古文2 Flashcards
昨日今日帝ののたまはむことにつかむ、人聞きやさし。
昨日や今日帝がおっしゃることに従うのは、人に聞かれて恥ずかしい。
迷ひを主として、かれに従ふ時、やさしくも、面白くも覚ゆべき ことなり。
迷いを主として、女の心に従う時、(女が)優美にも、趣深くも思われるはずのものである。
人ごとに折りかざしつつ遊べどもいやめづらしき梅の花かも
おのおのの人が折って飾りにしながら遊んでいるけれども、ますますすばらしい梅の花であるなあ。
人にもあらぬ身の上までかき日記して、めづらしきさまにもありなむ。
とるに足りない身の上話まで日記に書いて、(この日記は)めったにないことで もあるだろう。
かくて明けゆく空の気色、昨日に変はりたりとは見えねど、ひきかへめづらしき心地ぞする。
こうして明けてゆく空の様子は、 昨日と変わっているとは見えないが、打って 変わって目新しい気持ちがするものだ。
御心ばへいとなつかしう、おいらかにおはしまして、
(三条院は)お気だてがたいそう親しみが持て、おっとりとしていらっしゃって、
万の鳥獣、小さき虫までも、心をとめて有様を見るに、子を思ひ、 親をなつかしくし、夫婦を伴ひ、
あらゆる鳥や、小さい虫(に至る)までも、よく注意して(その)様子を見ると、 親が子を思い、子が親を慕わしく思い、夫婦が互いに連れ立って、
六代御前今年は僅かに十二にこそなり給へども、世の常の十四五 よりはおとなしく、
六代御前(平維盛の長男)は今年はわずか十二歳におなりであるが、世間の十四、五歳よりもおとなびていて、
少しおとなしき程になりぬる齢ながら、扱ふ人もなければ、さうざうしきを
少しは(私も) 思慮分別があるくらいになった年齢だが、世話する子もいないの で、寂しいことだよ。
返り事は、かしこなるおとなしき人して書かせてあり。
返事は、あちらの年配の侍女に書かせてある。
よろづにいみじくとも、色好まざらん男はいとうざうしく、玉 のさかずきの底なき心地ぞすべき。
万事にすぐれていても、恋愛の情趣)を解さないような男はたいそう物足りな く、玉の杯の底がないような気がするに違いない。
やうやう天の下にもあぢきなう人のもて悩み種になりて、
次第に世間でもおもしろくなく思われ、人の悩みの種となって、
あぢきなことに心をしめて、生ける限りこれを思ひ悩むべきなめり。
どうにもならないこと(恋)に心を一杯にして、生きている限りこれを思い悩まねばならないようだ。
おろかなる人の目を喜ばしむる楽しみ、またあぢきなし。
おろかな人の目を喜ばせるような楽しみも、またつまらない(無益だ)。
影すさまじき 暁月夜に、雪はやうやう降り積む。
(月の)光が殺風景な明け方の月景色に、雪は次第に降り積もってゆく。
遅桜またすさまじ。虫のつきたるもむつかし。
遅咲きの桜はまた(時節はずれで)興ざめだ。毛虫がついているのもわずらわし い。
人々の、花、蝶やとめづるこそ、はかなくあやしけれ。
人々が、 花よ蝶よと愛するのは、あさはかで不思議なことだ。
あやしき賤山がつも、力尽きて、
卑しい身分の低い者や森で木を切る人も、体力がなくなり、
取り難きものを、かくあさましくもて来ることをねたく思ふ。
取りにくいものを、このように驚きあきれるほどに持ってくることを、癪に思う。
暮るるまでかくたち騒ぎて、はては闘おこりて、あさましきことどもありけり。
日が暮れるまでこうして立ち願いで、ついには喧嘩が起こって、嘆かわしいことが多々あった。
いとはつらく見ゆれど、こころざしはせむとす。
たいそう(相手のことが)薄情に思われるけれど、お礼はしようと思う。