD
常染色体の一方のアレルが欠如し、他方が相補的に重複
・Prader-Willi Syndrome
・Angelman Syndrome
エピジェネテイック病インプリンテイング
Beckwith-Wiedemann Syndrome
Silver-Russell Syndrome
エピジェネテイック病インプリント遺伝子異常と発現調節の相互作用
偽性副甲状腺機能低下症
遺伝学的検査の分類
染色体検査 遺伝子・塩基配列検査 病原体遺伝子検査 体細胞遺伝子検査 生殖細胞系列遺伝子検査
代謝レベルの治療法
食事療法
基質抑制療法 (SRT)
タンパク質レベルの治療法
酵素補充療法(ERT)
凝固因子補充療法
シャペロン療法
遺伝子レベルの治療法
造血幹細胞移植
肝移植(生体肝移植)
遺伝子治療
カール・ロジャーズの3条件
- 尊敬(無条件の肯定的配慮)
- 純粋性(⾃⼰⼀致)
- 共感的理解
ELSI(エルシー)とは
Ethical Legal and Social Issues(Implication)の頭⽂字:倫理的・法的・社会的課題と訳される
⽣命医学倫理の4原則
- ⾃律(Autonomy)
- 無危害(Non-maleficence)
- 善⾏(仁恵)(Beneficence)
- 公正(正義)(Justice)