古文訳 Flashcards

1
Q

七日になりぬ。同じ港にあり。

A

七日になった。 同じ港にいる。

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2
Q

かくてもあられけるよと、あはれに見るほどに、

A

このようにしても住むことができるのだなあと、しみじみ見ているうちに、

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3
Q

一道にたづさはる人、あらぬ道のむしろにのぞみて、

A

何か一つの道に従事する人が、専門外 の道の席に出て、

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4
Q

御前に参りて、ありつるやう啓すれば、

A

中宮の御前に参上して、先ほどの次第を申し上げると、

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5
Q

ありありてかくはるかなる国になりにたり。

A

結局このように(都から)はるかに遠い国の国司)になってしまった。

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6
Q

ありもつかず、 いみじうもの騒がしけれども、いつしかと思ひしこ となれば、

A

落ち着かず、(家の中が)たいそう取り込んでいるけれど、早く(帰京したい)と思っていたことなので、

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7
Q

ありとある人は、みな浮雲の思ひをなせり。

A

あらゆる人は、みな浮雲のような(不安な)思いをしている。

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8
Q

(大夫の監)「おい、さり。おい、さり。」とうなづきて、

A

(大夫の監は)「おお、そうだ。おお、そうだ。」とうなずいて、

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9
Q

まことにやさぶらふらむ。さらば、いかにめでたからむ。

A

本当でございましょうか。 それなら、どんなにすばらしいことでしょう。

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10
Q

親の前に臥すれば、ひとり局に臥したり。さりとてほかへ行けば、 異心ありとて騒がれぬべし。

A

(乳母が児に添って)母親の前で寝るので、(乳母の夫は)ひとり乳母の局 に寝ている。そうかといって他所へ行くと、二心があると言って妻(乳母) からきっと騒がれるに違いない。

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11
Q

霜のいと白きもまたさらでも、いと寒きに、

A

霜がたいそう白い朝も、またそうでなくても、たいそう寒い朝に、

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12
Q

船に乗りては、楫取の申すことをこそ、高き山とたのめ、など、かくたのもしげなく申すぞ。

A

船に乗った時は、船頭申すことを、高い山のように(確かなものとして)あて にするというのに、どうして、このように頼りないことを申すのか。

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13
Q

待つ人はさはりありて、頼めぬ人は来たり、 たのみたる方のこと は違ひて、 思ひよらぬ道ばかりはかなひぬ。

A

待つ人はさしつかえがあって(来ずに)、 (来ることをこちらに)あてにさせない 人はやって来る、期待している方面のことははずれて、思いがけない方面のこ とだけはうまくいってしまう。

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14
Q

太刀うちはきて、かひがひしげなれば、たのもしくおぼえて、召し具して行くほどに、

A

馬子は)太刀を腰にさげて、頼もしそうなので、頼りになると思われて、 供に召し連れて行くうちに、

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15
Q

「笛つかうまつりて、御衣かづきてはべる。」と、持ておはしたり。

A

「笛をお吹き申し上げて、御衣を褒美として頂戴しました。」と言って、いただ いた衣を持っていらっしゃった。

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16
Q

御使ひに、なべてならぬ玉などかづけたり。

A

お使いには、並々でない美しい裳(礼装の際の衣服)などを、褒美として与えた。

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17
Q

かづきたる衣をうちのけたるを見れば、

A

かぶっていた着物を脱いだのを見ると、

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18
Q

春の夜はならひにかすむものなるに、四方の村雲うかれきて、 かづけどもかづけども、月おぼろにて見えざりけり。

A

春の夜は霞んでいるのが常である上に、四方から群雲が漂ってきて、水中にも ぐってももぐっても、月がおぼろで見えなかった。

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19
Q

春の夜はならひにかすむものなるに、四方の村かれきて、か づけどもかづけども、月おぼろにて見えざりけり。

A

春の夜は霞んでいるのが常である上に、四方から群雲が漂ってきて ぐってももぐっても、月がおぼろで見えなかった。

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20
Q

流るる水の気色こそ時をもわかずめでたけれ。

A

流れる水の様子は、四季を区別することなくすばらしい。

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21
Q

たまはせたる物おのおの分けつつ取る。

A

(大納言が)くださったものは各々分配しては取る。

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22
Q

ふりにける岩のたえ間より落ちくる水の音さへ、ゆゑびよしある 所なり

A

古びた岩の切れ目から落ちてくる水の音までも、何かわけがありそうで趣深い 所である。

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23
Q

今はかくふりぬる齢に、 よろづのことを忘られはべりにけるを、

A

今はこのように老いてしまった年齢で、すべてのことを自然と忘れてしまい したのに、

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24
Q

隔てなく馴れぬる人も、程へて見るは恥づかしからぬかは。

A

心の隔てなく慣れ親しんだ人も、時間がたって会うのは、気がねがな いことがあろうか、いや気がねされるはずだ。

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25
Q

ひたふるの世捨人は、なかなかあらまほしき方もありなん。 

A

一途に俗世間を捨てて仏道修行する人は、かえって好ましい面もきっとあるであろう。

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26
Q

鞠も、かたき所を蹴出だして後、やすく思へば必ず落つと侍るや らん。

A

蹴鞠も、むずかしい場合を(うまく)蹴当てたあと、やさしいと思うと必ず落ちるものと、(その道の教えに)ございますとか。

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27
Q

男女をば言はじ、女どちも、契り深くて語らふ人の、末まで仲よき人、かたし。

A

男女の間は言うまい、女同士でも、深い関係で親しく交際しあう人で、最後ま で仲がよい人はまれだ。

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28
Q

すべて神のこそ捨てがたくなまめかしきものなれや。

A

だいたい神社こそ捨てにくく優美なものであるよ。

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29
Q

遠き所より思ふ人の文を得て、かたく封じたる続飯などあくるほ ど、いと心もとなし。

A

遠い所から思い人の手紙をもらって、厳重に封をしてある飯粒の糊などを開ける間は、たいそう待ち遠しい。

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30
Q

月花はさらなり、風のみこそ、人に心はつくめれ。

A

月や花は言うまでもなく、風が特に、人にしみじみとした気持ちを起こさせる ようだ。

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31
Q

身のあきを思ひ乱るる花のうへの露の心はいへばさらなり

A

(私はあなたに)飽きられた身のつらさに思い乱れている。花の上に置く はかない露のような気持ちは、とても言葉で言い尽くせない。

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32
Q

さらにもあらず、 一百九十歳にぞ、今年はなり侍りぬる。

A

言うまでもなく、(私は)百九十歳に、今年はなりました。

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33
Q

もとの品、時世のおぼえうちあひ、やむごとなきあたりの、うちう ちのもてなしけはひ後れたらむは、さらにも言はず、何をしてかく 生ひ出でけむと言ふかひなくおぼゆべし。

A

もとの家柄と、今の世間の評判とがつりあっていて、高貴な家柄の姫) で、実際の物腰や雰囲気が(他の女より) 劣っているようなのは、言うま でもなく、どうしてこのように育ったのだろうかとつまらなく思われる でしょう。

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34
Q

「少納言、香炉峰の雪いかならむ。」と仰せらるれば、格子あ げさせて、御を高くあげれば、笑はせ給ふ。

A

「少納言、香炉峰の雪はどうだろうか。」と(中宮様が)おっしゃるので、御格 子を上げさせて、御簾を高く上げたところ、(中宮様は)お笑いになる。

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35
Q

徳大寺にもいかなるゆえか侍りけん。

A

徳大寺でもどんな理由があったのでしょうか。

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36
Q

「いかにせむ。」とばかり言ひてものも言はれずなりぬ。

A

「どうしようか。」とだけ言って、後は何も言えなくなってしまった。

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37
Q

いとどなよなよと我かの気色にしたれば、いかさまにと思しめしまどはる。

A

(更衣は)いっそうなよなよとして正体もない有様で横になっているの ではどのように(したものか)と途方にくれていらっしゃる。

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38
Q

「いかやうにかある。」と問ひ聞こえさせ給へば、

A

「どのようであるか。」とお尋ね申し上げなさると、

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39
Q

かく人に恥ぢらるる女、いかばかりいみじきものぞと思ふに、女の 性はみなひがあり。

A

このように男性に気後れされる女(というもの)が、どれほどすばらしい ものかと思うと、(実は) 女の本性はみなねじけている。

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40
Q

うちなびく春の柳とわが宿の梅の花とをいかにか分かむ

A

うちなびく春の柳(たおやかさ)と私の家の梅の花(のみやびやかさ)とをどうして優劣の区別がつけられようか、いやつけられない。

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41
Q

徒歩路もまた恐ろしかなれど、それは、いかにもいかにも地に着きたれば、いとたのもし

A

徒歩もまた恐ろしいもののようだが、それは、どうにでもどうにでも地 面に(足が)着いているので、たいそう頼りになる。

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42
Q

同じ古言と言ひながら、知らぬ人やはある。ただここもとにおぼえながら、 言ひ出でられぬはいかにぞや。

A

同じ古歌というものの、知らない人があろうか、いやいない。ただも とまで思い出しているのに、言い出せないのはどういうことか。

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43
Q

いかにして聞き給ひけることにあらむと、思へども思へどもいとあやし。

A

どのようにして(あの人は歌のことを)お聞きになったのであろうかと、 考えても考えてもたいそう不思議である。

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44
Q

義仲都にていかにもなるべかりつるが、これまで逃れくるは、汝と 一所で死なんと思ふ為なり。

A

(私)義仲は都で死ぬはずだったが、ここまで逃げてきたのは、お前と同 じ所で死のうと思うためである。

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45
Q

つゆも、物空にかけらばふと射殺し給へ。

A

わずかでも、何か空を走ったなら、さっと射殺してください。

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46
Q

木の葉に埋もるる覚のしづくならでは、つゆおとなふものなし。

A

木の葉に埋もれる算(水をひく樋)のしずく以外には、全く訪れるものも音を立 てるものもない。

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47
Q

ただ涙にひちて明かし暮らさせ給へば、見たてまつる人さへ露けき秋なり。

A

(帝はただ涙に濡れて昼夜お暮らしになるので、(それを)拝見する人まで涙がちになる秋である。

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48
Q

目さめぬれば、幾夜も寝れず、心をすまして、うそぶきありきな ど、世の常ならぬ様なれども、人に厭はれず、よろづ許されけり。

A

(この僧は)目が覚めてしまうと、幾晩も寝ないで、心の濁りをなくし、詩歌を じて歩き回るなど、世間の普通の様子ではないけれども、人に嫌われず、すべてが許された。

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49
Q

よろづ自由にして、おほかた人に従ふといふことなし。

A

何事につけて自由気ままであって、全然人に従うということがない。

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50
Q

何事につけて自由気ままであって、全然人に従うということがない。

A

だいたいは住居によって、(持ち主の性格など)事の様子は推測されるものだ。

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51
Q

人を遣りて見するに、おほかた逢へる者なし。

A

人をやって見させたところ、全然(うわさの鬼に)会っている者はいない。

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52
Q

おぼかた、この所に住みはじめし時は、あからさまと思ひしかども 今すでに五年を経たり。

A

そもそも、この所に住み始めた時は、ほんのしばらく(ちょっとの間)と思ったけれども、今までにもう五年が経過している。

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53
Q

かねてのあらまし、皆違ひゆくかと思ふに、おのづから違はぬこ ともあれば、いよいよ物は定めがたし。

A

以前からの予想が、みなはずれてゆくかと思うと、たまにははずれないことも あるので、ますます物事というのは一概には決めにくい。

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54
Q

ただ亡からむのちのあらましごとを、明け暮れ思ひ続け給ふに、も の心細くて、

A

ただ(自分が)亡くなった後の将来のことを、明け暮れ思い続けなさるに つけても、何となく心細くて、

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55
Q

夕陽に子孫を愛して、 栄ゆく末を見んまでの命をあらまし、

A

夕日のように傾きかけた年齢で子や孫を愛して、(それが)栄えてゆく先 を見るまでの命を期待して、

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56
Q

ただ言ふ言葉も、口惜しうこそなりもてゆくなれ。

A

直接言う言葉も、だんだん情けなくなってゆくようだ。

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57
Q

ただ今日も君には逢はめど人言を繁みはずて恋ひわたるかも

A

すぐに今日にもあなたに逢おうと思うけれど、人の噂がうるさいので逢わずに恋しく思い続けることだなあ。

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58
Q

おごれる人も久しからず。ただ春の夜の夢のごとし。

A

おごり高ぶっている人も長くは続かない。ちょうど春の夜に見る夢のようだ。

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59
Q

ただなる人にはよもあらじ。

A

普通の人ではまさかあるまい。

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60
Q

ものふりたる森のけしきもただならぬに、玉垣しわたして、 綿かけたるなど、いみじからぬかは。

A

何となく古びた森の趣も並々でない気配がする上に、玉垣を結いめぐらして、榊に木綿をかけてあるのなど、すばらしくないだろうか、いやすばらしい。

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61
Q

さは言へど、上戸はをかしく罪許さるるものなり。

A

そうは言っても、酒飲みはおもしろく、(多少の)罪は許されるものである。

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62
Q

「背ける甲斐なし。さばかりならばなじかは捨てし。」など言はんは、むげのことなり。

A

「(そんなことでは)世を捨てている甲斐がない。その程度であるならど うして世を捨てたのか。」などと言うのは、全くひどいことである。

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63
Q

下様より事起こりて、させる本説なし。

A

下層階級から(そのような)風習が始まって、たいした根拠はない

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64
Q

などさは臆せしにか、すべて、おもてさへ赤みてぞ思ひ乱るるや。

A

どうしてそのようには気後れしたのであろうか、全く、顔まで赤くなって途方に暮れることだよ。

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65
Q

形にはづる所もあれば、さはいへど、悪にはうとく、善には近づくことのみぞ多き。

A

(剃髪や法衣などの)形を恥ずかしく思うこともあるので、そうは言って も、悪には遠く、善には近づくことだけが多い。

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66
Q

たえてことづてもなし。さながら六月になりぬ。

A

全く音沙汰もない。そのまま旧暦六月になってしまった

67
Q

さはれ、さまでなくとも、 言ひそめてむことはとて、かたうあらがひつ

A

ままよ、そうまでなくても、いったん言い始めたことはと思って、頑固 に争った。

68
Q

何事も、入りたたぬ様したるぞよき。よき人は知りたることとて、 さのみ知り顔にやは言ふ。

A

何事も、立ち入って深くその道に通じていない様子をしているのがよい。 身分教養のある人は、知っていることといって、そうばかり物知り顔に 言うだろうか、いや言わない。

69
Q

太郎君は福足君と申ししを、をさなき人はさのみこそはと思へど、 いとあさましうまさなう、あしくぞおはせし。

A

ご長男は福足君と(世間で)申し上げたが、幼い子はそんなものだと思うけれ ども、(この君は)本当にあきれるほどに腕白で始末が悪くていらっしゃった。

70
Q

必ず心惑ひし給はむものぞと思ひて、今まで過ごしりつるなり。 さのみやはとて、うち出で侍りぬるぞ。

A

きっと(翁たちが)心をお乱しになるだろうと思って、今まで(黙って)過 ごしてきたのです。(しかし)そうばかり黙って過ごせようか、いや過ご せないと思って、口に出してしまったのです。

71
Q

宮へ人、さならぬ人のむすめなども、はからるるあり。

A

宮仕えの女、またそれほどでない人の娘なども、この男にだまされる 者がいる。

72
Q

後七日の阿闍梨、武者を集むること、いつとかや、盗人にあひに けるより、宿直人とて、かくことごとしくなりにけり。

A

(宮中で)後七日の御修法)の導師が、武士を集めることは、いつであったか、 (御修法中に)盗人にあってしまった時から、宿直人(警護の者)といって、この ように大げさになってしまった。

73
Q

など、かからでよき日もあらむものを、何しに詣でつらむとまで、 涙も落ちて休み困ずるに、

A

どうして、このよう(な日)でなく(ほかに)よい日もあるだろうに、何の ために詣でたのだろうかとまで(思い)、涙も落ちて疲れきって休んでい るところに、

74
Q

さらにさて過ぐしてむと思されず。

A

全くそのまま過ごしてしまおうとはお思いになれない。

75
Q

さての人々は皆しがちに、鼻白める多かり。

A

(源氏に続く)ほかの人々は皆おどおどして、気後れしている者が多い。

76
Q

さて冬枯れのけしきこそ秋にはをさをさ劣るまじけれ。

A

ところで冬枯れの景色の様子こそ、秋に比べてその情趣深さは)ほとんど劣ら ないであろう。

77
Q

鬼の顔などのおどろおどろしく作りたるものは、心にまかせてひと きはおどろかして、実には似ざらめどさてありぬべし。

A

鬼の顔などの大げさにこしらえた絵は、空想にまかせて際立てて人の目 を驚かして、実際は似てはいないが、(それはそれで)そのままでよいだ ろう。

78
Q

さても、かばかりの家に、車入らぬ門やはある。

A

それにしても、これほどの家に、車の入らないような門があるだろうか。

79
Q

さてもやはながらへ住むべき。

A

そのままでいつまでも生き長らえて住むことができようか、いやできない。

80
Q

清げなる大人二人ばかり、さては童べぞ出で入り遊ぶ

A

美しい大人(女房)が二人ほどと、それから女の子が出たり入ったりして遊んでいる。

81
Q

さてしもあらぬならひなれば、同じ十七日に、御わざのことせさせ給ふ。

A

そのままにしておけないしきたりなので、同じ十七日に、御葬送の儀式 を執り行いなさった。

82
Q

あはれ、さも寒き年かな。

A

ああ、いかにも寒い年だなあ。

83
Q

古は出家をも、天皇の許されなくては、たやすくすることなかりければ、さもねむごろに祈り請ひけるなりけり

A

昔は出家をするのも、天皇の許しがなくては、簡単にすることはなかったので そのように一途に祈り求めたのだった。

84
Q

天暦の帝は、いとさも守り奉らせ給はず。

A

天暦の帝は、たいしてそれほど厳重にはご守護申し上げなさらない。

85
Q

人の言ふことなれば、さもあらんとて、

A

人の言うことだから、そうもあろうと思って、

86
Q

なほかかる御住まひなれど、年比といふばかり馴れ給へるを、今は とおぼすさもあることぞかし、

A

やはりこんなお住まいであるが、長年というほど住み慣れていらっしゃっ たので、これが最後と悲しく) お思いになるのはもっともなことだよ、

87
Q

「なほこれを焼きて試みむ。」と言ふ。翁、「それ、さも言はれたり。」と言ひて

A

(姫が)「やはりこれ(火鼠の皮衣)を焼いて(真偽をためしてみよう。」と 言う。翁は、「それは、いかにも言われる通り(もっとも)だ。」と言って、

88
Q

「子ゆゑにこそ、万のあはれは思ひ知らるれ。」と言ひたりし、さも ありぬべきことなり。

A

「子どもによってこそ、何事につけてもしみじみとした情味は身にしみ 自然と思い知られるのです。」と言っていたのは、いかにもそうに違い ないことである

89
Q

通らんと思ひつれども、さもあれ、 けふは通らで、あす通らんと思 ふなり。

A

ただとにかく通ろうと思ったけれども、ままよ、今日は通らずに、明日 通ろうと思うのだ。

90
Q

さもあらばあれ暮れゆく春も雲の上に散ること知らぬ花し匂はば

A

どうにでもなれ、暮れてゆく春も宮中に散ることを知らない花が美し く咲いているならば。

91
Q

「直実に押し並べて、組めや組め。」と言ひけれども、「さもさうず。」とて引つ返す。

A

(熊谷次郎直実は)「(この)直実に(馬を)並べて、取っ組めよ取っ組めよ。」 と言ったけれども、(敵は)「とんでもないことです。」と言って引き返す。

92
Q

陪従はさもこそはといひながら、これは世になきほどの猿楽なりけり。

A

地下の祭りの楽人は、いかにもその通りだ いえつな ゆきつな こっけい (滑稽なことをして人を笑わせるものだとは言うが、この(家綱・行綱の兄弟は、世に比類ないほどの猿楽者であった。

93
Q

女、人をしづめて、子一つばかりに、男のもとに来たりけり。男はた、寝られざりければ、

A

女は、人を寝静まらせてから、子の一刻の頃(午後十一時過ぎ頃)に、男の所に やって来た。 男もまた、眠ることができなかったので、

94
Q

数よりほかの大納言なさむことは難し。人のはたとるべきにあらず。

A

定員の人数以外の大納言に任じることはむずかしい。人の地位をそれでもやは り取り上げるわけにもいかない。

95
Q

いかに老いさらぼひて有るにや、はた死にけるにや。

A

(今は)どんなに老いぼれているだろうか、それとも死んでしまっただろうか。

96
Q

もしこれ貧賤の報いのみづから悩ますか、はたまた妄心のいたりて狂せるか。

A

もしやこれは、(宿業である) 貧賤の報いが自分を悩ましているのか、それ ともまた、分別心などの)迷いの心が高じて(自分を)狂わせているのか。

97
Q

心にも思へること、常のことなれど、よにわろく覚ゆるなり。

A

心中にも思っていることは、普段よくあることではあるが、たいそうみっともなく思われるものである。

98
Q

文はよに見たまはじ。

A

手紙では決してご覧にならないだろう。

99
Q

なほ、この女見ではよにあるまじき心地のしければ、

A

やはり、この女と結婚しなくてはこの世に生きていることができそうも ない気持ちがしたので、

100
Q

橘の葉の濃く青きに、花のいと白う咲きたるが、雨うち降りたるつ とめてなどは、世になう心ある様にをかし。

A

橘の葉が濃く青いところに、花がたいそう白く咲いているのが、雨の降っ ている早朝などは、世にたぐいないほど情趣がある様子でおもしろい。

101
Q

なほあはれがられてふるひ鳴き出でたりしこそ、よに知らず、をかしくあはれなりしか。

A

やはり、(犬が人から)かわいそうに思われて、震えて鳴きながら出て来たの は、たとえようがないほど、おもしろくもしみじみと感動したことであった。

102
Q

この御社の獅子の立てられやう、さだめてならひあることに侍らん。ちと承らばや。

A

この神社の獅子の立てられ方は、きっといわれがあることでしょう。ちょっと おうかがいしたいものです。

103
Q

よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたる例なし。

A

(流れの)停滞している所に浮かぶ泡は、一方では消え、また一方ではできて、 (泡がそのままの姿で) 長い間とどまっているという例はない。

104
Q

かつ聞き給ひてもあるらん。

A

すでにお聞きになっているでしょう。

105
Q

かつあらはるるをも顧みず、口に任せて言ひ散らすは、やがて浮 たる例なし。 きることと聞こゆ。

A

すぐにばれてしまうのに気付かず、口から出まかせに言い散らすことは、すぐ に根拠のないこととわかる。

106
Q

ただ、海に波なくして、いつしか御崎といふ所わたらむとのみな む思ふ。

A

ただ、海に波がなくなって、早く御崎という所を通り過ぎようとばかり思う。

107
Q

玉匣いつしか明けむ布勢の海の浦を行きつつ玉藻拾はむ

A

いつ夜が明けるのだろうか。(夜が明けたら) 布施の海の入江を行っては玉藻を 拾おう。(玉匣は「明く」にかかる枕詞。)

108
Q

「問ひつめられて、え答へずなり侍りつ。」と諸人に語りて興じき。

A

(父は)「(息子に) 問いつめられて、答えることができなくなりました。」と人々 に話しておもしろがった。

109
Q

夜ごとに人をすゑて守らせければ、行けどもえ達はで帰りけり。

A

(男の通う場所)に毎晩番人を置いて守らせたので、(男は)行ってもいつも会う ことができなくて帰った。

110
Q

夜ごとに人をすゑて守らせければ、行けどもえ達はで帰りけり。

A

(男の通う場所)に毎晩番人を置いて守らせたので、(男は)行ってもいつも会う ことができなくて帰った。

111
Q

さりとも、見つくるをりも侍らむ。さのみもえ隠させ給はじ。

A

そうはいっても、(犬を)見つける時もございましょう。そうばかりもお隠しに なることはできないでしょう。

112
Q

えさらぬことのみ、いとど重なりて、事の尽くる限りもなく、思ひ立つ日もあるべからず。

A

避けられないことばかりが、ますます重なって、事がなくなるという際 限もなく、仏道修行を思い立つ日もあるはずがない。

113
Q

今も詠みあべる、同じ詞、歌枕も、昔の人の詠めるは、さらに同 じものにあらず。

A

今も互いに詠んでいる、同じ用語や歌枕も、昔の人が詠んでいるのは、決して同じものではない。

114
Q

身の後の名残りて、さらになし。

A

死後に名声が残っても、全然利益はない。

115
Q

いと見苦しきこと。 さらにえおはせじ。

A

たいそうみっともないこと。決していらっしゃることはできないでしょう。

116
Q

さやうの方に、さらにえ候ふまじき身になむ。

A

(私は)そのような(和歌の)方面には、全く参加申し上げることができそうもない身の上です。

117
Q

さらに聞こえ給ひそ。

A

決して申し上げなさらないでください。

118
Q

もとのすみかに帰りてぞ、さらに悲しきことは多かるべき。

A

(山里から) もとの住居に帰って、いっそう悲しいことが多くあるだろう。

119
Q

雪こぼすがごと降りて、ひねもすにやまず。

A

雪が器の水をこぼすように降って、一日中やまない。

120
Q

日一日、夜一夜、とかく遊ぶやうにて、明けにけり。

A

(昼は)一日中、(夜は)一晩中、あれこれ音楽を奏するようにして、夜が 明けてしまった。

121
Q

ひとひ召し侍りしにやおはしますらむ。

A

先日お召しになりました方でいらっしゃいましょうか。

122
Q

夜もすがらいみじうののしりつる儀式なれど、

A

一晩中たいそう盛大であった儀式ではあるが、

123
Q

おし起こして、せめて物言ふこそ、いみじうすさまじけれ。

A

ゆり起こして、無理に話しかけてくるのは、ひどく興ざめだ。

124
Q

いとせめて恋しき時はむばたまの夜の衣をかくしてぞきる

A

たいそうひどく恋しい時は(夢に恋しい人が見えるというので)夜の衣を裏返し に着て寝ることよ。(「むばたまの」は「夜」にかかる枕詞。)

125
Q

かまへて、僻事なりけりと聞こえなして、もて隠し給へ。

A

何とかして、(それは)間違いだったと申し訳して、(私を)隠してください。

126
Q

かやうの物をば、かまへて調ずまじきなり。

A

このようなもの(狐)を、決していたぶってはならないのである。

127
Q

亡き人の宿に通はば時鳥かけて音にのみなくと告げなむ

A

亡くなった人の家に通うならば、 時鳥よ、あの人のことを心にかけて声をあ げて泣いてばかりいると告げてほしい。

128
Q

かけてこそ思はざりしかこの世にてしばしも君に別るべしとは

A

決して思わなかった。この世でしばらくでも父上と別れようとは。

129
Q

ここはけしきある所なめり。 ゆめ寝ぬな。れうがいのことあらむ に、あなかしこ、おびえ騒がせ給ふな。

A

ここは気味が悪い所であるようだ。決して眠るな。思いがけないことがあって も、決して、脅え騒いだりなさるな。

130
Q

落窪の君とゆめ知らず、また一所に参りつどはむことともゆめ知 らで、みなおのおの隠しささめきなむしける。

A

落窪の姫君とは全く知らずに、また(女たちが)同じ所に参上して集まるような こととも全く知らずに、めいめいが秘密にしてひそひそ話をした。

131
Q

御方々の御宿直などもたえてし給はず、ただ涙にひちて明かし暮 らさせ給へば、見たてまつる人さへ露けき秋なり。

A

(帝は)ご婦人方のお泊まりなども全くお命じにならず、ただ涙に浸って夜を明 かし日を暮らしておいでなので、拝見する人まで涙がちの秋である。

132
Q

過ぎにし方のことは、たえて忘れはべりにし、かやうなること をおぼし急ぐにつけてこそ、ほのかにあはれなれ。

A

過ぎ去ったことは、完全に忘れてしまいましたのに、このような衣装をご準備 なるのにつけても、なんとなくしみじみとした気持ちです。

133
Q

冬枯れのけしきこそ秋にはをさをさ劣るまじけれ。

A

冬枯れの景色の様子こそ、秋に比べて(その情趣深さは)ほとんど劣らないであ ろう。

134
Q

かしこさをさしきやうにも聞こえむこそよからめ。

A

恐れ多い。しっかりした様子で、(ご返事を)申し上げるのがよいだろう

135
Q

声高になのたまひそ。 屋の上にる人どもの聞くに、いとまさな (竹取) し。

A

大声でおっしゃってくれるな。屋根の上にいる人たちが聞くと、たいそうみっ ともない。

136
Q

「誰かかかることをさへ言ひ知らせけむ。「それ、さなせそ。」と語 らふなり。」とのたまふ。

A

「だれがこんなことまで(あなたに)言って知らせたのでしょう。 「それを、そう はしてくれるな。」と話しているのです。」と頭の弁は)おっしゃる。

137
Q

かの国の人来なば、猛き心使ふ人も、よもあらじ。

A

あの国(月の都)の人がやって来たならば、勇ましい心を使う人も、まさかいな いだろう。

138
Q

門は物忌ならばよもあけじ。ただ声をだに聞きてば、必ずふ験 ありなん。

A

門は物忌ならよもや開けまい。 ただ声だけでも聞いたなら、必ず呪う効き目は きっとあるだろう。

139
Q

その心に随ひてよく思はれんことは、心うかるべし。 されば、何かは女のづかしからん。

A

女の思う通りに(男が)行動して(女に)よく思われるようなのは、不愉快であろ う。だから、どうして女に気後れしようか、いや気後れすることはない。

140
Q

こは、されば、何事さぶらぶぞや。

A

これは、いったい、何事でございますか。

141
Q

いとかく情けなからずもがなと見る。 されば、宮の御心あかぬところなく、

A

(女房たちは)本当にこのように無風流でなくあってほしいと思います。ところ で、中宮様のお心は不満なところはなく、

142
Q

やうやうまた日数過ぎゆく。さればよと思ふに、ありしよりもけに、物ぞ悲しき。

A

(夫の来訪がないまま)次第にまた日数が過ぎてゆく。 やはり思った通り だと思うと、以前よりもいっそう、もの悲しい。

143
Q

望みて預かれるなり。 さるは便りごとに物もたえず得させたり。

A

(先方が望んで(家を)預かったのだ。そうはいってもついでの度にお礼の物もたえず与えていた。

144
Q

ねびゆかむ様ゆかしき人かな、と目とまり給ふ。さるは、限りなう心を尽くしきこゆる人にいとよう似たてまつれるが守らるるな りけり、と思ふにも涙ぞ落つる。

A

成長してゆく様子を見届けたい人だよ、と(源氏は若紫に)目がおとまりになる というのは、この上なく思いをお寄せ申し上げる人にたいそうよく似申し上げ ているのが、自然と目をひきつけられるのだなあ、と思うにつけても涙がこぼ れる。

145
Q

昔、男女、いとかしこく思ひかはして、異心なかりけり。さるを、いかなることかありけむ、

A

昔、男と女が、たいそう深く愛し合って、他に心を移すことがなかった。 ところが、どんなことがあったのであろうか、

146
Q

昔、男女、いとかしこく思ひかはして、異心なかりけり。 さるを、いかなることかありけむ、

A

昔、男と女が、たいそう深く愛し合って、 他に心を移すことがなかった。ところが、どんなことがあったのであろうか、

147
Q

人やりならずものさびしげにながめ暮らし給ふ。

A

(源氏は)(だれのせいでもなく自分のせいでうら寂しそうに物思いに沈んで過 ごしていらっしゃる。

148
Q

人やりならぬわざなれば、とひとぶらはぬ人ありとも、夢につらくなど思ふべきならねば、

A

自ら求めてのこと(山籠もり)であるから、訪ねたり見舞ったりしてくれない人 があっても(してくれる人がいなくても)、決して恨めしくなど思うはずのこと ではないので、

149
Q

まして、その数ならぬ類、尽くしてこれを知るべからず。

A

まして、その取るに足りない類の者(の亡くなった数)は、数え上げてこれを知 ることもできない。

150
Q

女御 「かく数まへ給ひて、立ち寄らせ給へること。」と喜びきこえ 給ふさま、書き続けむもうるさし。

A

女御が、「このように人並みに扱ってくださって、お立ち寄りくださったこと。」とお礼申し上げなさる様子は、(こうして)書き続けるのもわずらわしい。

151
Q

いはけなき鶴の一声聞きしより葦間になづむ舟ぞえならぬ

A

幼い鶴(若紫)の一声を聞いた時から、葦の間で行き悩む舟(源氏)は並たいてい でない(並一通りでない)(ほど恋しく思われる)。

152
Q

多くのたくみの、心をつくして磨きたて、唐の、大和の、めづら しく、えならぬ調度ども並べ置き、

A

大勢の大工が、思いの限り美しく磨きたて、唐渡りのもの(唐から渡来したもの) や、日本のものや、珍しく、何とも言えないほどすばらしい数々の調度類を並 べ置いて、

153
Q

「これは、とあり、かかり。それが、かれが。」などのたまはす。

A

「これは、ああだこうだ。 それが、あれが。」などとおっしゃる。

154
Q

忘れがたく、口惜しきこと多かれど、え尽くさず。 とまれかうまれ、 (土佐) とく破りてむ。

A

忘れがたく、残念なことが多いけれど、書き尽くすことはできない。と もかくも、早く破ってしまおう。

155
Q

たづかなき雲井にひとりねをぞ泣くつばさ並べし友を恋ひつつ

A

頼りのない宮中でひとり声をあげて泣いている。翼を並べた(共に出仕した) 友を恋い慕いして。

156
Q

繁りゆく蓬が露にそほちつつ人にとはれぬ音をのみぞ泣く

A

荒れ果てた庭の)繁ってゆく蓬の露に濡れながら、だれにも訪ねられない私は、声をあげて泣いてばかりいる。

157
Q

君はものもおぼえ給はず、われかの様にておはし着きたり。

A

(源氏の)君は何もお考えにはなれず、正気を失った有様で(二条院へ) お着きになった。

158
Q

はしたなきもの、こと人を呼ぶに、われかとてさし出でたる者。

A

間が悪いもの、(それは)別の人を呼ぶのに、自分のことかと思って顔をさし出 した者。

159
Q

この女君いみじくわななきまどひて、いかさまにせむと思へり。 汗 もしとどになりて、われかのけしきなり。

A

この女君(夕顔の君)はたいそうひどくわなわなと震えて、どうしようかと思っている。汗もびっしょりになって、正気を失った様子である

160
Q

人はしづまりぬらん。さりぬべきものやあると、いづくまでも求 め給へ。

A

人はきっと寝静まっているだろう。 適当なものがあるかどうか、どこまでも捜してください。

161
Q

なほさりぬべからむ人のむすめなどは、さしまじらはせ、世のあ りさまも見せならはさまほしう、

A

やはりそれ相当なような(身分の)人の娘などは、宮仕えをさせ、世間の様子も見習わせたく、

162
Q

御臨終の御時、 別れ路に迷ひしも、やるかたなくぞおぼえける。

A

ご臨終の御時に、別れの悲しみに取り乱したが、心のしようがなく思われ た。

163
Q

万に、過ぎにし方の恋しさのみぞせんかな。

A

すべてにおいて、過去を恋しく思う気持ちだけはどうしようもない。

164
Q

海賊のひたぶるならむよりも、かの恐ろしき人の追ひ来るにやと 思ふに、せむかたなし。

A

海賊が無茶で乱暴なのよりも、あの恐ろしい人(大夫の監)が追って来るのであろうかと思うと、我慢できない。