企業経営理論 Flashcards

1
Q

シナジー(経済的効果)3種類

A

複数の関連する要素を結びつけて、各要素の持つ力の総和を超えた力を出す相乗効果のことをいいます。シナジーはメリットばかりではありません。シナジーには、プラスの相乗効果だけではなく、マイナスの相乗効果もあることに注意する必要があります。

●販売シナジー:販売組織や、流通経路、倉庫、広告などの共同利用による経済的効果
 流通チャネル、販売管理組織、広告・販売、ブランドなどを共有することにより得られます。

●操業・生産シナジー:生産設備や、原材料(仕入)、技術、製品開発などの共同利用による経済的効果
 生産設備、生産要員、原材料の一括大量仕入れなどや、機械設備、原材料用倉庫などを共有することにより得られます。

●マネジメント・シナジー:経営能力、管理能力の共同利用による経済的効果
 経営管理ノウハウやスキル、総合的な管理上の制度などを共有することにより得られます。

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2
Q

多角化戦略の種類

A

多角化戦略の基本分類として関連型多角化と非関連型多角化があります。

◆関連型多角化:企業を構成する各SBU(戦略事業単位)が経営資源を共有する多角化です。共有される経営資源には、開発技術、流通チャネル、生産技術、管理ノウハウ等があります。新たに進出する事業が既存の事業に関連性があるもので、既存事業と新規事業間のシナジー効果から、高い収益性をもたらします。
関連多角化の場合、何らかの既存の経営資源を利用するので、まったく未知の分野に進出する場合に比べて、個々の進出先事業自体のビジネス・リスクは小さいといえます。しかし、複数の事業の関連性が強ければ強いほど、好不況の波が同時に来る可能性が高く、複数の事業が同時に不振に陥る危険性も高いので、企業全体のリスクは高いといえます。

◆非関連型多角化:きわめて一般性の高い経営管理スキルと財務資源以外、企業を構成するSBU間の関連性が希薄な多角化です。従って、全くシナジーを得ることができません。相補(コンプリメント)効果、ポートフォリオ効果を得るために行います。リスクを分散させポートフォリオ効果を得ることが目的ですので、関連多角化と比べて、企業全体としてのリスクは低いものとなります。しかし逆に、個々の進出先事業自体のビジネス・リスクは大きいものとなります。なぜなら、新しい進出分野は従来の事業と何ら関係のない分野となるので、その事業で必要な技術や経験やノウハウが不足しがちとなるからです。

多角化戦略を理解するために多角化の効果を理解する必要があります。多角化の効果には、相乗(シナジー)効果と相補(コンプリメント)効果があります。

相乗(シナジー)効果:複数の事業の組み合わせによる情報的資源の同時多重利用によって発生する効果で、掛け算的効果といいます。複数の関連する要素を結びつけて各要素の持つ力の総和を超えた力を出す相乗効果で、企業が事業活動を通じて蓄積してきた経営資源が他の事業に共通に利用することができ、事業が効率的になるときに、このシナジー効果が発揮されます。

ポートフォリオ効果:資源を分散することによって全体としてのリスクが低減する効果をポートフォリオ効果といいます。複数の事業の間でポートフォリオ効果が得られるためには、できるだけ相互に関連性のない分野に進出することになります。すなわち、1つの企業が複数の事業を営み、ある事業が不振に陥っても他の事業の収益でそれを補填することができるようにしておくわけです。

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3
Q

アンゾフの成長ベクトルにおける多角化戦略

A

水平型多角化:現在の顧客と同じタイプの顧客を対象にして、新製品を投入する多角化。
垂直型多角化:現在の製品の川上や川下に対する多角化。
集中型多角化:現在の製品とマーケティングや技術の両方、またはどちらか一方に関連がある新製品を新たな市場に投入する多角化。
集成型多角化:コングロマリット型多角化ともいい、現在の製品と既存の市場の両方にほとんど関連がない中で、新製品を新しい市場に投入する多角化。

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4
Q

プロダクト・ポートフォリオ・マトリックス

A

BCGの開発したPPMは、複数事業や複数製品を持つ企業が事業や製品間の経営資源(資金)の獲得、投資を管理するための手法です。ヒト、モノ、カネ、情報という経営資源のうち、カネについてみたものであり、情報についてみたものではありません。縦軸に市場成長率をとり、横軸に相対的市場シェアをとった4つのセルで表現される。

縦軸の市場成長率は、市場の成熟度を示しており、PLC(製品ライフサイクル)の考え方が適用されています。PLCにおいて、成熟期にある製品(事業)のみが他の資金供給源になります。また横軸の相対的市場占有率では、経験曲線効果の考え方が適用されています。経験曲線効果ではシェアが高い製品(事業)ほど他の資金供給源になります。

PPMの意義は、投下資本利益率(ROI)で判断すると切り拾てられてしまう「問題児」に、 企業全体の長期的バランスの観点から将来の資金源を育成するために投資を行うという戦略的な行動を理論化した点にあります。

一方、PPMは、新規事業開発に関して具体的な戦略を提供することができないという問題点があります。現在のデータの分析に過ぎないので、将来の事業戦略を策定するのは難しく、新規事業に適用することができないわけです。この他に、PPMの問題点には、財務の視点しか考えていない、「負け犬」とされた事業部における従業員のモラール(やる気や士気)が低下するおそれがあるなどが挙げられます。

PPMの実務的な問題は、いかに将来の「花形」となる「問題児」事業を探り当てるかにあります。
一方で、「負け犬」事業からの撤退も実務的には困難が伴います。例えば、事業に用いられている経営資源を今後どのように活かせばいいのか、過去のトップマネジメントの肝いりで手掛けた事業である場合における忖度等が撤退の障害になることがあります。

また、PPMは事業間シナジーを考慮していないため、例えば「花形」事業と事業間シナジーがある場合には撤退は躊躇せざるを得ません。更に、PPMは市場成長率と相対的市場シェアの2軸で分類するため、規模は小さくても高リターンをあげている事業が「負け犬」事業群に含まれている可能性があります。

以上から、PPMを実務上利用する際、「問題児」事業、「負け犬」事業の見極めが重要な課題であることがわかります。

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5
Q

経験曲線効果と経済性概念

A

●経験曲線効果(Experience Curve Effect)
 累計生産量が増えるほどコスト面で有利になること 習熟や改善による経済効果
企業である製品の累計生産量が2倍になると、1製品あたりのコストが20%~30%程度減少するという経験則のことを、経験曲線効果といいます。なぜ、コストが減るかというと、人が生産に習熟したり、生産の仕組みを改善したりといった経験が蓄積されてくるからです。

●規模の経済性(Economies of Scale)
 生産規模が大きくなるほどコスト面で有利になること
電力業・水道業・鉄道業・ガス業などは、生産規模が大きくなるほど固定費の割合が下がり、経済性が高くなります。そのため、自然に企業規模が大きくなり、独占となる傾向(自然独占)があります。

●範囲の経済性(Economies of Scope)
 企業が1つの事業を行うよりも、複数の事業を行う方がコスト面で有利になること
範囲の経済性の例として、AMAZONの事業展開が挙げられます。同社はそもそもインターネットによる書籍販売事業を主に行っていましたが、最近では、日用品、家電製品などを販売する事業にも進出しています。これは同社が保有していた書籍の流通網に他の商品を利用してもコストが大きく増えない一方、売上を大きく増やすことができるためです。

●ネットワークの経済性(ネットワーク効果、ネットワーク外部性)
 複数の人や企業がネットワークとして結びつくことにより、経済的な効果が発生すること
ネットワークの経済性、ネットワーク外部性とも呼ばれます。例えば、メールというサービスの場合、利用者が自分ひとりしかいなければ、誰ともつながらないので、何の役にも立ちません。しかし、同じサービスに他の人がより多く加わるほど自分にとっての利便性が増していきます。

●速度の経済性(Economies of Speed)
 情報獲得のスピード、意思決定のスピード、商品開発のスピード、顧客対応のスピード、業務遂行のスピードなど、スピードを上げることで様々な経済的効果が生まれること
———————————————————————————————–
規模の経済性も範囲の経済性もいずれもコスト面におけるメリットのことですが、規模の経済性は1つの事業において言っているものであるのに対し、範囲の経済性は複数の事業について言っているものであることに注意しましょう。範囲の経済性は、単一事業において規模が拡大することによる効果ではありません。

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6
Q

M&Aの手法

A

M&A(Merger and Acquisition)とは、企業の合併・買収のことです。M&Aの手法には、次のものがあります。

●TOB(Take Over Bid、株式公開買い付け)
 株価と期間を表明して、不特定多数の株主から証券取引所を通さずに、直接、株式を買い付けること
証券取引所を通さずに、株主から直接、株式を買う点がポイントです。よって、記述は不適切です。買収側にとっては、M&Aの進行過程で株価が上昇するといった不確実性要素がなくなります。一方、投資家にとっても、十分な情報開示のもとで意思決定することができるという長所があります。

●MBO(Management Buy Out、マネジメントバイアウト)
 現在の経営陣が、自社や事業を買収すること。MBOの例としては、引越業のアートコーポレーション、レンタルビデオ店TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブなどがあります。

●MBI(Management Buy In、マネジメントバイイン)
 企業の外部の経営陣による買収のこと。これはMBOのひとつで、企業を買収した投資家や投資ファンドが、買収先の企業に外部から経営者を送り込んで建て直しを行わせるものです。

●LBO(Leveraged Buy Out、レバレッジドバイアウト)
 買収される企業の資産や将来性を担保に、資金を金融機関から借り入れて、その資金で買収すること。負債のレバレッジ効果を利用した買収であるため、レバレッジドバイアウトといわれます。LBOによってM&Aを行う場合、買収後の企業は負債比率が高く、財務リスクが非常に大きい企業になってしまうという弊害があります。LBOを実施した後の企業は、重い金利負担に耐えるために、相当額のキャッシュ・インフローを迫られることになります。そこで、製品やサービスの値上げやコスト削減が検討されますが、それが市場競争力の低下や長期的な投資計画の切り捨てにつながることも多くみられます。さらには、資産の切り売りをせざるを得ないケースも多く、LBOを実施した後の財務体質の悪化には十分な注意が必要です。

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7
Q

M&Aの水平的統合と垂直的統合

A

水平統合:同業他社との統合です。例えば、ある自動車メーカーが、別の自動車メーカーと統合するような形です。統合することで市場シェアの拡大による規模の経済性を追求します。

垂直的統合:商流を企業グループで囲い込む統合です。自動車メーカーで例えると、川上の部品メーカーや川下の販売業者と統合するケースです。統合により機能を内部化することで、顧客ニーズへの対応を商流全体で行うことができます。また、商流間での情報交換により、新製品開発の機会を得ることや品質が向上することが期待できます。

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8
Q

MBO

A

MBO(Management Buy Out、マネジメントバイアウト):
MBOは、現在の経営陣が、自社や事業を買収することを表します。これにより、経営陣が自社の経営権をもつオーナー経営者となります。自社の役員が買収を行うのであれば、資金調達の方法に関わらず、MBOとなります。

新たな役員を外部から迎えて経営を引き継がせる場合は、MBOではありません。外部から迎えた経営陣が自社や事業を買収してオーナー経営者になることを、MBI(Management Buy In、マネジメントバイイン)といいます。

新たな役員を外部から迎えて経営を引き継がせる場合は、MBOではありません。なお、外部から迎えた経営陣が自社や事業を買収してオーナー経営者になることを、MBI(Management Buy In、マネジメントバイイン)といいます。

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9
Q

買収防衛策

A

敵対的な買収を防衛しようとする方策には、次のようなものがあります。

●ポイズンピル(毒薬条項)
 既存の株主に、安く株を購入できる権利、すなわち新株予約権をあらかじめ付与しておき、敵対的買収が行われた場合などの条件を満たすと、新株を発行するという買収防衛策は、ポイズンピルです。ポイズンピルは、対象会社を飲み込めば買収者に毒が回るということで、毒薬条項とも呼ばれます。

●クラウンジュエル(焦土作戦)
 買収される企業の持っている魅力的な事業や資産を売却してしまい、買収者の意欲をそぐもの。これは、焦土作戦とも呼ばれます。

●ゴールデンパラシュート
 取締役の退職金を高額に設定しておくことで、買収者の意欲をそぐという買収防衛策。これは、買収によって乗っ取られた企業から脱出する手段として、お金をパラシュートに見立てた表現です。

●ホワイトナイト
 敵対的買収を仕掛けられたときに、ほかの友好的な第三者に買収してもらうもの。ホワイトナイトは敵対的買収を仕掛けられた企業にとっては救世主となります。
 
これら以外にも、買収を仕掛けられた企業が、買収を仕掛ける企業に対して、逆に買収を仕掛ける「パックマンディフェンス」や、MBOやLBO等を行ない非公開化することによって、買収を防衛する「非公開化」などの買収防衛策があります。

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10
Q

アウトソーシング

A
アウトソーシングは企業が外部に業務を委託することです。
アウトソーシングには、次のようなメリットがあります。
●コストを削減することができる
●経営資源をコア事業へ集中させることができる
●高い専門性を持ったサービスを利用することができる

逆に、次のようなデメリットがあります。
●アウトソースした業務のノウハウが蓄積できない

アウトソーシングを経営手法として見る場合には、従来からあった「外注」、「下請け」、「人材派遣」などとの区別が必要となります。一般的には、業務の一部でも外部企業に任せればアウトソーシングです。しかし、経営手法としてのアウトソーシングは、当該業務の企画・設計段階から高い専門性を持つ企業に任せ、業務管理自体も任せるものを指す場合があります。すなわち、重要度が低い定型業務をよりコストの低い企業に委託するのがいわゆる「外注」や「下請け」ですが、経営手法としてのアウトソーシングは、重要な業務であっても外部企業の専門性に期待して外部化することを含んでいます。

当初、アウトソーシングは、情報システム部門が中心でした。その後、経理、人事など間接部門全般、そして物流、開発業務、製造プロセス、電力供給などあらゆる分野に拡大してきています。作業プロセスの設計業務も任せ、自社で行う以上の成果を受け取ることも、アウトソーシングです。

アウトソーシングの目的には、自社の得意分野への経営資源を集中することがあります。アウトソーシングする目的は、外部の専門企業を活用することによって、設備投資負担を軽減したり、自社の資産・人員を圧縮したり、業務を迅速化させたり、固定費の変動費化によって需要変動へ対応したり、自社が得意とする分野へ経営資源を集中させたりすることにあります。その結果、総資産利益率などの経営指標の改善、生産性向上、競争力の向上などの実現を図るわけです。

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11
Q

事業の再構築(リストラクチャリング)

A

事業構造を再構築して経営の仕組みを変革することをいいます。

新聞やテレビでは、リストラと呼ばれて人員削減という意味で使われていることが多いですが、リストラクチャリングの本来の意味は、企業のビジョンを達成するために、事業構造を変革したり、効率的な経営の仕組みをアウトソースしたりすることなどを含めて再検討することです。この事業を再構築する過程で、不採算の事業を削減したり、アウトソースしたりすることが多く、その結果、不要となった人員を削減するので、リストラ=人員削減というイメージが強くなってしまいました。

ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR:Business Process Re-engineering)とは、業務プロセスに着目して従来のプロセスを根本的に変革することをいいます。リストラクチャリングは企業全体のレベルであるのに対し、ビジネスプロセスリエンジニアリングは業務プロセスのレベルのものです。この視点の違いに注意してください。

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12
Q

ドメイン(Domain)

A

ドメイン(Domain)とは、事業を行う領域のことです。
ドメインには、次のような2つのレベルがあります。

●企業ドメイン
企業全体を表すもの
①企業全体の活動範囲の選択
②企業のアイデンティティ(基本的性格)の決定
③現在の活動領域や製品・事業分野との関連
●事業ドメイン
各事業単位のもの
以下の①と②により、事業マネジャーにオペレーションの自立性を付与する。
①事業範囲
②事業の見方

一般に、現代の企業は複数の事業を展開しています。これを多角化といいます。多角化している企業では、企業ドメインは、複数の事業ドメインを包括することになります。この場合、企業ドメインは、企業の戦う範囲(事業)を限定することに役立ちます。

企業ドメインは個々の事業の定義を足し合わせるのではなく、事業ドメインを包括するものです。外部の利害関係者とは、企業ドメインを示すことで収益性の源泉、競合する部分、お互いに補える部分、有機的な相乗効果が生じる部分の理解共有をすることができます。この相互作用の範囲を反映し、企業ドメインの範囲内で事業を柔軟に見直すことが可能となります。

企業ドメインが新規事業進出分野を制約する一方、その顧客セグメントの選択判断に直接的に影響するのが事業ドメインです。さらに、競争戦略策定の出発点として差別化の基本方針を提供するのも事業ドメインです。

将来手掛ける事業の定義を決定するのは企業ドメインです。また、事業ドメインが全社戦略策定の第一歩となるのではなく、企業ドメインの決定が全社戦略策定の第一歩となります。

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13
Q

多角化とM&A

A

M&Aの準備段階では機能の重複や補完関係についての調査や、被買収先の内部統制上の問題を明確化することでM&Aのリスクを低下させることが重要となります。

異業種のM&Aのメリットは範囲の経済性により自社の事業のリスクを分散することにありますが、買収された企業に自社に不必要な経営資源、例えば余剰となる従業員や設備が含まれてしまうリスクがあります。

企業の主要市場での需要の低下は新たな需要のある市場を求めた他の市場への参入という外部の成長誘因になります。

多角化の効果として相乗効果と相補効果があります。相乗効果とは複数の事業の組み合わせにおいて情報的資源を同時に多重利用することで発生する効果をいいます。相補効果とは複数の事業の組み合わせにより、各製品市場分野での需要変動や資源制約に対応し、需要変動の平準化や余剰資源の有効活用に結び付く効果です。

同業種のM&Aのメリットは基本的に規模の経済と経験効果の実現ですが、同業種であっても組織文化はそれぞれ固有のモノであり、調整と統合にはコストがかかります。

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14
Q

多角化戦略の基本分類

A

関連型多角化と非関連型多角化に大別されます。

関連型多角化は企業の各事業が開発技術、製品用途、流通チャネル、生産技術、管理ノウハウを共有する多角化で、シナジー効果により高い収益性を得る戦略です。本業や既存事業の技術が新規事業に適合すると判断した場合に、既存事業の資源を最大限転用して相乗効果を得ます。

非関連型多角化は極めて一般性の高い経営管理スキルと財務資源以外、事業間の関連性が希薄な多角化です。既存事業とは関連性が希薄であり、既存事業の市場シェアは新規事業の市場シェアには影響を及ぼしません。

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15
Q

動的シナジーと静的シナジー

A

相補(コンプリメント)効果は足し算的効果であり、複数の事業の組み合わせにより、各製品事業分野での需要変動(需要変動の平準化)や資源制約(余裕資源の有効活用)に対応し効果を得るものです。

相乗(シナジー)効果は、掛け算的効果であり、情報資源を同時多重利用することで発生する効果です。

シナジー効果が時間に依存するのが動的シナジーであり、依存しないのが静的シナジーです。時間経過により生み出される動的シナジーには組織学習や技術革新などであり、時間経過と共に企業成長への影響が大きくなります。このような動的シナジーを得られる事業の組み合わせは静的シナジーを得られる事業の組み合わせよりも大きくなります。

動的シナジーは時間経過に応じて効果が高まることから静的シナジーを作り出す事業の組み合わせよりも望ましいといえます。

シナジー効果は、範囲の経済性効果を生じるため、別個に発生するものではなく、また、複数事業の組み合わせによる情報資源の同時多重利用により発生します。

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16
Q

規模の経済性と経験効果

A

規模の経済性は、例えば水平的M&Aや大規模な設備投資によって大量生産可能な体制が構築されることで、コスト低減効果を得るものなので時間に依存しない静的な効果です。
経験効果は連続的に生じますが、規模の経済は水平的M&Aや大規模設備投資等によるため、連続的に行うことはできず停滞期間が生じます。

規模の経済の追求には相当額の投資が必要であり、新たに生じる固定費を回収するには、売上が伸びて設備稼働率が高まる必要があるため、相当額の投資が必要になります。

経験効果は、経験を重ねることで生産が効率化していき、コスト低減効果を得ることができるという時間に依存する動的な効果です。経験効果は労働の能率性向上、仕事の専門化と方法の改善、費用節約的な資源活用等の会社全体としての取組として行われるものもあり、生産機能においてのみ生じる効果ではありません。

経験効果は累積生産量に比例します。単年度の生産量増加はその年の生産量を増加させることですぐに効果がでますが、累積生産量の増加は過年度の累積生産量の影響を受けるため効果を得るまで時間がかかります。

規模の経済は、業界内において利益をあげられる企業数の上限を決定する一因となり、市場規模に対する生産の最小効率規模が大きいほど、当該業界に存在できる企業数は少なくなります。
最小効率規模が大きいとは、自動車産業のように大規模で高額な設備が必要なため、損益分岐点売上高が高いことをいいます。

経験曲線は累積生産量の増加に伴ってコストが低下することを表し、累積生産量に対応する技術の進歩や改善等の要因からも生じるが、生産機能において生じる経験効果に限定されません。

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17
Q

レバレッジド・バイアウト

A

LBOは、レバレッジド・バイアウト(LeveragedBuy Out)の略です。
企業買収では、大量の買収資金が必要ですが、LBOはこの資金を全て用意しなくても買収できる手法です。LBOでは、買収される企業の資産や将来性を担保に、資金を金融機関から借り入れて、その資金で買収します。これにより、限られた資金でも大型の買収ができます。ただし、買収後に企業の業績が悪化した場合は、借り入れた資金を返済できなくなるリスクがあります。

レバレッジド・バイアウト(LBO)は買収される企業の資産や将来性を担保に資金を調達して買収する戦略です。企業の一部門に限らず全体を買収することもあり一部門としている点が誤った記述です。企業の一部門の買収はLBOに限らず自社にはない経営資源の獲得を目的とすることもあり、経営資源の拡大を意図したものである点は正しい記述です。しかし、MBOやEBOはLBOを利用して行われることもあり、異なる範疇の手法とはいえません。

「事業規模の縮小」は販売量や従業員の削減等の経営資源の削減をいいます。スピンオフや非中核事業からの撤退は「事業範囲の縮小」に該当します。

オーナーではない経営者による買収はMBOであり、通常、買収後に経営の自由裁量の確保や敵対的買収に対する防衛のために株式を非公開にします。MBOの必要資金を買収対象である自社資産を担保に調達すればLBOに該当します。従って、広義のLBOの一形態ということができます。

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18
Q

プライベート・エクイティ投資会社(PE)

A

長期的な計画のもと、非上場企業を買収し、収益性を高めて上場させ、上場後に売却してリターンを得ます。買収により非上場化することが目的ではありません。

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19
Q

累積占有率と、市場第4位のD社の相対シェアは。
D社はこの製品市場第4位に位置しており、D社の市場占有率は10%です。
トップ企業であるA社の市場占有率は25%です。
上位5社による累積占有率が70%に達しています。

A

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)でのD社の相対シェア
=D社の市場シェア ÷ 1位の企業のシェア
という計算式で求められますので、

10% ÷ 25% = 0.4

寡占度が高い市場では、高い参入障壁が構築されているのが通常です。
そのため、追随者(フォロワー)としての新規参入が比較的難しくなります。

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20
Q

国内のある製品市場においての個別メーカーによる金額ベースの市場占有率を算出せよ。

A
国内のある製品市場においての個別メーカーによる金額ベースの市場占有率を算出するためには、
 a:「自社の当該製品の国内向け出荷額」、
b:「当該製品に関する国内の全事業者による出荷額」、
c:「当該製品に関する海外への輸出額」 
を用いる。算出式は、市場占有率(%)={a/(b+c)} ×100 となる。
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21
Q

リストラクチャリングとリエンジニアリングの違い

A

リストラクチャリングは企業の部門が対象であり、事業構造を再構築して経営の仕組みを変革し、会社全体の構造を変える戦略レベルのことです。リストラクチャリングの一環として事業売却を行う場合には、対象となる事業の従業員に納得してもらうことがとても大切なこととなります。しかし、納得してもらうためにはどれだけ時間をかけてもいいというわけではありません。時間をかけすぎることなくリストラクチャリングを円滑に進めるためには、ボトムアップではなく、トップダウンで売却ステップを検討していくことが必要となります。
リストラクチャリングの一環として事業を子会社として独立させる場合は、経営成績に責任を持つ独立採算制を採らせることとなります。そのため、本社から各子会社に大幅に権限を委譲し、意思決定の迅速化を図ることが課題となります。

リエンジニアリングは、業務プロセスを抜本的に見直すことによって業務を再設計し、業務の効率化を図る運用レベルのことです。より正確には、BPR (Business Process Reengineering)といいます。
リエンジニアリングを進める場合、業務の効率化を図ることが課題となります。

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22
Q

ポーターの5つの競争要因(ファイブフォース)

A

業界構造を5つの競争要因で分析することで、既存の競争相手だけではなく、業界全体の構造を明確にすることができます。

  1. 既存業者の敵対関係:
     業界内の競合他社との競争がどれぐらい激しいか。競合他社が多い場合は当然競争が激しくなります。また、同じぐらいの規模の会社が多い方が競争が激化します。また、業界の成長率が低くシェア争いが起きている場合や、差別化が出来ていない場合、固定費が高く価格競争になりがちな業界では競争が激化します。 例えば、大規模な設備投資が必要な半導体などの産業では、いったん設備を導入すると大量に生産・販売して投資資金を回収する必要があるため、供給過剰になりがちです。そうなると価格引下げが起こり、価格競争が激化していきます。
  2. 買い手の交渉力:
     製品の買い手である顧客の力がどれぐらい強いか。買い手の力が強いと、企業は値引きを要求されるため収益が上がらなくなります。買い手の交渉力が強くなるのは、強力な購買力を持った顧客がいる場合です。 例えば、大型のスーパーが自社ブランドの商品を、幾つかのメーカーに委託して製造する場合は、大型スーパーの購買力は強力なため、製造するメーカーの力は小さくなります。そうなると、メーカーは大型スーパーからの値下げ圧力によって、安い価格で販売せざるを得なくなります。
  3. 売り手の交渉力:
     売り手というのは、部品や原材料を仕入れている供給業者(供給業者側からいえば部品や原材料を提供している、となります)のことです。
    売り手側の業界が少数の企業に支配されている場合、すなわち寡占業界の場合は、売り手の交渉力が高まり、業界の収益性は低くなります。
    また、売り手側が独自の技術や製品を持っていると、高い価格を受け入れざるを得なくなるため、業界の収益性は下がります。
    例えば、パソコンメーカーに、CPU を提供するインテルという会社があります。パソコンメーカーは、CPU は希少な部品であるため高い価格でインテルから購入する必要があります。そうすると、パソコンメーカーがパソコンを売ることで得た利益は、インテル側が多く持って行き、パソコンメーカーにはあまり利益が残らないという事になります。このように、売り手側が寡占業界で、独自性の高い製品の場合は、業界の収益性は低くなります。
  4. 新規参入の脅威:
     新規参入があると、業界内の競争が激しくなるため、業界内の収益性は低くなります。 新規参入の脅威の程度は、参入障壁がどれぐらい高いかによります。業界内の企業は、参入障壁を高くしておき、新規参入を防ぐ必要があります。
  5. 代替品の脅威:
     代替品というのは、ユーザーニーズを満たす既存製品とは別の製品のことです。例えば、レコードは、CD という代替品の登場によって衰退していきました。このように、強力な代替品が登場すると、業界構造が一気に変わる可能性があります。
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23
Q

参入障壁

A

 参入障壁とは、ある業界に新規参入しようとする企業にとって、参入を妨げる障害のことをいいます。参入障壁が低い業界では、新規参入してくる可能性が高くなります。よって、業界内の企業は、参入障壁を高くしておき、新規参入を防ぐ必要があります。参入障壁が高まる場合は、例えば、次のようなときです。

●独自で高度な技術が必要な場合
●大規模な設備投資が必要で、規模の経済性が働く業界の場合
●流通チャネルが排他的な場合

M.E.ポーターは、参入障壁の規模を測る具体的な指標として、

①規模の経済性が働くか
②製品の差別化が存在するか
③巨額の投資が必要か
④仕入先を変更するコストは大きいか
⑤流通チャネルの確保は難しいか
⑥規模の経済性以外のコスト面での不利な点が存在するか
⑦政府の政策による参入の制限や規制が存在するか
⑧参入に対し強い報復が予想されるか

といった8つのものを挙げています。

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24
Q

参入障壁と移動障壁の違い

A

参入障壁は、業界の外から新たにその業界に参入するときの障害のことです。
これに対して、
移動障壁は、同じ業界で、ある戦略グループから別の戦略グループに移動する際の障壁のことです。

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撤退障壁
撤退障壁は、事業の収益性が低い状態であっても、その業界にとどまらざるを得なくする要因、つまり障壁です。 1. 他の事業に転用が効かない高額な固定資産がある 使用年数がわずかで高額な設備投資をしてしまった場合、その設備が他の事業に転用することが困難であると、清算価値が低くなり大きな減損や実現損失につながる。 2. 撤退による固定コストが大きい 人員削減が生じる場合は、退職金負担が重い。人員削減が大幅なものでない場合であっても社内再配置等のコストが生じる。 3.戦略 ある部門から撤退することで、他の部門に悪影響が生じる場合、自社の強みを失いかねない。 4.経営者の感情 事業に対する経営者の愛着(例えば経営者の出身部門の事業や経営者が立ち上げた事業)や従業員への思いやりなど、個人的・感情的な障壁が生じ撤退判断を阻む。 5.政府と社会 撤退による失業や地域経済への影響が大きい場合など、政府や地域社会からの圧力を受ける。
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ポーターの3 つの基本戦略
1. コストリーダーシップ戦略 コストリーダーシップ戦略とは、業界全体をターゲットにして、低コストで勝負しようという戦略です。ただし、単に価格を下げるだけでは持続的な競争優位を築くことはできません。コストを下げるための手段が必要になります。例えば、大規模で効率的な生産設備を導入し、規模の経済性を発揮したり、経験を積み上げて改善をくり返すことにより経験曲線効果を発揮し、コストを下げる努力をしていくことが重要です。 一般的に、競合他社よりも低コストを実現するためには、市場シェアを高めて、生産量を増やす必要があります。そのためには、大規模な生産設備や、宣伝などのマーケティングへの大規模な投資が必要になります。 コストリーダーシップ戦略のリスクとしては、競合や新規参入者が最新設備を導入してきた場合に、価格競争が激化する可能性があります。また、コストの低減ばかり注力していると、顧客のニーズの変化や代替品の登場に対応できない場合があります。 2. 差別化戦略 差別化戦略は、業界全体をターゲットにして、なんらかの差別化をしていくことにより、競争優位を築くという戦略です。 差別化には、製品の機能や品質、技術、デザインなど製品自体を差別化する以外にも、顧客サービスやブランドイメージ、アフターサービス、支払条件等のサービスで差別化をはかる方法もあります。差別化が顧客に認められれば、その分高い価格で販売することが可能になり、競合他社に対する競争優位性を築くことができます。 ここで、差別化戦略のリスクとして、コストリーダーシップ戦略を採用する企業の低価格の製品と価格差が開きすぎると、顧客の購買につながらないことが挙げられます。どれぐらいまでの価格差が認められるかは業界によって異なりますが、ある程度の低コストを実現しながら、差別化を図っていく必要があります。また、差別化は常に他の企業から模倣されて、陳腐化するリスクがあります。これを避けるためには、絶えず製品の改良を行ったり、顧客サービスを充実させていく必要があります。 3. 集中戦略 集中戦略は、特定のセグメントに競争範囲を狭めることによって、自社の経営資源を集中的に活用していこうという戦略です。 よく「選択と集中」という言葉が使われますが、最近の経営環境では、グローバル化などにより競争が激しくなっています。その中で競争優位を築くために、ある分野に特化して競争していく戦略が集中戦略となります。 集中戦略は、戦略の優位性を低コストとするコスト集中戦略と、戦略の優位性を差別化に求める差別化集中戦略に分類されます。 差別化集中戦略と、差別化戦略の違いは、戦略のターゲットが、特定のセグメントに限定されているか、業界全体かという違いです。 集中戦略は、中小企業で良く採用されている戦略です。これは、中小企業は経営資源が限られているため、ある部分に特化することが重要だからです。 集中戦略には、様々な例があります。例えば、商品分野を絞り込むという集中戦略があります。また、特定の顧客や、チャネルに絞り込んだり、特定の地域に絞り込むのも集中戦略です。 集中戦略のリスクは、あまりに狭い分野に集中すると、顧客ニーズとズレが生じて事業が成り立たなくなることです。また、逆に特定セグメントに特化して成功したものの、その後セグメントを拡大しようとして集中戦略があいまいになってしまう可能性もあります。 集中戦略では、自社の強みを生かせるセグメントを見つけ、そこに経営努力を集中することが重要です。 ----------------------------------------------------------------------------------------------- コスト優位と差別化優位はトレードオフの関係にありますので、コストリーダーシップ戦略と差別化戦略の両方を同時に追求することは、一般には難しいものとなります。コストリーダーシップ戦略と差別化戦略の両方を同時に追求し、失敗するケースを、スタック・イン・ザ・ミドル(Stuck in the Middle)といいます。しかし、M.E.ポーターは、技術進歩の激しい先端技術産業においてはこの両方を同時に追求することが可能となる場合があると指摘しています。
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コスト・リーダーシップ戦略
コスト・リーダーシップ戦略とは、業界全体をターゲットにして、低コストで勝負しようという戦略です。ただし、単に価格を下げるだけでは持続的な競争優位を築くことはできません。コストを下げるための手段が必要になります。コスト・リーダーシップ戦略は、多角化していない単一の事業を行っている企業においても採用されます。例えば、大規模で効率的な生産設備を導入し、規模の経済性を発揮することは、コストを低下させることになります。 浸透価格政策は、安い価格を設定し、大量に販売することでシェアを高める政策です。浸透価格政策のメリットは、一気にシェアを高めて、競合他社よりも、規模の経済性や経験曲線効果をはやく発揮できることです。その結果、競合よりも安いコストで生産できるようになるため、より安い価格で販売することができます。このように、コスト・リーダーシップ戦略を行う企業が、浸透価格政策をとると、自社の経験効果によるコスト低下のスピードは、競合他社よりもはやくなります。 また、コスト・リーダーシップ戦略を行っている企業は、特定モデルの専用工場を建設により少品種多量生産を行い、コスト面での優位性を得ることができます。そのために生産性の高い設備を導入することは正しいといえます。
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差別化戦略
差別化戦略は、他の企業とは異なる価値を提供することにより、競争優位を築く戦略です。差別化には、製品の機能や品質、デザインなど製品自体を差別化する以外にも、顧客サービスやブランドイメージなどで差別化を図る方法もあります。 「信用的な属性」 簡単に言えば、企業の信用力によって差別化をすることを表しています。こういった差別化を図る場合は、製品の物理的な機能を差別化するよりも、広告宣伝活動を通じたブランドイメージを形成することが有効です。 「購入前に調べてみれば分かるような探索的な属性」 広告や宣伝活動による製品差別化よりも物理的な差異による製品差別化が有効です。例えば、パソコンという製品には様々な属性がありますが、CPU の速さや、メモリやハードディスクの容量等は、購入前に調べれば容易に分かる属性です。こういった属性で差別化できる場合は、広告宣伝活動でブランドイメージを形成するよりも、物理的な属性をアピールした方が有効です。 「実際の消費経験から判断できるような経験的な属性」 実際の消費経験から判断できるような経験的な属性については、物理的な差異による製品差別化よりも広告や宣伝活動による製品差別化が有効です。 現代の成熟した市場では、単なる製品の機能による差別化は効果が低くなってきました。そこで、顧客の消費「経験」を重視する考え方が出てきました。例えば、コーヒーショップで言えば、価格やコーヒーの味で差別化するだけでなく、会社や家とは別の場所でくつろげるといった経験的価値を提供することで差別化することができます。経験的な属性で差別化するには、製品はもちろんですが、顧客とのすべての接点を重視し、顧客に経験的価値を提供する視点が求められます。広告や宣伝活動による差別化が有効とは言えません。 製品差別化は差別化は、売り手が決めるものではなく、あくまで買い手が主観的に判断するものです。
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価値連鎖(バリューチェーン)
価値連鎖では、企業の活動を5 つの主活動と4 つの支援活動に分解します。これらの活動のことを価値活動と呼びます。 主活動は、左から右に流れるようになっており、購買物流、製造、出荷物流、販売、サービスの5 つとなります。 支援活動は、全体管理、人事・労務管理、技術開発、調達活動の4つとなります。 そして、これらの価値活動全体が生み出す価値は、顧客が商品を購入しようとする金額で測定できます。 また、マージン、つまり利益は、価値活動が生み出す価値と、各活動のコストの差で表されます。 利益を増やすには、製品を差別化して高付加価値な製品を高い価格で販売するか、価値活動のコストを下げる必要があります。 この価値連鎖のフレームワークを使うことで、どの価値活動が付加価値を生み出しているか、 もしくは生み出していないかを分析することができます。また、どの価値活動でどれぐらいコストをかけているかを分析することも可能です。 これにより、先ほどの3 つの基本戦略を遂行するための、より具体的な戦略を検討することができます。 価値連鎖は、事業の中のどの活動を強化するかを検討し、競争優位性を築くためのツールとなります。 また、価値連鎖では名前の通り、活動間の連鎖、つまり連携が重要です。活動間の連携をうまく行い、 全体で最適化することで、より模倣困難な競争優位性を築いていくことができます。 バリュー・チェーンは、買い手が認める価値=バリュー・チェーンのコスト+マージンとなります。 このマージンが差別化によって生じる超過収益と考えると、買い手が認める価値=バリュー・チェーンの コストとなってしまっては差別化によって生じる超過収益はゼロとなってしまいます。また、その時に差別化の効果が最大化されるものではありません。 バリュー・チェーン内で付加価値を生んでいるコアの価値活動をアウトソーシングすると、 企業の競争力を弱めますが、付加価値を生み出していない価値活動をアウトソーシングしても、企業の競争力を弱めることにはなりません。 むしろ、自社のコアに注力をすることで経営資源を効率的に利用して競争優位の源泉を生み出すこともできます。 バリュー・チェーンの個々の価値活動は、密接な結びつきにより模倣困難性や独自性を生じさせることから、 企業の独自の経営資源やケイパビリティ(独自の能力を生み出す組織力)として認識することができます。 バリュー・チェーン全体の付加価値は個別の価値活動に加えて、それらの結びつきにより生じる付加価値の合計です。 したがって、バリュー・チェーン全体から生み出される付加価値は、部分最適ではなく、 全体最適を図ることで個々の価値活動の総和を超え、収益性を高めることになります。
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コトラーの競争地位
市場での競争地位によって、とるべき戦略が変わることを指摘しました。 1. リーダー:マーケットシェアが業界トップの企業 リーダーの戦略のポイントは、①市場を拡大することと、②同質化を図ることです。 リーダーはナンバー1のシェアを持つ企業ですので、市場が大きくなれば最も恩恵を受けることができます。 リーダー企業は経営資源も豊富ですので、市場を拡大していくために、フルライン戦略を取ることが良くあります。 フルライン戦略とは、幅広い品揃えにすることです。また、他の企業が新しい製品を出したり、様々な差別化を仕掛けてきた場合には、それに追随して同質化をするのが基本です。リーダー企業は最も経営資源が多いため、自分よりも小さい相手が行うことを真似していれば、自然に勝てるという考え方となります。戦略課題は「シェア」「利潤」「名声」です。市場規模が拡大するとその分、利潤が上がる構造です。「名声」があるため、コスト・リーダー戦略は採用しません。 2. チャレンジャー:リーダーに次ぐシェアであり、リーダーに挑戦する2 番手の企業グループ  チャレンジャーは、リーダーよりもシェアや経営資源で下回っているため、リーダーと同じ戦略ではリーダーに勝つことはなかなか出来ません。そのため、リーダーが出来ないような差別化を行い、新しい競争ルールを作り出していくような戦略が必要です。チャレンジャーは差別化を行っていくことが重要です。 3. ニッチャー:特定の市場を狙い、独自の地位を築こうとする企業グループ  ニッチャーは、リーダーがあまり力を入れていない市場を見つけ、そこに経営資源を集中的に投入します。ポーターの3 つの基本戦略の中では、集中戦略となります。ニッチャーの戦略のポイントは、小さく限定された市場の中でミニリーダーになることです。つまり、特殊なニーズを満たす製品やサービスを提供し、そのニーズの中でナンバーワンの企業になることが重要です。戦略課題は「利潤」「名声」です。限られた経営資源の集中により、ブランドに磨きをかけますが、拡大戦略は基本的に採用しません。 4. フォロワー:リーダー企業などを模倣して追随する企業グループ フォロワーは、一般的に収益性が低くなりがちです。これは、リーダーを真似するものの、経営資源やブランドなどがリーダーよりも劣っているため、コストが高い製品を安く販売せざるを得なくなるからです。フォロワーは単にリーダーを真似するだけではなく、ニッチャーのように特化をするか、リーダー企業と協調するなどの戦略が必要になってきます。経営課題は「利潤」です。効率性がカギとなります。新興国の製品は先進国にとってみると物まねのように見えますが、次第に技術力を高めシェアを拡大していきます。同様にフォロワーも次第にチャンレジャー、リーダーをにらんだ展開をしていくことがあります。
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先発優位
市場にいち早く参入したり、新製品を真っ先に投入したりすることで得られる競争優位性。 ●そのカテゴリーの代名詞となることができ、顧客の心理面で参入障壁を築くことができる。 ●いち早く顧客を取り込め、顧客の囲い込みができる。(スイッチングコストの利用) ●技術的リーダーシップが取れる。(デファクトスタンダードの確立) ●希少資源(人材、資源、立地など)を先取りできる。 ●経験曲線効果を早く実現でき、コスト面で優位となる。 しかし、先発者ならではの困難もあります。通常、新商品の開発や新市場の開拓には多額の研究開発費や広告宣伝費、高い技術力などが必要です。先発者が苦労して市場に導入した新商品が、後発者によって模倣されて、追い抜かれてしまう例は良く見られます。よって、先発者が一概に優位とは限りません。先発者には、次のようなデメリットがあります。 ●市場や技術の不確実性の高さによる失敗する可能性 ●消費者に新製品を認知してもらうための多額な宣伝広告費 ●後発の企業に容易に模倣されない新製品を作る豊富な技術力の蓄積 ●後発の企業が模倣品を市場導入するのに要する時間とコストは先発の企業よりも優位であることによる、高い参入障壁を形成する必要性 ●後発者によって模倣されて、追い抜かれてしまう事例 「後発優位」(後発者の優位性)には、以下のようなものがあります。 ●需要の見極めをしてからの市場参入 ●模倣によるパイオニアコスト(研究開発費、広告宣伝費)の節約 ●技術や市場の変化への高い対応可能性
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速度の経済性
事業経営の速度を上げることで得られる経済的便益の総称
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タイムベース競争
速度を上げることで競争優位を築こうとすること 市場で最初に製品を生産・販売すると、先発者企業のブランドをその製品カテゴリーの代名詞として、顧客に認識してもらうことができます。そのため、製品開発では、最初に製品を生産・販売することにより、企業のブランドを一般名詞のように使うことで顧客の頭の中に刷り込み、商品選択の際に有利となるような先発者の優位性が生じます。 大規模生産による経験効果を連続的に享受するためには、大規模生産が可能な生産設備や、より効率的に生産することができるプロセス革新(工程革新)などが必要となります。ですから、最初に製品を生産・販売したからといって、競合他社よりも効率的に量産化できるだけの生産設備やプロセス革新が伴わなければ、大規模生産による経験効果を連続的に享受できるような先発者の優位性は生じないことになります。 タイムベース競争の効果は、開発から生産・販売までのリードタイムの短縮による販売上の機会損失の発生の防止にも現れます。例えば、顧客が購入したいと思っているのに、在庫がなくて、入手するまで何日も待たされるようなケースです。このような場合、顧客が同じような価格や機能、品質の製品・サービスを他で入手することができるのであれば、顧客に何日も待ってもらえることはありえません。顧客は他に逃げてしまうことになります。このように、購入できるまで長く待たされるよりもすぐに入手できるものの方が顧客の利便性や満足度が高く、顧客に選択してもらいやすいわけです。 タイムベース競争の効果は、工場での生産リードタイムの短縮による原材料費の削減によって、原材料購入にかかわる金利の削減にも現れます。 見込みで生産や仕入れを行う場合、より需要期に近いタイミングで判断を行うことができると、原材料が在庫として過剰であるといったリスクを軽減したり、原材料が在庫にないといった欠品リスクを回避したりすることができます。原材料を購入する場合、特に中小企業では、運転資金として仕入代金を銀行などから融資してもらうことがあります。そのような場合、企業は原材料購入にかかわる金利を負担しなければなりませんが、原材料購入量が過剰とならなければ、資金融資も少なくて済み、借入れに対して支払う金利も少なくて済みます。 タイムベース競争の効果は、顧客ニーズに俊敏に対応することで価格差を克服し、結果的に競合他社よりも高い利益率を実現することにも現れます。 同じ時間でより多くの製品開発ができ、市場に製品を供給することができると、多様な製品を投入することによって、顧客ニーズに俊敏に対応し、市場対応力を向上させることができます。すると、自社の製品が他社の製品よりもいくぶんか高いものであっても、いつも購入している他の製品と同じ企業のものであるからという理由などにより、その製品を顧客に選択してもらうことが期待できます。
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P.F.ドラッカーの4つの起業家戦略
``` ●総力による攻撃  新しい市場や産業のリーダー的地位を狙うもの ●弱みへの攻撃  相手の弱みを突いて自身の競争優位を打ち立てようとするもの ●ニッチの占拠  限定的な領域で実利をあげようとするもの ●価値の創造  イノベーションによって生まれた顧客価値を利用するもの ```  P.F.ドラッカーは、創業間もない中小企業は、すべての経営資源を投入する「総力による攻撃」は、多くの場合とるべきではないとしています。創業間もない中小企業は経営資源が少ないため、「総力による攻撃」は成功する確率が低いからです。全国的な広告宣伝と大手百貨店への出店というのは、「総力による攻撃」にあたります。
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ポーターの提唱する業界構造のパターン
多数乱戦(市場分散型)業界: 競合企業が多数存在し、激しい競争が繰り広げられている業界。 多数乱戦(市場分散型)業界では規模の経済が働きにくい側面はあるものの、すべての諸活動において規模の経済性が欠如しているとは限りません。価値連鎖においては、規模の経済性よりも、諸活動間の連鎖、つまり連携が重要であり、連携により競争優位性を築いていくことができるとされています。また、諸活動間の連携が強まることによって、規模の経済性が働くことも考えられます。 多数乱戦(市場分散型)業界は、ニーズが多様であることは特徴ですが、人手によるサービスが中心であることは業界特有の特徴とは限りません。また、集約・統合戦略は、多数乱戦業界においては規模の経済を働かせることにより、業界を制圧することが可能であり、この業界には適さない戦略というわけではありません。 先端業界: 新たに生まれたばかりの業界や再編されたばかりの業界。 成熟業界: ビジネスのルールや製品などが定着し、総需要が低下、成長スピードが鈍化した業界。成熟業界においては、新製品開発の可能性が少なく、成長が鈍化するために、多くの企業は、プロセス革新や現行製品の改良に力を入れるようになりますが、その結果、企業間のシェア争いは緩やかにならず、より激化します。 衰退業界: 全体の売上規模が減少している業界。撤退が有効な戦略の1つ。 衰退業界においては、できるだけ早く投資を回収して撤退し、経済的な損失を最小限にとどめる戦略が重要です。一方で、縮小した業界においては競合も縮小傾向にある可能性が高く、リーダーの地位を確保することは比較的実現性が高いことが考えられますので、重要な戦略の 1つであると言えます。いわゆる、ニッチャー戦略であり、ポーターの3つの基本戦略の中では、集中戦略です。 国際業界: 大企業のように、自国市場だけでなく、外国市場にも事業展開ができて多額の売上を上げられる業界。
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戦略グループ
戦略グループは、同じ業界に存在する企業の中で、似たような戦略を採用している企業群を表します。業界に複数の戦略グループがある場合は、これらの戦略グループ間では、市場ターゲット、製品、価格、流通、プロモーションなどの方法が異なります。結果的に、戦略グループ間では、収益性も異なってきます。 ある製品分野の生産のために垂直統合を強めると、企業の生産体制や製品ラインは似通ってくるので、戦略グループが生まれやすくなる。たとえば、製品の製造のみを行っていた企業が、原材料や部品の製造も行えるように垂直統合を図った場合を考えます。この場合、この戦略の有効性が評価されれば他の企業群も同様の戦略行動をとるでしょう。結果的に、同様の戦略を採用した企業群とそうでない企業群とで、自然と別々の戦略グループに分かれることになります。 いったん戦略グループが形成されると、戦略グループ間を移動するには移動障壁があるため、そのグループから他のグループヘの移動は難しくなり、同じ戦略グループ内では激しい競争が繰り広げられます。 顧客層と製品ラインの幅を考慮して、顧客層や製品ラインを絞り込み、最適生産規模を追求したり、共通コストの節約を図ると、次第に一貫した戦略行動になるので、同じような顧客層や製品ラインに絞り込んだ企業の間で戦略グループが生まれることになります。 同一産業内に複数の戦略グループが存在することが少なくないが、これは市場と製品ラインの絞り込み方によって、複数の戦略グループが形成されるから。 同一産業内の戦略グループ間で収益が異なるのは、同じ業界内に属する企業でも、別の戦略グループの企業との間では、「直面する脅威と機会」も当然異なるから。たとえば、円高の状況下では輸出企業と輸入企業の脅威と機会は異なり、収益も異なります。
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垂直統合と価値連鎖の関係
垂直統合が製品やサービスの最終顧客とより直接的に接触する方向に進む場合を、前方垂直統合(川下垂直統合)といいます。 これに対して、製品やサービスの最終顧客と遠ざかる方向に進む場合を後方垂直統合(川上垂直統合)といいます。 価値連鎖上で高付加価値を生み出している活動は、売上高付加価値率は高まるため、垂直統合に適しています。 製品やサービスを企業が顧客に提供するためには、企業の価値連鎖における活動すべてが実行されなくてはなりません。しかし、これらの活動のうち、どれを自社独自に行ない、どれを他社に任せるかについて、企業は意思決定することができます。企業が価値連鎖の中で携わる活動の数は一定で安定する必要はありません。 価値連鎖のなかのどれだけの価値連鎖活動に携わるかが垂直統合度を決定します。企業が携わる価値活動の数が多いほど垂直統合の度合いは高くなり、企業が携わる価値活動の数が少ないほど垂直統合の度合いは低くなります。企業が価値連鎖の中で携わる活動の数はその増減から垂直統合度は推測できないわけではありません。 自社の境界外に当該事業にかかわる価値創出活動の多くを出している企業は、企業が携わる価値活動の数が少ないので、売上高付加価値率が低く、垂直統合度は低いレベルにあります。また、この企業が新たに付加している価値は小さいといえ、企業の売上高付加価値率は低くなります。
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規模の経済と経験効果
規模の経済は一定の時点における規模の大きさに起因する経済性であるのに対し、経験効果は、累積生産量(サービス業であれば累積提供量や累積時間)に比例的に生じる効果ですので一定の期間による効果となる点に違いがあります。 生産工程を保有しないサービス業においても、累積サービス提供量や提供時間をもって、学習曲線効果が生じ、経験効果が得られます。 企業規模が小さい中小企業でも、特定の部品の販売シェアが業界トップの中小企業は存在しますし、特定の地域で業界トップのスーパーマーケットも存在します。したがって、特定の市場や製品に経営資源を集中投下することで、ニッチ市場におけるコストリーダーシップを得ることは可能であるため、規模の経済にもとづく競争優位を得ることは可能です。 シナジー効果は、範囲の経済を構成する中心的な要素の1つ。規模の経済を得るために企業統合をすることでシナジー効果は発生することがありますが、規模として企業統合前の両者の売上を合算するほどの売上を統合後実現できるケースは必ずしも多くありません。
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W.アバナシーの技術革新4段階
●プロダクト・イノベーション(製品革新)  製品に関する革新 ●プロセス・イノベージョン(工程革新)  工程に関する革新 ●インクリメンタル・イノベーション(積み重ね革新)  製品や生産工程における積み重ねられ進歩していく小さな革新 ●脱成熟  製品を成熟期から再び成長期に戻す革新 W.アバナシーは、時間の経過に従って、革新の影響度が製品、生産工程、積み重ね というように小さいものが中心になることを、生産性のジレンマといいました。
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J.Aシュンペーターのイノベーション(革新)の定義
企業者が市場、技術、経営資源などの新結合によって創造的破壊を行うことと定義しました。これは、単に新しい技術を発明したり、新製品を開発したりするだけでなく、それが顧客や社会に新しい価値を提供するということまで含めた考え方です。いわゆる製品に関する技術革新だけのことではありません。
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・プロダクト・イノベーション(製品革新) ・プロセス・イノベーション(工程革新) ・インクリメンタル・イノベーション(積み重ね革新)
プロダクト・イノベーション(製品革新): 製品に関する革新のことをいいます。W.アバナシーの技術革新モデルによると、この革新は、製品が発明されてからその製品の標準的かつ優勢な仕様(ドミナント・デザイン)が決まるまでに主にみられます。製品ライフサイクル上では導入期と成長期の前期のものです。 プロセス・イノベーション(工程革新): 工程に関する革新のことをいいます。アバナシーの技術革新モデルによると、この革新は、ドミナント・デザイン決定後に主にみられます。製品ライフサイクル上では成長期の後期と成熟期の前期のものです。 インクリメンタル・イノベーション(積み重ね革新): 製品や生産工程における積み重ねられ進歩していく小さな革新のことをいいます。アバナシーの技術革新モデルによると、この革新は、プロセス・イノベーションの後に主にみられます。製品ライフサイクル上では成熟期の後期のものです。なお、脱成熟とは、製品を成熟期から再び成長期に戻す革新のことをいいます。アバナシーの技術革新モデルによると、この革新は、インクリメンタル・イノベーションの後に主にみられます。
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イノベーション・ライフサイクルの特徴
イノベーション・ライフサイクルは、S字型の軌跡を描くという点と、後発の技術に移行するときには、連続的ではなく、不連続に移行するという点が、特徴です。
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C.クリステンセンの重視するイノベーション(または技術)2つ
●持続的イノベーション (Sustaining Technologies) 既存の製品を継続的に改良するもの。大手企業や競争優位を持っている企業はこのイノベーションを重視しています。要求度の高い顧客の二一ズに応えるため、より高機能な商品の開発や性能向上に注力する絶え間ない努力を行っているわけです。インクリメンタル・イノベーションと呼ばれることもあります。 ●破壊的イノベーション(Disruptive Technologies) 全く新しい価値を提供するようなイノベーション。しかし、高機能でなければならないというわけではありません。破壊的イノベーションは、安くて単純であり、高機能・性能を必要としない技術により、主流の市場以外の別の市場に根付き、やがて、主流の市場を飲み込んでいくものを含みます。新興企業はこのイノベーションを重視しています。ラディカル・イノベーションと呼ばれることもあります。
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イノベーションのジレンマ
米国ハーバード・ビジネス・スクールのC.クリステンセン教授が、1997年、その著書『イノベーションのジレンマ‐技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』で呼称したものです。同書では、過去の優良企業が没落した理由が研究されています。イノベーションのジレンマを回避する方法の一つとして、例えば、WikipediaやLinuxなどのように、オープンイノベーションの考え方を採用し、社内のみならず社外や研究者コミュニティからも広く意見や技術を取り入れることにより、視野を広げイノベーションを実現するという方法があります。
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製品アーキテクチャ
製品アーキテクチャとは、製品の設計思想のことで、たくさんの部品をどのように組み合わせて製品にするかという基本的な構想のことです。これには、次の2つの考え方があります。 ●インテグラル型の製品アーキテクチャ  部品を細かくすり合わせして調整を図り、まとまりのある1つの製品にしていくもの  〈メリット〉 全体として最適化されており、まとまりが良い、競合企業が模倣困難である  〈デメリット〉進化に時間がかかる、調整コストがかかる ●モジュール型の製品アーキテクチャ  部品を組み合わせることにより、製品にしていくもの  〈メリット〉 多様な組み合わせの製品を作るのが簡単である、調整コストがあまりかからない、モジュールの進化に伴って製品自体も進化する  〈デメリット〉製品に無駄が多い、インターフェースの進化に時間がかかる
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オープンアーキテクチャ戦略
製品アーキテクチャやインターフェースを公開して、モジュールを提供する企業とネットワークを作っていく戦略のこと。
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デファクトスタンダード
デファクトスタンダードとは、事実上の業界標準となった製品や規格のことです。デファクト・スタンダードとなるには、自社規格が市場で受け入れられ、市場での使用実績が高くなり、事実上の業界標準となればそれで要件を満たします。公的な標準化機関の認定は必要としません。業界で標準的な製品と認定されるために取得した特許等の事実のことではありません。自社規格をオープンにしなくとも、自社規格が市場で受け入れられ、市場での使用実績が高くなり、事実上の業界標準となれば、デファクト・スタンダードといえます。これに対して、公的に標準に定められたものをデジュリスタンダードと呼びます。例えばJISやISOなどの規格で定められたものがデジュリスタンダードです。 デファクト・スタンダードとなる規格が登場しない間は、どのような規格が市場で受け入れられるかが定まらないため、製品革新に力を入れたままになり、導入期から成長期への移行が抑制されます。しかし、デファクト・スタンダードとなる規格が登場すると、工程革新に力を入れることができ、大量の製品を効率よく生産することが可能となるため、市場の導入期から成長期への移行を加速させることになります。また、多くの企業が同一規格の製品を販売することになり、機能面での差別化競争が始まったり、安さを売りにした低価格競争が激化したりすることになります。 ◆デファクト・スタンダードが登場する前では製品革新(プロダクト・イノベーション)に、デファクト・スタンダードが登場した後では工程革新(プロセス・イノベーション)に力を入れることになります。 ネットワーク外部性が働く業界の場合、利用者が増えれば増えるほど、利用者の得られる効用が高まるため、企業が自社の製品をデファクトスタンダードにするためには、その規格を公開して、他社からの模倣・利用を促進することが必要です。そうすることにより、事実上の業界標準であるデファクトスタンダードが確立しやすくなります。 *ネットワーク外部性とは、その製品やサービスの利用者が増えれば増えるほど、利用者の得られる満足度(効用)が高まることをいいます。
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ベンチャー企業(ベンチャービジネス)
ベンチャー企業(ベンチャービジネス)とは、新技術などでイノベーションを起こして急成長を志向する中小企業のことをいいます。 これは、企業家精神旺盛な社長が独自の技術・ノウハウを強みに高い成長を遂げる中小企業のことであって、大きなリスクを取る代わりに高いリターンを求める企業ということではありません。  ベンチャー企業の成長ステージには、次の段階があります。 ●シード期  起業する前の準備段階です。シード(seed)とは「種」を表します。ビジネスの種である技術シーズやアイデアを見つけ、それを基に事業コンセプトを固めて起業するまでがシード期です。 ●スタートアップ期  起業後から事業が軌道に乗るまでの段階です。事業立上げの先行投資が必要ですが、売上が少なく通常は赤字の時期なので、資金調達は、経営者自身や親戚、友人などが中心になります。事業プランが有望であれば、個人投資家であるエンジェルや、ベンチャーキャピタルからの出資も期待できます。 ●急成長期  市場での認知度が高まり、事業が急成長する段階で黒字に転換する時期です。資金面では、成長に必要な運転資金や設備資金等の資金需要が大きくなります。急成長ゆえに、信用力が十分でない場合には民間金融機関からの融資を得られず、ベンチャーキャピタルや、政府系金融機関からの出資・融資などが資金調達の中心になります。 ●安定成長期  市場での認知度が高まり、最も収益性が高くなる段階です。社会的信用も確立してくるため、民間金融機関からの融資が受けやすく、更に、株式公開(IPO)をすることで、株式市場から大量の資金を調達することもあります。 -----------------------------------------------------------------------------------------------  ベンチャー企業の課題を表す言葉に、次のものがあります。 ●デビルリバー(魔の川) 基礎研究から、製品化のための開発段階に進む際の課題を表します。企業や大学で行われる基礎研究により、技術シーズ(基礎研究により生み出される、新製品商品のネタになるような技術)が生み出されます。しかし、技術シーズのうち、その技術を生かして市場のニーズに合った製品化が可能なものは多くありません。そのため、魔の川を超えられない場合も多いのです。そこで、基礎技術や高い要素技術を必要とする領域は大学に任せ、TLOを活用して連携を積極的に行うことなどによって回避を試みます。 ●デスバレー(死の谷) 製品開発段階から事業化段階に進む際の障壁を表します。製品開発段階では、市場への投入を目指して製品を開発します。また、製品を市場に投入するためには、量産化や販売を前提にした準備が必要です。しかし、採算が見込めない場合や、量産化が難しい等の場合には、市場投入することができません。つまり「死の谷」を渡り切れない場合も多いのです。そこで、所有している特許権や意匠権などの知的所有権のうち、一部の専用実施権を第三者企業に付与することや、社内プロジェクトメンバーについての担当の入れ替え、メンバーの権限付与の見直しなどによって回避を試みます。 ●レッドオーシャン(ダーウィンの海)  商品を市場に投入し、販売網を整備し、競合に打ち勝っていく困難のこと。競合との競争に打ち勝った数少ない企業が、事業を成功させることができるのです。大手企業とのアライアンスやファブレス生産に取り組み、生産、販売、マーケ ティング、アフターサービスが一体となった体制などによって回避を試みます。 ----------------------------------------------------------------------------------------------- ブルーオーシャンとは、競合企業とは差別化することによって、市場においてレッドオーシャンのような血みどろの競争を避けた状態です。このように市場において熾烈な競争を避ける戦略を、ブルーオーシャン戦略といいます。
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ベンチャー企業の J カーブ曲線
ベンチャー企業のキャッシュフローを表す言葉。 ベンチャー企業が創業した当初は、製品・サービス開発、生産、販売活動などにキャッシュが必要であるため、最初のうちはキャッシュは右肩下がりの曲線になります。商品を販売開始した後、事業が軌道に乗ってくるとキャッシュは右肩上がりになります。J カーブ曲線は、そのキャッシュの増減を、「J」の字になぞらえて表しています。 J カーブ曲線では、最初はキャッシュがマイナスになるため、この間の資金調達が重要となります。ところが、この段階ではまだ事業は立ちあがっておらず、現実的には投資・融資を受けるのが難しいという問題があります。また、運よくエンジェル等から投資を受けることができたとしても、事業が想定したスケジュールで立ちあがらないと資金は尽きてしまい、事業の継続は困難になります。
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ベンチャーキャピタル(VC:Venture Capital)
ベンチャー企業が行おうとするリスクの高い事業の将来性を専門的な知識とノウハウで評価し、資本を投じる投資会社のことです。その資金源は年金基金、財団、企業、金融機関などです。ベンチャーキャピタルは、投資基準を満たした企業に投資を行って、ベンチャー企業の株式が公開されたときにキャピタルゲインを得ることで利益を獲得します。一方、個人投資家は、エンジェルと呼ばれます。
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イノベーションに関する用語4種類
``` イノベーションに関する用語には、次のものがあります。 ●インクリメンタル・イノベーション  既存の製品を継続的に改良するもの    持続的イノベーション (Sustaining Technologies)のこと ●ラディカル・イノベーション  全く新しい価値を提供するようなイノベーション    破壊的イノベーション(Disruptive Technologies)のこと ●オープン・イノベーション  企業内部と外部のアイデアを有機的に結合させ、価値を創造すること ●クローズド・イノベーション  主に自社が使用する特許を中心とした知的財産戦略が中心となる従来のクローズドな世界でのイノベーションのこと ``` H.チェスブロウは、自著『オープン・イノベーション』において、オープン・イノベーションを「組織内部のイノベーションを促進するために、意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用し、その結果組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすこと」と定義し、企業がイノベーションを続けるためには、企業内部・外部のアイデアを採用し、企業内部・外部において開発を行いながら発展させ商品化を行う必要があると主張しています。
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オープン・イノベーションとクローズド・イノベーションの違い
内部の経営資源だけでイノベーションを行おうとするクローズドなイノベーションに対して、オープン・イノベーションは企業内部と外部のアイデアを有機的に結合させ、価値を創造するものなので、企業外部の経営資源の探索プロセスにおいて、内部での商品開発に対する競争圧力が強くなり、組織の活性化につながります。 オープン・イノベーションでは、企業外部の人材と共同で新商品開発を行うことができます。このようにオープン・イノベーションは、企業内部の優れた人材に限らず、企業外部の優秀な人材と共同で新商品開発を進めることができるので、内部での開発コストの低減が期待できます。 企業内部で行う手法について述べられています。研究開発から事業化・収益化までのすべてのプロセスを企業内部で行う手法は、クローズドなイノベーションです。オープン・イノベーションは、このクローズドなイノベーションの延長上に位置付けられるものではありません。 オープン・イノベーションは企業内部と外部のアイデアを有機的に結合させ、価値を創造するものなので、より高い専門性をもつ企業との連携するなどにより、新商品開発プロセスのスピードアップを図ることができます。
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社内ベンチャー
社内ベンチャーとは、既存企業の内部にあたかも独立企業のように新規事業を実施する部門や組織を設けることをいいます。企業内起業家制度は、組織内で自律した位置づけと経営資源を与えられるベンチャー・チームを活用することがあり、イノベーションを生み出す企業家精神、哲学、組織構造を内部に発展させようとする試みです。 社内ベンチャーの目的には、次のものが挙げられます。 ●新規事業への進出 ●チャレンジ精神を持つ人材の育成 ●社内の既存資産の有効活用など 〈メリット〉 企業が保有する既存の経営資源を有効に活用できる、リスクを抑えて優位な事業展開がしやすい 〈デメリット〉事業の開始・展開時に組織的な承認が必要なために時間がかかる、既存事業を脅かすようなビジネスは認められない
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戦略的提携
``` 戦略的提携とは、2つ以上の企業が連携して事業を推進することをいいます。 この主なものには、次のものが挙げられます。 ●合弁会社の設立  複数の企業が共同で新規事業を推進したいときなどに利用されるもの ●共同での研究開発  複数の企業のノウハウを持ち寄り、共同研究をするもの ●クロスライセンシング  特許などの権利を持つ権利者同士が、互いの権利を使用できるようにするライセンス契約のこと ``` 産学連携とは、企業が大学などの研究機関と連携して研究開発をすることをいいます。産学官連携とは、企業と大学だけでなく、官である政府や自治体も加わった連携のことをいいます。 TLO(Technology Licensing Organization)とは、技術移転機関のことで、大学の研究成果を特許化し、それを企業に技術移転するための法人のことです。政府は、政策として産学官連携の取り組みを支援しています。平成10年には、大学等技術移転促進法(通称TLO法)が施行され、大学で開発された技術や研究成果を民間企業に移転するための機関であるTLOを支援する取り組みが整備されました。 クロスライセンシングとは、特許などの権利を持つ権利者同士が、互いの権利を使用できるようにするライセンス契約のことをいいます。ハイテク業界などでは、企業は開発した技術に関する特許を多く取得しています。通常は、こういった特許を他の企業が使用する場合には、特許の権利者にライセンス料を支払う必要があります。しかし、クロスライセンシングにより、互いの権利を相互に利用できるようになるため、コストを抑えた開発をすることができます。
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M&Aと戦略的提携
M&Aは、同業種間との合併や買収、異業種間の合併や買収があり、それぞれに目的が異なります。 ●同業種間の合併や買収  水平統合といわれ、統合によるスケールメリットを目指すもので規模の経済性の実現が目的となります。同業種間で重複する機能が広範囲にわたるため、リストラクチャリングのためのコストが生じます。 ●異業種間の合併や買収  異業種間の合併や買収は、垂直統合といわれ、商流における機能を統合することが目的となります。異業種間合併は範囲の経済性を追求し、商流間の効率性を向上させ商流の最終顧客である消費者の満足を高めることが目的となります。しかし、異業種では、相手の商流の位置づけや事業に関する知見が低いことが原因となり、事前に事業構造の有効性や効率性の評価が不十分となってしまうことがあります。結果として、自社が必要としない資源まで獲得してしまうということが生じかねません。 ●戦略的提携  2つ以上の企業が連携して事業を推進することをいいます。戦略的提携は協定による業務提携から、株式の持ち合い等による資本提携まであり、提携する具体的内容も協定で定められます。M&Aと異なり、提携は解消されることもしばしばあり、緩やかな提携の場合は効果が疑問視されるものもしばしば見受けられます。戦略的提携の目的が経済的な価値と希少性の追求にあっても、経済性(Value)、希少性(Rarity)だけでは一時的競争優位性は獲得できますが持続的競争優位性を獲得するには模倣困難性(Inimitability)が求められますので、持続的な競争優位をもたらすとは限らないが、提携による業界内の新しいセグメントへの低コストでの参入は企業間の強みを補完する試みとなり得ます。
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産業クラスター
産業クラスターは、競争戦略論で有名なM.E.ポーターが提唱した概念で、その産業に関連する企業や研究機関などがネットワークを築いて集積している状態のことをいいます。産業クラスターは、従来の産業集積とは異なる概念です。従来、日本では地域経済の活性化を目的とした、政策的な産業集積の取り組みが行われてきました。こういった政策では、指定地域への企業の誘致を中心とした産業基盤の整備が行われましたが、成功例は少なく、効果は限定的でした。 経済産業省は、産業クラスターを、産業の国際競争力を強化するとともに、地域経済の活性化に資するため、全国各地に企業、大学等が産学官連携、産産・異業種連携の広域的なネットワークを形成し、知的資源等の相互活用によって、地域を中心として新産業・新事業が創出される状態と位置づけています。その上で、産業クラスターの形成にとって最も重要なキーワードは、イノベーションであるとしています。 経済産業省を中心にして、平成13年度から各地域においてイノベーションやベンチャー企業が次々と生み出される産業クラスターの形成を目指す「産業クラスター計画」が推進されています。 産業クラスターは、競争戦略論で有名なM.E.ポーターが提唱した概念で、その産業に関連する企業や研究機関などがネットワークを築いて集積している地域を表します。産業クラスターが形成されると、専門的な知識や情報、資源を求めて、世界中から参入してくる人が増加します。そうすると、産業クラスターの内部でシナジー効果が生まれます。例としては、米国のシリコンバレーが挙げられます。産業クラスターは、従来の産業集積とは異なる概念です。産業クラスターでは、競争と協力をベースにしている点が、従来の産業集積と異なります。つまり、産業クラスターに属する企業は、単に協業をするだけでなく、自由競争の中で切磋琢磨をしていくということです。産業クラスターでは、水平構造の競争と協力により、イノベーションが生み出されていきます。産業クラスターを構成することにより、地域としての競争優位を築いていくのが狙いです。
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国際化戦略
企業が国際化する段階には、次のようなものがあります。 ●輸出入 海外から原材料を調達したり、製品を海外市場で販売したりする。輸出については、多くの場合、国内の市場が飽和した場合に検討されます。輸入については、資源が少ない日本では古くから行われてきましたが、最近では安価な原材料を求めて輸入をするケースが増えています。 ●海外生産 日本の企業が海外で生産することで、安価な労働力や資源、技術などの生産要素にアクセスし、生産コストを下げる目的で行われます。特に、中小製造業では、国内生産でコスト面の優位を維持していくことが困難であるため、海外生産をする企業が増え、海外生産比率は高まっています。また、大企業の生産拠点の海外移転が進んだため、下請けの中小製造業も一緒に海外移転をするケースも多くなっています。 ●市場立地型投資 海外市場を開拓する目的で海外に拠点を設けることです。生産拠点だけでなく、現地に販売のための拠点を設けることで、海外市場のニーズに対応しやすくなります。また、海外の営業先の開拓や、提携先を見つけることが行いやすくなります。海外に拠点を置く企業に対して直接投資を行うことによって財務的な利益をあげる目的で行われるものではありません。 ●グローバル化 特定の国ではなく、世界中に生産拠点や販売拠点がまたがって存在するようになった状態です。世界を1つの市場と考えて、市場の立地や、コスト、リスクなどを考慮して最適な拠点を展開します。 国際化には、カントリーリスクなどの様々なリスクも伴います。
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グローバル化した企業における、グローバル統合と現地市場への適応のバランス
``` グローバルでの統合に向くケースには、以下のようなものがあります。  ・規模の経済が働く  ・製品の固定費が大きい  ・各国の許認可等が必要ない  ・現地の習慣や文化への配慮の必要性が低い ```  逆に、上記と反対の状態であれば、現地市場への適応の必要性が高いと言えるでしょう。 生産規模を大きくするほどコストが低下し、現地市場への適応の必要性が低い製品の場合は、グローバル統合に向いています。グローバルで一括生産を行った方が、規模の経済が働くため有利になります。グローバルな統合の必要性が低く、現地市場への適応の必要性が高い製品の場合は、現地市場への適応を優先させます。海外子会社が、現地の市場や事情に合った、独自の戦略を実施するべきです。各国の認可取得や文化的理解の必要性は高く、グローバルな統合の必要性は低い製品の場合は、現地市場への適応を優先させます。海外子会社が、現地の市場や事情に合った、独自の戦略を実施するべきです。製品開発の固定費が大きく、現地の習慣や文化への配慮の必要性が低い製品の場合は、グローバル統合に向いています。グローバルで一括生産を行った方が、規模の経済が働くため有利になります。
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企業の社会的責任
企業の社会的責任は、最近、特に注目されている概念で、CSR(Corporate Social Responsibility)と呼ばれることもあります。 ●ディスクロージャー(情報開示)  企業の情報をステークホルダーに開示していくこと。企業にはアカウンタビリティーといわれる説明責任があります。ディスクロージャーには、財務諸表や有価証券報告書など制度的なものや、投資家向けに自発的に情報を開示するインベスターリレーションズ(IR: Investor Relations)があります。投資家向けに自発的に情報を開示するものは、インベスターリレーションズです。財務諸表や有価証券報告書などは制度的な情報開示です。 ●コンプライアンス(法令遵守)  コンプライアンスは、法令遵守と呼ばれることが多いようですが、法令などの規則を守るだけでなく、社会的なルールや倫理を守ることまで含まれることもあります。 ●コーポレート・ガバナンス(企業統治)  企業の経営を監視・統制すること、またはその仕組みのこと。一般に、日本では、会社は経営者や従業員のものという考え方が強く、社内取締役が多くなっています。そのため、外部からのチェックが働きにくいですが、逆に長期的視点で経営することが可能です。それに対して、米国では、会社は株主のものという考え方が強く、取締役が経営者を監視します。そのため株主が経営を支配する力が強くなり、経営の視点が短期的になりがちです。 フィランソロピーは、「慈善」や「博愛」を意味する言葉であり、一般には、企業による社会貢献活動や慈善的な寄付行為などのことをいいます。これに対して、メセナは、フランス語で「文化・芸術支援」を意味する言葉であり、企業の社会貢献活動のうち、特に文化・芸術分野での活動のことをいいます。
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企業の戦略的優位達成
企業が戦略的な優位に立とうとするには、製品・サービス、戦略と組織構造、組織文化、技術の変革に取り組む必要があります。これらの変革を実行するには密接に関連しあって実現しうるものです。切り離して実行することは考えにくく、変革の結果も相互に関連しあうものです。
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企業の戦略的優位達成
企業が戦略的な優位に立とうとするには、製品・サービス、戦略と組織構造、組織文化、技術の変革に取り組む必要があります。これらの変革を実行するには密接に関連しあって実現しうるものです。切り離して実行することは考えにくく、変革の結果も相互に関連しあうものです。
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バウンダリー・スパンニング
バウンダリー・スパンニングは、技術、マーケティング、生産の新製品に関わる各部門担当者が、外部環境における関連領域と卓越した連携を持ち、互いにアイデアや情報を共有する取組を言います。組織構造は継続されるため、日本語訳から想起されるような「組織の壁を超える」ことになりません。
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リエンジニアリング
リエンジニアリングとは、既存の管理方法や業務プロセスを抜本的に見直し、変更することです。ビジネスプロセスを再構築することにより、競争優位を築くことができます。 一方、事業構造を再構築することはリストラクチャリングといいます。
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製品アーキテクチャ
製品アーキテクチャとは、製品の設計思想のことで、たくさんの部品をどのように組み合わせて製品にするかという基本的な構想のことです。 ``` ●インテグラル型の製品アーキテクチャ:乗用車・大型旅客機・業務用複合機 部品を細かくすり合わせして調整を図り、まとまりのある1つの製品にしていくもの 〈メリット〉   全体として最適化されており、まとまりが良い  競合企業が模倣困難である 〈デメリット〉  進化に時間がかかる  調整コストがかかる ``` ``` ●モジュール型の製品アーキテクチャ:デスクトップパソコン 部品を組み合わせることにより、製品にしていくもの 〈メリット〉  多様な組み合わせの製品を作るのが簡単である  調整コストがあまりかからない  モジュールの進化に伴って製品自体も進化する 〈デメリット〉  製品に無駄が多い  インターフェースの進化に時間がかかる ```
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中小企業に資金提供を行う投資ファンド
投資ファンドとは、複数の投資家が集まってベンチャー企業に投資をする際に作られる事業組合のことであり、それぞれの投資家が出資額に応じて、株式などの配分を受けることになります。 ●投資事業有限責任組合:  投資事業有限責任組合では、組合の業務を執行する組合員は無限責任ですが、投資をするだけの組合員は有限責任となり、出資額以上の責任を負うことはありません。これにより、多くの投資家が安心して投資ファンドに参加できるようになり、ベンチャー企業への資金調達が円滑に進むようになりました。 ●ベンチャーキャピタル:  ベンチャーキャピタルは、経営課題を抱える中小企業であっても、企業価値を高めることで将来的に投資回収が可能と判断した場合、事業成長のために潤沢な資金を提供することは充分に考えられます。ベンチャーキャピタルが、有望な中小企業に対して、資金投入の条件として、役員派遣や経営のモニタリングを受入れさせることは、一般によく行われます。これは、ベンチャーキャピタルが、その中小企業の経営に関与することにより、さらに企業価値を高めようとすることが目的です。ベンチャーキャピタルは、様々な資金を組み合わせて、有望な中小企業に投資します。本体(ベンチャーキャピタル自身)や他のベンチャーキャピタルが運用するファンドから投資することもあれば、本体の自己資金を原資とした投資をすることもあり、それらを組み合わせた投資も行われています。
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アライアンス
アライアンスとは、企業同士が提携関係を結ぶことです。現在の厳しい競争環境の中では、自社の力だけで競争に勝ち抜いていくのは難しくなってきており、何らかの形で他社と連携しながら事業を展開していくことが重要になっています。 ●コンソーシアム コンソーシアムとは、2 つ以上の個人や企業等から成る共同体・共同事業体のことで、共同で特定の目的のために活動します。例えば、民間企業で大学とコンソーシアムを形成し、共同で研究開発するなどの例があります。複数の企業で共同出資することで投資リスクを低くできます。ただし、コンソーシアムは一般に緩やかな提携関係のため、コンソーシアム解散後については、それぞれの企業の戦略を実行します。また、テーマが基礎研究である場合は、製品化については、それぞれの企業が独自に行うため、「差別化が困難になる」とは言えません。 ●下請け関係 下請関係は親企業と下請企業の間の提携関係です。日本の製造業は、大企業と中小企業の間で下請関係を作ることにより発展してきました。下請関係は、通常、強固な信頼関係に支えられており、親企業から下請企業に対する技術支援や生産方法の改善指導なども行いやすく、「取引コストが高くつく」とはいえません。 ●JV ジョイント・ベンチャーという言葉は、合弁事業(合弁会社)や、主にマーケティング面での戦略的提携を表します。合弁事業では、一般に、複数の企業が共同で合弁会社を設立し、共同で新規事業を推進します。合弁事業にすることにより、各企業の経営資源やノウハウなどを持ち寄り、1 社では実現できないような事業を推進できます。 合弁事業では、お互いに不足している技術を持ち寄ることができるのがメリットです。 ●ライセンシング ライセンシングは、特許や商標などの知的財産権やノウハウなどを別の企業に提供し、その対価としてライセンス料を受け取る契約です。例えば、ある製品を製造する技術が無い場合でも、他の企業から技術に関する特許やノウハウについてライセンスを受けることで、製造・販売することができます。 これがライセンス契約の場合は、権利者(ライセンサー)は、ライセンスした企業(ライセンシー)には、権利自体を譲渡せずに使用権を付与するのが一般的です。また、その際に権利を使用できる範囲や制約を設ける場合が多いため、技術を自社が自由に利用する権利が制約されるリスクがあります。
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中小企業の海外進出
企業がアジアなど海外に拠点を設けるには、単独で進出する方法と、現地の企業と共同で出資し合弁会社を作る方法があります。経営資源が不足している中小企業では、単独でいきなり現地に工場を設立するのはリスクが大きいため、現地で既に事業を行っている現地パートナーを見つけて共同で出資し、合弁方式により工場を展開する方法を検討します。また、現地パートナーの選定や合弁契約などは、商社に仲介を受けるケースもあります。 現地のパートナー企業の技術力が弱い場合は、そのままでは、品質が低下する恐れがあるため、商社を介在して高品質の原材料を持ち込んだり、進出企業による現地での技術指導を通じて製品の品質が低下しないようにすることは重要な経営のポイントになります。 一般的に、現地のパートナー企業や現地国はわが国の先端技術の移転を求めます。重要な技術が漏洩すると、模倣により競争優位性を失うことになります。そのため、自社技術の保護の観点から、商社等に協力してもらって、合弁事業開始前に、守るべき技術や製品の模倣禁止等に関して詳細な規定を含む合弁事業契約をパートナー企業と締結しておくことが重要になります。 合弁事業の出資割合は、出資企業間の合意により任意に決めることができ、必ずしも合弁事業の経営に努力を傾注する程度を表すものではありません。また、一般的に配当は出資比率に応じてなされます。 商社は現地に関する様々な情報や経験を持っており、情報能力を活かして進出企業に現地の各種情報を伝えたり、現地の法務等の対応を図ってくれるので、進出企業は工場のオペレーションに経営努力を傾注できるメリットがあります。 パートナー企業は技術の入手や模倣を目的に行動することがあり得ます。したがって、パートナー企業の合弁事業以外での業務実態について見落とすと、守秘義務条項や競合禁止条項が破られ、製品の模倣が行われ、現地市場を失うばかりか、進出企業の信用を失墜しかねないので、現地駐在社員の現場の監視能力を向上させることが重要です。
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イノベーションの進化に見られる特徴
前の世代のリーダー企業は、次の世代の破壊的イノベーションに対応できないという現象を「イノベーションのジレンマ」と呼びますが、前の世代のリーダー企業は、既存の主流顧客の要望に応える改良、すなわち持続的イノベーションを重ねていくうちに、新しい技術に対応できず、次の世代の破壊的イノベーションを起こす企業に足元をすくわれてしまう、ということがよく発生します。この持続的イノベーションを重ねている間は、技術システムは均衡状態にあると言えます。この状態は、技術開発への努力を導くのではなく、妨げる力となっていることがわかります。 優れた技術が事業の成功に結びつかない理由として、ある技術システムとそれを使用する社会との相互依存関係が、その後の技術発展の方向を制約するという経路依存性を挙げることができますが、これは、イノベーションのジレンマで言われる、既存顧客の要望に応える改良、すなわち持続的イノベーションを重ねていくうちに、新しい技術に対応できない、という現象に類似します。その技術システムを利用する既存顧客を含めた「社会」との相互依存性関係が新しい発想を妨げて、その後の技術発展の方向を制約する「経路依存性」につながるのです。優れた技術が事業の成功に結びつかないのはそのためです。 製品の要素部品の進歩や使い手のレベルアップが、予測された技術の限界を克服したり、新規技術による製品の登場を遅らせることもあります。製品の要素部品の進歩や使い手のレベルアップとは、イノベーションのジレンマにおける「持続的イノベーション」と言えます。このことが、予測された技術の限界克服や、新規技術による製品の登場を遅らせるのは、まさにイノベーションのジレンマによる現象です。 イノベーションにもライフサイクルがあり、その軌跡はS字型の曲線をたどります。これを「技術開発のS字カーブ」と呼ぶことがあります。 このライフサイクルでは、イノベーション(技術進歩)の初めの段階では、まだ技術が不確定で試行錯誤している段階で、技術の進歩はゆっくり進みます。次の段階では、技術が確立してくるため、技術進歩が一気に進みます。最後の段階は、技術的に成熟した段階です。この段階になると、技術進歩は再びゆるやかになります。  このように、技術進歩が経時的にS字型の曲線をたどるのは、初めのころ不確定だった技術や(基礎的な)知識が、時間の経過とともに(経時的に)蓄積されて確立してくるため、技術進歩が一気に進み、資金や人材などの資源投入の方向性もひとつの方向に集められる(収斂する)ことの現れと言えます。 連続的なイノベーションが成功するのは、漸進的に積み上げられた技術進化の累積的効果が、技術の進歩や普及を促進するからです。順を追って(漸進的に)積み上げられた技術進化の累積的効果が、技術進歩や普及を促進することによって、持続的なイノベーションは成功します。
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企業統治(コーポレート・ガバナンス)
企業統治(コーポレート・ガバナンス)とは、企業の経営を監視・統制すること、またはその仕組みのことをいいます。企業統治(コーポレート・ガバナンス)は、1980年代のアメリカにおける「企業は誰のものか」に関する議論を契機として注目されてきた考え方です。元々のアメリカのコーポレート・ガバナンスの考え方では、経営者の独断を防ぐという観点で使われることが多いです。アメリカでは、企業は株主のものという意識が強く、株主が経営者の独断による不祥事などを防ぐ目的で、コーポレート・ガバナンスが強化される流れとなりました。 内部統制とは、組織の目的を適正に達成するために、組織の内部において適用されるルールや業務プロセスを整備し運用することです。内部統制制度を導入すると、業務に関係して違法行為や背任行為を起こさないようにすることができ、企業統治を強化することができます。日本では、金融商品取引法において内部統制報告制度が定められており、上場企業は、内部統制報告書の作成、報告をしなければなりません。 取締役会に社外取締役を、監査役会に社外監査役を導入すると、外部の視点により企業経営のチェック機能を果たすことができるため、企業統治を強化することができます。 指名委員会、監査委員会、報酬委員会を設置する会社は、指名委員会等設置会社です。指名委員会等設置会社は、企業統治を強化し、経営の透明性を高めるために、経営の監督機能と業務執行機能を分離した会社です。そのため、取締役会の中に指名委員会、監査委員会、報酬委員会を設置すると、企業統治を強化することができます。 執行役員とは、取締役や取締役会が決定した重要事項や方針・戦略を、実行(執行)する役割や責任を担う者のことです。したがって、取締役のほかに執行役員をおき、取締役会に参加させたとしても、企業統治を強化することにはなりません。 倫理憲章や行動規範などを作成周知し、社員の意思決定における判断基準として制度化すると、企業経営における意思決定の不正を防止したり、企業価値の向上をさせたりすることになるため、企業統治を強化することになります。
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企業の危機管理
危機とは災害や戦争等のリスクのように発生の可能性が予見困難で、被害額の見積もりも困難なものをいいます。一方、リスクは日常的で発生が予見でき、おおよその損害額を見積もられるものです。 企業は危機に対して、事業継続計画や事業継続管理を準備しています。 ●リスク・マネジメント:  想定できる危機的事象に対して、事前に発生抑制や防止策を検討するもの ●クライシス・マネジメント:  不測の事態に対する危機管理 ・事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)  危機はリスクと異なり発生を事前に予測することが困難です。発生してからでは手遅れになってしまうため、事  前に事業継続計画(BCP)を策定することが重要です。 ・事業継続管理(BCM:Business Continuity Management)  事業継続計画(BCP)をもとに日常的に訓練し、被害を最小化するような管理を事業継続管理(BCM:Business   Continuity Management)といいます。 ----------------------------------------------------------------------------------------------- ●事業インパクト分析:  事業継続計画(BCP)において業務停止させることでどのような影響が生じるかを把握する分析で、業務の中断が許されるべき許容期間を把握し、業務の復旧優先順位を導きます。この優先順位に基づいて継続業務を決定します。つまり、事業継続計画(BCP)に用いられるものでありコンティンジェンシー・プランではありません。 ●コンティンジェンシー・プラン:  予期しない事態が起きた時のために、事前に対応方法などを定めておく計画のことです。コンティンジェンシー・プランでは継続業務を決定する際、必ずしも事業インパクト分析を行なうわけではありません。
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C.I.バーナードの組織が成立するための3つの要素
C.Iバーナードは、組織を2人以上の人々の意識的に調整された活動や諸力の体系と定義し、近代管理論を提唱しました。彼は、公式組織(フォーマル組織)が成立するためには、共通の目的、貢献意欲、コミュニケーションの3つが成立しなければならないとしました。 組織の均衡条件は、組織のメンバーにとって誘因が貢献以上になっている状態(誘因≧ 貢献)をいいます。 また、組織が存在するためには、有効性と能率の両側面を達成することが必要であると主張しました。有効性とは組織の目的達成度のことをいい、能率とは個人的動機の満足度のことをいいます。一つは、能率であって、効率性ではありません。ここでの有効性や能率という用語は、日常会話で使うものとは意味が異なります。 バーナードは、個人の協働システムとして組織を認識し、組織を、個人間の相互作用が共通の目的に対して継続的になされるシステムとして捉えました。このような捉え方を、システム・アプローチといいます。  バーナードは、実務家としての経験に基づき、その著書『経営者の役割』において、組織を維持・成長させることが経営者の役割であると主張しました。組織は、組織の目的の達成と組織に参加する個人の目的の充足を行いますが、それらを果たせない場合は組織は成立しないと考え、個人の貢献意欲を動機づけるモチベーションと、道徳準則を基盤としたリーダーシップが重要であると指摘しました。
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組織設計5つの原則
``` ●専門化の原則  仕事を分業化することにより専門性を高め、仕事の効率を向上させる ●権限・責任一致の原則  組織の各メンバーの権限と責任は等しくなければならない ●統制範囲の原則  1人の管理者の下には、適正な人数のメンバーを配置する必要がある ●命令一元化の原則  メンバーは1人の直属の上司から命令を受け、それ以外の人からは命令を受けない ●例外の原則(権限委譲の法則)  管理者は定型業務の意思決定を下位に権限委譲し、例外的な意思決定に専念する これは、権限委譲の法則と呼ばれることがあります。管理者は例外的な意思決定、つまり戦略的な意思決定に専念することが重要です。なぜなら、管理者が定型業務に忙殺されてしまうと、会社にとって重要な戦略的な意思決定が後回しになってしまうからです。 ```  H.ファヨールは、管理教育の拠所として、分業、権限・責任、規律、命令の一元性、指揮の一元性、個人的利益の全体的利益への従属、従業員の報酬、権限の集中、階層組織、秩序、公正、従業員の安定、創意、従業員の団結の14の管理原則を提唱しました。
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ラインとスタッフ
ラインとは、経営の主活動を表す職能のことをいいます。これに対して、スタッフとは、ラインを支援する職能のことをいいます。 ``` ラインとスタッフにかかわる組織に、次のものがあります。 ●ライン組織(直系組織)  ラインから構成される組織 〈特 徴〉 トップから階層構造で命令が出され、メンバーは統一的に行動する 〈メリット〉 命令一元化の原則を徹底化することができる、集権的な管理ができる 〈デメリット〉管理者のライン業務に対する専門知識が不足しがち、管理者の負担が増えやすい、組織が硬直化しやすい ``` ``` ●ライン・アンド・スタッフ組織  ライン組織にスタッフ機能を追加した形態 〈特 徴〉 スタッフはラインに対して権限を持たない 〈メリット〉 命令の一元性が保持されると同時に、専門性も保持される 〈デメリット〉ラインとスタッフの対立のおそれがある ```
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機能別組織(職能別組織)
機能別組織とは、組織区分に購買、製造、販売などの企業の機能(職能)を基準にして水平的に部門化した組織形態のことをいいます。これは、職能別組織、機能部門制組織、職能部門制組織と呼ばれることもあります。 〈特 徴〉集権的な管理組織である。ピラミッド型の階層構造なので、分権的管理組織ではありません。 〈メリット〉 専門性が確保される、統制がとりやすい、同質的環境下では能率的 〈デメリット〉組織が大きくなると管理者の負担が重くなる、組織が硬直化しやすい、利益責任が不明確である        環境の変化に対応しにくい  よく似たものに、機能式組織(ファンクショナル組織)があります。これは、専門的知識・技能を要求する機能を担当する複数の上司から、それぞれの機能に関して指揮・命令を受ける組織形態で、管理者の職能は専門化されていますが、機能別組織のように職能別の部門化はなされていない点が異なります。 機能式組織は、F.W.テイラーが主張した職能別職長制を追求することと整合した組織であるといえる点に注意。
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事業部制組織
事業部制組織とは、独立採算のプロフィットセンター(事業利益単位)として機能する事業部を持つ組織形態のことをいいます。複数の製品や事業ごとに部門化して、会社の中にあたかも小さな会社のような事業部を設置し、各事業部を独立採算のプロフィットセンターとして機能させるものです。これは分権的な管理組織です。 〈特 徴〉 分権的な管理組織である 〈メリット〉 事業単位で迅速な意思決定ができる、トップの負担が軽減する、管理者の育成ができる、環境変化        に対する適応力が高い、現場の状況に迅速に対応しやすい 〈デメリット〉機能が重複するため多重投資となり非効率的、事業部のセクショナリズムが問題になる、複数の事        業部で協力して製品開発することが難しい場合がある、短期的視野の経営になりがち 事業部制組織は、利益の稼ぎ手でプロフィットセンターとして機能する事業部、事業部を管理したり企業全体の経営を行ったりする本社機構、事業部をサポートするコストセンターであるスタッフ部門から構成されます。ここで、プロフィットセンターとは、自ら事業を行い、利益を生み出す事業利益単位のことをいい、コストセンターとは、総務部、経理部、人事部などのような利益責任を課されないスタッフ業務部門のことをいいます。 事業部制は、事業に関する権限は事業部に委譲し、本社は全社戦略に専念する形になります。  A.D.チャンドラーは、自著『経営戦略と組織』において、デュポン、ゼネラルモーターズ(GM)、ニュージャージー・スタンダード石油、シアーズ・ローバックの4社の分析を行ない、環境変化に適応するよう戦略を策定し自らの組織形態を変えている企業が、産業において成功をおさめていることを発見し、多角化している企業は事業部制組織を採用していることを指摘しました。このことから、彼は「組織は戦略に従う」という命題を主張しました。
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カンパニー制と持株会社
カンパニー制は事業部の発展形です。カンパニー制では、事業部にあたる組織をさらに分権化するために、カンパニーという独立した企業に近い組織として、社内分社化します。カンパニーという名称が紛らわしいですが、別法人ではありません。あくまで、社内の一組織であることが、1つのポイントです。 持株会社とは、他の株式会社の経営権を握る目的で、その会社の株式を保有する会社のことです。持株会社のうち、自らは事業を行わずに、他の会社の経営権を握ることを本業としている会社のことを、特に「純粋持株会社」と呼びます。純粋持株会社では、企業グループ全体の戦略や企画の立案などに専念します。傘下の子会社は、それぞれの事業に専念することになります。一般に、純粋持株会社が、傘下の子会社の具体的な経営活動に関与することはありません。
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カンパニー制
カンパニー制とは、カンパニー制とは、事業部を発展させたもので、事業部にあたる組織をさらに分権化するために、カンパニーという独立した企業に近い組織として、社内分社化したものをいいます。組織を機能別に部門化して、それぞれの機能部門に包括的な裁量権を移譲したものではありません。 〈特 徴〉 包括的な裁量権が与えられている 〈メリット〉 カンパニーの経営責任が明確になる、事業に関する意思決定が迅速に行える、プレジデントの起業        家精神を高めて経営者を育成できる 〈デメリット〉カンパニー間の連携がとりにくくなる、独立したインベストメントセンターとして経営するのは難        しい インベストメントセンターとは、権限の委譲が大幅に進んだ事業部制組織であり、擬似仮想的な独立子会社(カンパニー)とみなされて本社から資本金が割り当てられ、独立した期間損益計算を行い、本社に対して利益配当を行う組織単位のことをいいます。事業部はプロフィットセンターでしたが、カンパニーは、インベストメントセンターとなります。インベストメントセンターでは、損益計算書だけでなく、貸借対照表にも責任を持ちます。貸借対照表の別名はバランスシートですので、バランスシート経営と呼ばれることもあります。 事業部では利益責任はありますが、設備投資などの資金を握っているのは本社です。これに対し、包括的な権限が委譲されているカンパニーでは、設備投資の資金をカンパニーで管理し、投資の意思決定をしていきます。また、カンパニーのトップはプレジデントと呼ばれ、擬似的な企業の社長としてカンパニーを経営します。 カンパニー制では、業態ごとにカンパニーを採用することができますが、それぞれの業態に特化したカンパニーが自社の売上を最優先することを認めた場合、カニバリゼーション(同一の企業に属するカンパニー同士が顧客(売上)を奪い合うこと)が発生します。 カンパニー制は、主要な事業の特定製品やブランドについての管理者をおき、その製品やブランドに関する戦略を策定しますが、独立した企業に近い存在のため、販売活動も独自の戦略を策定、実行します。したがって、販売活動を調整して統合する機能は持っていません。
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持株会社
持株会社は以下のように2つに大別されます。 ・自ら事業を行い、かつ傘下の事業会社のガバナンスを行う「事業持株会社制」 ・自らは事業を行わず、傘下の事業会社のガバナンスに専念する「純粋持株会社制」 純粋持株会社では、事業持株会社が本社の事業を全て子会社化したものということができます。企業グループ全体 の戦略、企画の立案などに専念するため、企業グループ全体の効率的な資源配分が可能です。 傘下の子会社は、それぞれの事業に専念します。 したがって、個々の事業の運営を統合して行うことはありませんし、また、傘下の企業の経営戦略を標準化したり集中的に管理(雇用形態や労働条件の設定を、傘下の企業グループ全体で標準化することなど)したりすることもありません。純粋持株会社は買収等で傘下企業にすることにより、事業の多角化が容易にできます。 【カンパニー制との違い】 カンパニー制が疑似的に会社を社内分社するため、個々のカンパニーの財務諸表は公表されません。一方、持株会社制は、各事業会社が法人格を有するため、それぞれ財務諸表が作成され、カンパニー制よりも明確な投資リターンを示すことが可能です。持株会社は、それぞれが法人格を有した企業なので、財務諸表は個別に作成されます。
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マトリクス組織
マトリクス組織とは、機能別組織と事業部制などの二元的な部門化基準により編成される横断的組織のことをいいます。これは、2つの命令系統を持つので、ワンマンツーボスシステムとも呼ばれます。 マトリクス組織は、製品、職能、地域などにより二元的な管理を行う組織なので、経営資源を効率的に活用することができます。また、二元的な命令系統を持つので、組織の情報処理能力と環境適応能力が向上するともいわれています。 〈特 徴〉 ワンマンツーボスのシステム 〈メリット〉 機能別組織と事業部制などの2つのメリットを同時に得られる、人材を共有して有効活用できる 〈デメリット〉命令系統が不明確になりやすい、管理者の間で意見の対立や権力争いが起きやすい        1人の組織構成に対して2人のボスが相反する命令をした場合、命令系統の二元化により組織構成        員の混乱が生じるおそれがあります。 マトリクス組織では2 つの命令系統が存在する形になります。そのため、命令系統が不明確になり、コンフリクトが発生しやすいという欠点があります。この欠点を補うための方策として、マトリックス組織が有効に機能するためには、複数の命令系統に柔軟に対応し、コンフリクトを創造的に解決する組織文化の裏付けが必要になります。 コンフリクトが発生した場合には、それを調整するためにマネジャーの情報処理負担が高くなります。一般的には、事業マネジャーに決定権限を持たせるなどの方策を取るため必ずしもトップマネジメントの情報処理負担が高くなるとは言えません。 非関連事業に多角化した企業では、各事業に含まれる機能は大きく異なることになります。そのため、事業間で、共通の機能部門を設けてマトリクス組織を導入するメリットは低くなります。
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組織のコンティンジェンシー理論
組織のコンティンジェンシー理論とは、外部環境により最適な組織構造は異なるという理論のことをいいます。 つまり、状況によって最適な組織構造は異なることを示した理論です。 組織のコンティンジェンシー理論の主なものに、次のものがあります。 ●T. バーンズとG.M.ストーカーの機械的システムと有機的システム  安定した産業では官僚的組織が向いており、不安定な産業では、より柔軟な組織が向いています。次の組織構造の2つのタイプを発見し、最もよく環境に適合する組織構造は環境状況によって異なると主張しました。機械的システムとは、高度に構造化され、集権的で、官僚制のような特性を持った組織構造のことで、これは安定的な環境下で好業績をおさめます。これに対して、有機的システムとは、組織構造がルーズで、分権的で、コミュニケーションが活発で、文書によらない課業の遂行や柔軟な課業配分などの非官僚制的な特性を持った組織構造のことで、これは、不安定な環境下で好業績をおさめます。 ●P.R.ローレンスとJ.W.ローシュの課業環境と組織構造の関係  不安定な環境に置かれている組織が業績を向上させるためには、分化と統合の2つの機能を併せ持っている必要がある。つまり、分化して専門化をしていくことで効率を高め、その際に発生するコンフリクトを解決するための高度な統合機能を持つ必要がある、課業環境がより不確実で多様なケースだと、より分化が進展し、部門間の組織特性の差異の程度が高くなり、より強力な統合がなされ、組織全体の共通目的達成のための協働を促す力が働くことになります。 ```  不確実な環境に対応するためには、次のような方法があります。 ●処理する情報を減らす スラック資源を持っておく方法 自己完結型の組織にする方法 ●情報処理能力を増やす 横断的な組織を設ける方法 情報処理システムを整備する方法 ```  組織のコンティンジェンシー理論には、この他に、J. ウッドワードの技術と組織構造の関係や、J.D.トンプソンの環境の不確実性と組織構造の関係などがあります。
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組織スラック
組織スラックとは、組織における、過剰な人員、使用していない設備、生産のロスタイム、内部留保などといった余剰資源のことをいいます。  組織スラックには、次のような機能があります。 ●利害関係者を組織に繋ぎとめるための誘因  組織スラックを利用することにより、企業が、株主・債権者・取引企業・顧客・従業員などの多様な利害関係者の「貢献」を上回る「誘因」を与えることができ、利害関係者を組織に繋ぎとめることができます。 ●コンフリクト解消のための資源  企業内での対立や企業と利害関係者間における対立を解消するためには、多くの経営資源が必要とされますが、このような場合に、組織スラックが活用されます。 ●ワークフロー・プロセスにおける緩衝材  企業が原材料や部品の在庫保有量を増やせば、サプライヤーの急な納期の延長に対応することができ、急な需要の増加に対処することもできます。 ●戦略的行動やイノベーションの促進  組織スラックを革新のための源泉とすることによって、イノベーション(革新)を生み出すことができます。 組織が問題志向の探索を行う場合、実現可能な選択肢から、利害関係者が満足して受け入れることができる選択肢へと探索の範囲を削減する際に組織スラックが生じます。このように、組織スラックは、利害関係者が組織に対して求める要求が、満足水準に基づくことから生じる傾向にあります。 企業が組織スラックを活用することによって起こす革新のことを、スラック革新と言います。
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資源依存モデル
資源依存モデルは、組織が外部組織から自由裁量が制限される状況を表します。組織は、外部の組織に資源を依存している度合いが強いと、自由裁量が制限されます。 資源依存モデルにおいて、外部の組織への依存度を決める要因には、次のものがあります。 ●資源の重要性  組織にとってその資源の重要性が高いと、依存度が高くなるといえます。例えば、主要な部品の調達先のほうが、代替可能な消耗品の調達先よりも依存度が高くなります。 ●外部の組織が自分に対して持つ自由裁量度 ●資源の集中度  資源の集中度が高いと依存度が高くなるため、依存度のマネジメントが必要です。これは、調達先が複数よりも1社に集中している方が、依存度は高くなるということです。なぜなら、その資源を購入するには、その資源を独占している1社に依存するしかないからです。 ``` 依存度をマネジメントする方法: ●依存を回避する  代替の取引先を見つける、取引先を多角化するなど ●依存度をコントロールする  依存は認めつつ、外部組織と協調する  第三者から外部組織の操作を試みるなど ```
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取引コストアプローチ
取引コストとは、ある取引を行うためのコストのことをいいます。取引コストアプローチ(取引コストの理論)は、O.E.ウィリアムソンがモデル化したものです。取引コストとは、取引を成立させるために必要な総費用のことをいいます。これには、取引相手を探すためにかかるコストや、条件を交渉し契約するのにかかるコスト、その契約が正しく実行されるかを監視するためのコストが含まれます。ある活動を内部で行うか外部で行うかを選択する際に、役に立つ考え方が取引コストアプローチです。取引コストアプローチによると、取引コストによって、次のように判断されます。 ●市場の取引コストが社内の管理コストを上回る(取引コストが高い)場合 → その活動を内部に取り込む ●市場の取引コストが社内の管理コストを下回る(取引コストが低い)場合 → その活動を外部に出す *取引コストには、取引相手の探索費用や、取引相手が不誠実な取引を行うリスクなども含まれます。 ◆探索コスト:  取引相手を探すコストです。探索コストは求めているものが市場で手に入るかどうかとか、誰が最も安く売ってくれるかというような情報を収集するコスト。 ◆交渉コスト:  条件を交渉し契約するのにかかるコストです。交渉コストは、相手との取引で双方が受け入れ可能な同意に達するのに必要なコストのことであり、適切な契約を締結するのに必要なコスト。 ◆監督と強制のコスト:  契約を正しく実行させるためのコストです。監督と強制のコストは、取引相手に契約を確実に遵守させるためのコストのことであり、もし契約が守られなかった場合に採られる適切な行動に必要なコスト。 ----------------------------------------------------------------------------------------------- 活動を内部化した場合は、市場原理による最適化が働きにくいという問題点があります。これを避けるためには、完全に内部化するのではなく、関連会社や系列会社など中間的な組織にするのも一つの方法です。これを、中間組織化といいます。
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組織均衡の5 つの中心的公準
1. 組織は、組織の参加者と呼ばれる多くの人々の相互に関連した社会的行動の体系である。 2. 参加者それぞれ、および参加者の集団それぞれは、組織から誘因を受け、その見返りとして組織に対する貢献を行う。 3. それぞれの参加者は、彼に提供される誘因が、彼が行うことを要求されている貢献と等しいかあるいはより大である場合にだけ、組織への貢献を続ける。 4. 参加者の様々な集団によって提供される貢献が、組織が参加者に提供する誘因を作り出す源泉である。 5. したがって、貢献が十分にあって、その貢献を引き出すのに足りるほどの量の誘因を提供している限りにおいてのみ、組織は「支払能力がある」すなわち存在し続ける。 貢献はメンバーの労働であり、誘因は、給料や福利厚生、やりがいのある仕事などが挙げられます。
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官僚制の逆機能
``` M.ウェーバーによると、官僚制組織とは、組織の目的を達成するための合理的なシステムのことをいいます。官僚制組織には、次のような特徴があります。 ・ 規則によって課業を配分する職務権限の原理 ・ 集権性ならびに階層システム ・ 文書による課業の処理と記録 ・ 課業遂行のための専門的訓練を受けたものが担当する専門性 ・ 課業遂行の専従化 ・ 公式的な非人格的課業遂行 ```  この官僚制には、官僚制の原理を追求しすぎることによって、かえって組織の有効性を減少させてしまうという弊害が発生することがあります。R.マートンらが主張した官僚制の逆機能とは、官僚制の原理を追求しすぎることによって組織の有効性を減少させてしまうことをいいます。 このように、官僚制には、組織の中の規則や機構がもともとは目的追求に役立つものとして制定されたはずなのに、逆に目的追求を損ねている状態が起きることがあります。具体的には、次のような現象が挙げられます。 ①セクショナリズム セクショナリズムとは、組織の部署内の権限や利害に固執して、組織全体の最適化を図ることができなくなることをいいます。 ②形式主義 内容よりも形式を重んずる考え方のことをいいます。 ③規則万能主義 規則万能主義とは、現実の課題に対して、規則がないから対応できないとする考え方のことをいいます。 ④事なかれ主義 事なかれ主義とは、解決しなければならない問題が発生しているのに、それに関わろうとせず、放置することをいいます。 ⑤員数主義 員数主義とは、本来の意図した目的に用いることができないものであっても、文書上、数の帳尻を合わせて、書類上の数値があっていればそれでよしとする考え方のことをいいます。 ⑥繁文縟礼 繁文縟礼とは、規則が細かすぎて、手続きが煩雑なため、非効率になってしまうことをいいます。 ⑦目的置換 目的と手段が逆転してしまうことをいいます。 ----------------------------------------------------------------------------------------------- グレシャムの法則とは、「悪貨が良貨を駆逐する」というものです。このグレシャムの法則を意思決定に当てはめたものに、計画におけるグレシャムの法則というものがあります。非定型的意思決定は定型的意思決定に比べて困難で面倒なことが多いです。このことから、非定型的意思決定は定型的意思決定に駆逐されやすいため、定型的意思決定が非定型的意思決定に優先されることを、計画におけるグレシャムの法則といいます。革新的な計画に抵抗するために、日常のルーティン対応を探し求めるのはグレシャムの法則ですが、「組織の中の規則や機構がもともとは目的追求に役立つものとして制定されたはずなのに、逆に目的追求を損ねている状態」ではないため、官僚制の逆機能ではありません。
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組織のライフサイクル
企業者段階:管理活動は重視されていない。起業家の強力なリーダーシップが必要な時期 共同体段階:次第に起業家による属人的経営から権限移譲に移行し文献的な組織構築が必要な時期 公式化段階:各種規則や手続きが導入され、次第に官僚組織化する。官僚制の逆機能を克服が必要な時期 精巧化段階:環境変化にじゅんたんに対応する組織を構築する段階。組織の再活性化が必要となる時期
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F.Wテイラーの科学的管理法
F.Wテイラーは、生産現場を科学的に分析し、課業を設定することにより、効率的な管理をする科学的管理法を提唱し、生産現場に近代化をもたらしました。 ●課業管理 時間研究や動作研究によって科学的に一日に行う作業量を「課業」として設定し、これに基づいた課業管理をする ●4つの管理原則 ①課業を設定すること、②標準的な条件を設定すること、③課業を達成した労働者には高い賃金で報いること、④課業が達成できなかった労働者には低い賃金にすること 〈成 果〉現代の経営管理の基礎を提供、経営工学(IE:Industrial Engineering)の発展の契機 〈問題点〉対象が工場の作業に限定されているため、全社的な管理の視点がない、人間を生産するための機械のよ      うに捉えている(経済人モデル) F.Wテイラーは、差別出来高給制度(労働者に与えられた課業の達成度合いによって賃金率を決める制度)を提唱しました。動作研究と時間研究によって科学的に決定された標準作業量である課業(タスク)を達成した労働者には高い賃金率で賃金が支払われ、達成できなかった労働者には低い賃金率で賃金が支払われるという制度です。 テイラーは、万能職長制度から、職長の機能を8つに分け、それぞれの仕事を職長に分担させる制度職能別職長制への移行を提唱しました。従来、1人の職長がすべての計画、管理、執行を担当する万能職長制度が採用されていました。職能別職長制度とは、職長の機能を大きく計画機能と執行機能に分け、職長の仕事を8分野に分類し、それぞれの仕事を職長に分担させる制度のことをいいます。この職能別職長制度は、専門化の原則に従っています。
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F.J.レスリスバーガーらの社会人モデル
1920年代から30年代にかけて行われたホーソン実験を発端として人間関係論が発展しました。F.J.レスリスバーガーらは、社会人モデルを提唱し、人間は、公式な組織だけではなく、非公式組織(インフォーマル組織)を形成し、インフォーマル組織が公式組織に大きな影響を与えると主張しました。 〈成 果〉経済人モデルから、感情を伴って行動する社会人モデルへと発展 〈問題点〉人間の感情を重視するだけでは生産性は向上しない、個人的な目的を持って自律的に行動する人間を動      機づけするには不十分
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経済人モデル及び機械人モデルと社会人モデル
人間観として、テイラーの科学的管理法では、経済人モデルおよび機械人モデルがとられています。経済人モデルとは、人間は最も合理的な選択をするものと考える人間観のことをいいます。これによると、人間は経済的な金銭によって動機づけられることになります。また、機械人モデルとは、労働者の人間性を軽視し機械のように扱う人間観のことをいいます。 これに対して、人間関係論においては、社会人モデルがとられています。社会人モデルとは、個人は、孤立した者ではなく集団の一員としての社会的存在であるとし、単に経済的欲求を満たすためだけでなく、友情や帰属感などの社会的欲求を図ろうとする存在であるとする人間観のことをいいます。
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ホーソン実験
ホーソン実験とは、1924年から1932年にかけて、G.E.メイヨーらによって行われたウエスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行った作業環境と生産性の関連性に関する一連の実験のことをいいます。この実験では、作業環境の改善をしても労働生産性は向上しないけれども、職場の人間関係が労働生産性を向上させる要因となっていることが明らかになり、職場におけるインフォーマル組織の存在が発見されました。 ホーソン実験の結果として、生産に影響を与える要因は作業条件ではなく、非公式な人間関係が重要だということが示されました。 ホーソン実験をきっかけに発展した人間関係論では、合理的な基準で行動する経済人モデルから、感情を伴って行動する社会人モデルへと発展したことが成果です。
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モチベーション(動機づけ)
モチベーション(動機づけ)とは、組織の目的に積極的に貢献しようとする組織構成員の意識的な行動を喚起することをいいます。個人の欲求や動機の内容について主なものに、次のものがあります。 ●A.H.マズローの欲求段階説(欲求階層説)  欲求には次の5つの階層があり、人間はまず下位の欲求によって動機づけられ、下位の欲求が充足されると、逐次より上位の欲求によって動機づけられると主張。【生理的欲求→安全欲求→社会的欲求→自我欲求→自己実現欲求】 しかし、最高次の自己実現欲求だけは、充足されても関心がなくなることはなく、満たされるほど一層関心が強まるとし、このような欲求の充足を労働意欲向上のための動機づけの手段とすることが重要であると主張しました。 ●D.マグレガーのX理論・Y理論  D.マグレガーは、人間は本質的に仕事嫌いで、強制、命令等がなければ働かないというX理論ではなく、人間は本質的に働くことをいとわず、動機づけがなされれば、能動的に自己の目標達成に向けて働くというY理論にもとづき経営を行うことを主張しました。つまり、下位の欲求を持つ人間行動モデルであるX理論を前提とした従来の経営管理から、上位の欲求を持つ人間行動モデルであるY理論を前提とした自主管理、従業員参加制度、能力開発などを含んだ経営管理に変更すべきであるとの主張です。 ●F.ハーズバーグの動機づけ・衛生理論(二要因理論)  F.ハーズバーグの動機づけ・衛生理論における動機づけ要因とは、満足感と結びつく要因のことです。一方、衛生要因とは、不満の予防にしかならない要因のことをいい、具体的には、給与、労働条件などが挙げられます。 これらの要因を高めても、不満足は減少しますが、積極的な動機づけにはなりません。  組織は人々の満足を高めるために、動機づけ要因(達成感や認められること、仕事そのもののやりがいや責任、昇進、成長などマズローの高次の欲求段階に相当する欲求)を充足させ、職務充実(ジョブ・エンリッチメント):仕事を垂直的に充実させること(垂直的な拡大)に努めるべきであると主張しました。 ●C.アージリスの未成熟・成熟理論  C.アージリスは、人間は未成熟の段階から成熟していく存在であるのに対して、組織の既存のルールは、従業員に未成熟な状態でいることを要求してしまい、人間の成長を押さえつけてしまうのが問題であると指摘しました。そこで、組織は人間の成長を妨げないように、職務拡大(ジョブ・エンラージメント):仕事を水平的に拡大すること(水平的な拡大)することにより、従業員に成長の実感を与えることが重要としました。
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V.H.ブルームの期待理論
ブルームは、動機づけの内容や強さは、人により異なると指摘しました。それによると、動機づけの強さは、次のように表されます。 動機づけの強さ=報酬の期待される価値×報酬を得られる確率  報酬:金銭的な報酬だけではなく、仕事の充実感や得られる尊敬など、個人にとって動機づけとなるものすべて  報酬を得られる確率:特定の成果をもたらすであろうという主観的な見込みの程度 なお、これをさらに発展させたものに、次のようなVIE理論と呼ばれるものもあります。  仕事へのモチベーションの強さ=期待×誘意性×道具性  期待(Expectancy):特定の成果をもたらすであろうという見込み(主観的確率)  誘意性(Valence):その行動の結果がもたらす魅力の度合いや満足度  道具性(Instrumentality):その行動をとることがどれほど役立つか
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職務拡充(職務拡大と職務充実)
職務を通じた動機づけを目的とした管理方法を、職務再設計といいます。この職務再設計の方法のひとつに職務拡充というものがあります。この職務拡充とは、職務拡大と職務充実のことです。 ``` ●職務拡大(ジョブ・エンラージメント):C.アージリス  仕事の範囲を拡大することで、従業員に成長の実感を与えること  個人が行うタスクの数や種類を増やし、職務に多様性を持たせるもの  職務拡大は仕事の範囲を広げるだけですので、新たな上司や同僚との調整コストは発生しません。  職務の水平的な拡大 ``` ●職務充実(ジョブ・エンリッチメント):F.ハーズバーグ  仕事の計画や判断など責任と権限を拡げることで、仕事を質的に充実させること  職務の計画、実施、評価を、自分自身で管理できるようにするもの  職務の垂直的な拡大
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内発的動機づけ理論
外発的動機づけは強制や懲罰、評価、報酬などが要因となる一方、内発的動機づけは、例えば業務等に対する興味や関心から意欲がわいて業務遂行等からの達成感や満足感、充実感を得たいという欲求が要因となります。内発的動機づけは外発的動機づけよりも自発的な行動につながりやすく、かつ、持続的です。 ◆デシの内発的動機づけ デシは、「人は有能感をもつことで行動の主体としての自己の存在を意識することができ、自ら決定し行動を選択することで納得して取り組むことができる。ここから、外部環境に偶然的に支配されるのではなく、自らが主体となって自律的に環境を支配しようとする行動へのモチベーションが生まれる」としました。報酬のためにやらされているのではなく、自分の好きにやっているという自己決定が重要であるという考え方です。 有能感(competence)とは、自己がおかれている環境に効果的に対処できる能力をいい、自己決定(self-determination)とは、この能力にもとづき、自分の意思で行為を選択することをいいます。 ◆チクセントミハイのフロー心理学 チクセントミハイのフロー心理学では「人が極度に集中している、没頭している状態」を「フロー状態」といい、フロー状態において人は充実感を得る事ができ、モチベーションが続きます。特定の作業に没頭する中で、自分自身や環境を完全に支配できている感覚を「フロー経験」と呼び、フロー経験を得るには、「活動の過程における成功と失敗が明確で、行動が必要に応じて調節される直接的で即座な反応」、「活動の目的が難しすぎず易しすぎない」「活動に本質的な価値があり活動が苦にならない」等が条件となります。また、そうした経験は他者からのフィードバックも必要とせず、給与などの報酬とも無関係であるとしました。 ◆ホワイトのコンピテンス(有能性)概念 コンピテンスとは環境に対する適応能力を指す概念で、「個人が経験・学習を通して獲得した能力をある状況下であれば有効に作用するだろうと考える潜在能力を持つこと」、「その状況下でその潜在能力を有効に活用することで自分の有能さを発揮しようと動機づけられること」の2つを統合した概念です。自分の能力がある環境下で活かされるだろうと考えて意欲がわく状況をホワイトは「自己効力感」と呼び内発的な動機づけの源泉としました。環境と相互作用する有機体の能力自体が、「うまくいった」という内発的な動機づけの源泉となるという主張です。
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職務特性理論
職務特性モデルは、仕事の性質や特性そのものがモチベーションに深くかかわっていると考える理論です。つまり、仕事自体が面白ければ、モチベーションが高まるということです。 職務特性モデルでは、モチベーション(動機づけ)を高めるための5つの中核的職務特性があります。 中核的職務特性モデルでは、モチベーションはこういった職務特性に影響されるとされています。 1.技能多様性 必要とされるスキルの多様性。ある仕事をするのに、様々なスキルを必要とする方が仕事の単調さから解放され、動機づけが高まる。 2.完結性 仕事の流れの全体に関与できること。自分の仕事が職務の一部分であるよりも、職務として完結しているほど動機づけが高まる。 3.重要性 仕事の出来栄えが他の人(社内や顧客)にとって重要なこと。自分の仕事が他の人にとって重要で価値があるほど動機づけが高まる。 4.自律性 自分で工夫できる裁量が大きいこと。ある仕事をするのに、自分で計画し、工夫できる余地があるほど動機づけが高まる。 5.フィードバック 仕事そのものからフィードバックを得られること。仕事の成果についての情報を直接的に得られるほど動機づけが高まる。
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リーダーシップの行動類型論
●K.レヴィンのリーダーシップ類型論 ①専制型リーダーシップ、②民主型リーダーシップ、③放任型リーダーシップに類型化 このうち、民主型リーダーシップが最も望ましい ●R.リカートのシステムIV理論 ①独善的専制型、②温情的専制型、③相談型、④集団参加型に類型化 これらのうち、集団参加型(システムIV)が理想 このシステムIVにおける組織は、個人ではなく小集団が単位となって重複的に階層構造をしており、各集団のリーダーは上下の階層を結び付ける「連結ピン」として機能しています。このような管理システムでは、上位から一方的に命令が伝達されるのではなく、部下の参加により下位から上位へのコミュニケーション経路を確保することができるようなリーダーシップ・スタイルが重要になります。 ●R.R.ブレークとJ.S.ムートンのマネジリアル・グリッド タテ軸に「人間に対する関心」を、ヨコ軸に「業績に対する関心」をとり、それぞれ9つのレベルでリーダーシップ・スタイルを合計81種類に類型し、以下の5つを基本形としました。①1・1型(消極型):「人間に対する関心」も「業績に対する関心」もいずれも低い、②1・9型(人間中心型):「人間に対する関心」は高く「業績に対する関心」は低い、③5・5型(中庸型):「人間に対する関心」も「業績に対する関心」もいずれも中程度、④9・1型(仕事中心型):「人間に対する関心」は低く「業績に対する関心」は高い、⑤9・9型(理想型):「人間に対する関心」も「業績に対する関心」もいずれも高い。これらのうち、業績および人間に対して高い関心を示す9・9型の管理者が理想的リーダーであると主張しています。 ●C.シャートルのオハイオ研究 「構造作り」と「配慮」の2つの軸により類型化 優れたリーダーは双方を高度に行う ●三隅二不二のPM理論 P機能(目標達成能力)とM機能(集団維持能力)により、①PM型、②Pm型、③pM型、④pm型に類型化 これらのうち、PM型(P機能、M機能ともに大きい)の生産性が最も高い
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リーダーシップのコンティンジェンシー理論
リーダーシップのコンティンジェンシー理論は、唯一最善のリーダーシップは存在せず、 組織の状況がリーダーの行動に影響を与える程度によって異なる、状況によって適合するリーダーシップは異なるという理論です。 ``` ●F.E.フィードラーのコンティンジェンシー理論 指示や命令を中心とした「仕事中心型」人間関係の配慮を中心とした「人間関係中心型」に分類 ・リーダーが統制しやすい状況の場合 → 仕事中心型の方が、業績が高い ・リーダーが統制しにくい状況の場合 → 仕事中心型の方が、業績が高い 上記のいずれの場合においても仕事中心型の方が業績が高い点に留意。 一方、 ・中間的な場合 → 人間関係中心型の方が、業績が高い となります。統制しやすい状況とは、メンバーがリーダーを信頼しており、仕事内容が明確で、リーダーの権限が強いような場合のことをいいます。 ``` フィードラーは、リーダーが過去に一緒に仕事をした協働者のなかから、最も好ましくないと思った者に対する態度を、LPC(Least preferred coworker)得点として測定しました。このLPC得点の高い者が、「人間関係中心型(人間関係指向的)リーダー」と呼ばれます。これに対して、このLPC得点が低い者は、業績を上げることに主たる満足を見いだす者で、「仕事中心型(課業指向的)リーダー」と呼ばれます。 ●R.ハウスのパス=ゴール理論(目標=経路理論) R.ハウスによるパス=ゴール理論(目標=経路理論)は、リーダーの職務はメンバーに対して報酬の目標を示し、部下の業務目標の達成を助けることであり、そのために必要な方向性や支援を与えることにあるとしました。また、部下の能力が高く、仕事が高度なほど、参加的なリーダーシップが有効だと指摘しています。
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リーダーシップの力
``` 【組織から公式に与えられる勢力】 ●合法(正当)勢力  リーダーが組織から付与される力は、組織から与えられた権限から生じるパワーです。 ●報酬勢力  報酬を与える能力から生じるパワーです。 ●強制勢力  従わない場合に罰則を与える能力から生じるパワーです。 ``` 【個人的努力や資質から生じる勢力】 ●専門勢力  専門的知識や技術から生じるパワーです。 ●準拠勢力  個人的魅力や一体感から生じるパワーです。 ----------------------------------------------------------------------------------------------- メンバーがリーダーに対して個人的な魅力や一体感を感じているときに生まれるパワーを準拠勢力(同一視力)といいます。これは、メンバーがリーダーに対して同一化するもので、リーダーが個人や集団を追従させるパワーの源泉とまでは読み取れません。また、メンバーが自分と同じような資質や個性を備えたリーダーに対して個人的な魅力や一体感を感じるとは限りません。
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組織開発
組織開発とは、組織の有効性や従業員のウエルネス(心身ともに良好な状態)の改善を目指して、人間的かつ民主的価値観のもとで計画的に組織変革に介入するマネジメント手法です。組織開発の目的は,組織の健全さ、効果性を高めることにあります。そのため、取り組みのプロセスを重視するとともに、問題解決の結果にはこだわることになります。 組織開発が重視している価値観には、次のものがあります。 ① 人間尊重の価値観  人間は基本的に善であり、最適な場が与えられれば、自律的・主体的にその人間の能力を発揮するものと考えられています。組織開発においては、組織メンバーは、責任感をもち、誠実で思いやりがある存在として尊敬に値するという価値観、そして、信頼関係で結ばれ、他者に対して開かれ、協力的な環境を持った組織が効果的で健全であるという価値観が重視されます。 ② 民主的な価値観  意思決定する際には、関連するできる限り多くの人が参加し関与した方が意思決定の質が高まると考えられています。そのため、変革の影響を受ける人を決定に参加させ、変革の実行に関与させることが重視されます。 ③ 当事者中心の価値観  当事者が現状と変革に関与し、自ら主体的に変革に取り組むものと考えられています。そのため、組織開発においては、階層的な権威や支配にこだわらず、当事者を中心とするという価値観が重視されます。 ④ 社会的・エコロジカル的システム志向の価値観  組織内の視点だけで果たされるものでなく、組織を取り巻く社会や環境をも重視しています。よって、組織開発の結果、社会や環境に悪影響を及ぼすことになることは避ける必要があります。
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組織学習
組織学習とは、組織やメンバーが新しい知識を獲得する活動やプロセスのことをいいます。組織学習を進めることにより、知的経営資源を蓄積し、企業の競争力を高めることができます。ここでの学習とは、知識を学ぶことだけでなく、組織の能力を向上させることと、一般に捉えられています。知識を学ぶことに限定されるわけではありません。組織の能力を向上させることがポイントです。 組織学習には、組織の発展段階により、次の2 種類のものがあります。 ●低次学習(シングルループ学習):既存の枠組みのなかで行う学習 ●高次学習(ダブルループ学習):既存の枠組み自体を変革するための学習 ``` 組織学習にはサイクルがあり、 ①個人が学習した結果、個人の信念が変化する段階 ②個人の行動が変化する段階 ③組織の行動に影響する段階 ④行動の結果、環境に変化をもたらす段階 の4つの段階があります。このサイクルがうまく回れば、組織学習は効率的に進みますが、組織内においては様々な制約があり、うまく進まないことがあります。そのひとつには、個人の役割による制約があります。この制約によって、新たな知識を習得しても個人が行動を起こせず、②や③の段階に進めないことがあります。また、部門間を緩やかな結合関係にすると、部門間の情報伝達が乏しくなることにつながります。そのため、個人や特定の部門で学習した情報が組織的に伝わりにくくなり、傍観者的学習の可能性が高まります。この傍観者的学習も、組織学習のサイクルにおける制約のひとつで、組織は全体として環境の変化に適応しにくくなります。 ``` 環境変化の少ない状況下では、ルーティンがより高い成果につながる可能性が高いですが、環境変化が大きくなった場合、高い成果につながる可能性は低くなります。慣性が高い組織というのは、ルーティンのような既存の枠組みを継続する傾向の強い組織であり、いずれ環境変化も起こり得る長期的な適応能力は低くなります。 組織の中で、知的資産を共有する方法としてナレッジマネジメントがあります。 ナレッジマネジメント(KM:Knowledge Management)では、ナレッジを蓄積し共有するだけでなく、個人の持つ暗黙知を、組織的な形式知として活用していくことが重要です。ナレッジマネジメントとは、知識を共有して活用することで、新たな知識を創造しながら経営を実践することをいいます。ここで、言葉や数字で表現しにくい技能やノウハウのことを暗黙知といい、言葉や数式で表現できる知識のことを形式知といいます。
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SECI モデル
ナレッジマネジメントでは、個人の持つ暗黙知を、組織的な形式知として活用することが大切です。この暗黙知を形式知に変換する流れを、4つのプロセスで説明したものが SECI モデルです。SECI モデルでは、以下の4つのプロセスを繰り返し、組織的な形式知を生み出していきます。 ●共同化・社会化(Socialization)  個人の持つ暗黙知を、別の個人が、自分の暗黙知として取り込むプロセスです。複数の個人が共通の体験をすることにより、特定の個人が持つ、言葉にならないノウハウのようなものを、別の個人が吸収することができます。 ●表出化(Externalization)  個人が持つ暗黙知を、他人に伝わりやすくするため、言語や図表などを使って形式知にするプロセスです。表出化を実現させるためには、他人と対話をしたり、一緒に考えたりすることが有効です。暗黙知である新製品イメージを、具体的な言葉によって新製品コンセプトとして形式知化して表現することは表出化にあたります。 ●連結化(Combination)  個別の形式知を組み合わせて、新たな形式知を生み出すプロセスです。たとえば、文章にされた個別のメモを体系立ててマニュアルを作るようなケースです。 ●内面化(Internalization)  個人が形式知を理解し、自分自身のノウハウやスキルとして体得(暗黙知化)するプロセスです。 以上のプロセスを繰り返すことにより、組織に共有の知識(形式知)が蓄積されていきます。
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キャメロンとクインの組織文化理論
組織文化は、組織メンバーの間で共有された価値や理念、あるいは習慣となった行動パターンと定義することができます。経営理念が、トップが定めるものであるのに対し、組織文化は組織メンバーの間で形成されるものです。 キャメロンとクインは組織文化理論として4つに類型化しました。 ◆クラン文化(協調的):【支援的リーダーシップ】 クラン文化は上下関係で指揮命令するのではなく、仲間(クラン)として水平的な関係性を特徴とします。従って、リーダーシップは【支援的リーダーシップ】になります。従って、従業員はそれぞれの価値観を尊重され、自主的に選択された研修プログラムが提供されます。社会化研修として画一的な教育を受けるのではありません。 ◆ハイアラーキー文化(統合的):【規則や手続きの遵守】 ハイアラーキー文化におけるハイアラーキーはヒエラルキー(階層)のことです。明確な階層構造がある官僚的組織をイメージしましょう。そのような組織では【規則や手続きの遵守】によるリーダーシップが適しています。官僚組織では、業務の規則、規定、マニュアル等の文書整備が行きわたっており、ルール化されています。 ◆マーケット文化(競合的):【現実主義的なリーダーシップ】 マーケット文化では、プロセスよりも市場シェア拡大等の結果を重視するといった点で【現実主義的なリーダーシップ】です。 ◆アドホクラシー文化(創造的):【企業家的・革新者的なリーダーシップ】 アドホクラシー文化では、ミンツバーグはアドホクラシー組織を「権限が常に移動している組織で、関係者間の相互調整により、インフォーマルなコミュニケーションや有能なプロフェッショナル同士の相互作用」を特徴としました。常に創造性を発揮し、組織外部に発信していくようなベンチャー企業をイメージすると理解しやすいでしょう。従って、リスクを進んで取っていこうとする【企業家的・革新者的なリーダーシップ】が求められます。
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組織アイデンティティ
組織アイデンティティとは「組織メンバーにより、自分たちの組織に対して知覚している、中心的、連続的、独自的な属性」です。中心性とは組織アイデンティティが自分たちのアイデンティティに対する最も中心的な答えであることをいいます。連続性とは、組織の一環として持続する特徴です。独自性とは他の組織と区別することができることを言います。 組織アイデンティティはトップマネジメントが経営理念や組織文化に反映していく自社のイメージであって、競争上のポジションという競争戦略レベルで確立されるものではなく、「我々は何者であるか」に対する答えといえます。 組織アイデンティティは一貫して持続する特徴(連続性)があるものの、他者からの評価に影響を受け変化し得るものです。 また、組織アイデンティティが強くなれば、組織文化に埋め込まれ、他者に自社イメージを印象付けて組織文化として理解されます。 組織アイデンティティによって異なる利害関係者が関わる組織において、異なる利害を一つに集約したり、コンフリクトに対する方向性を決めることができます。したがって、組織アイデンティティは効果を発揮することができます。 単一の組織アイデンティティでは環境変化への適応の抵抗要因になりえます。組織は、例えば拠点や部門ごとに組織アイデンティティが異なるなど、複数の組織アイデンティティを有することが少なくなく、環境変化に柔軟に対応することを可能にしています。一方で組織内の調整コストやコンフリクトが生じるという問題がありますが、環境に過剰適応を生み出すとは言えません。
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コンフリクト
コンフリクトは様々な組織や個人の間で発生します。組織が様々な考えや価値観を持った個人の集団である以上、コンフリクトは避けられません。 ◆コンフリクトの発生要因 資源の希少性:組織が活用できる資源が不足している場合(経費の予算や人員の配置で部門間の合意が得られない場合など) 自律性の確保:互いが自立を求めて、他者を統制し、自らの管轄下に置きたいと意図した場合       (ある部門が他の部門に支援を要請したが合意に至らないような場合) 意図関心の分岐:組織内の作業集団で、共通の目標を確立するに至らず、協力関係のコンセンサスが成り立たない場合 組織を活性化したり、変革をするためには、コンフリクトをうまく利用することが重要になってきました。つまりコンフリクトが無い組織は停滞しがちなため、様々なアイデアや意見を出し合ってあえてコンフリクトを起こし、創造的にコンフリクトを解決していくことで変革を実現するという考え方です。そのためには、コンフリクトを管理する技術、つまりコンフリクト・マネジメントが必要です。 組織内のスラックとは、経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)の余裕を意味します。組織内のスラックが多いと、いざというときに力を発揮する余裕があるという点で、各部門に組織内スラックがあると部門間の資源依存関係は減少します。つまり独立性が高まります。従って、目標達成ができない場合に他部門に対し責任を負わせるようなコンフリクトは起こりづらくなりますので、部門間コンフリクトは発生しにくくなります。 組織内の部門間コンフリクトは、共同意思決定の必要性が高ければ高いほど、部門間の意見の違いが際立つ機会が多くなります。また、予算など限られた資源への依存度が大きいほど、他部門との調整を困難にするため、コンフリクトの発生可能性は高まります。 命令の一元性の確保は部門間の目標や知覚の分化は進みづらくなります。なぜなら、命令の一元性により、同じリーダーとのやり取りが頻繁に行われるため、リーダーに分かりやすい表現が求められるからです。一方、命令の一元性が確保されても、部門間コンフリクトは生じるため、双方の因果関係はありません。 目標が共有されている部門間でコンフリクトが生じた場合、その基準を満たす解決策を探索するために、バーゲニング(取引・交渉)が解決策の探索に利用される可能性が高くなりますが、政治的工作は失敗するとコンフリクトの深刻さを増しますし、成功しても、部門内のメンバーにとって納得感が得られないこともあり、表面的な和解がされるにとどまります。
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組織変革への抵抗
一般的に、組織は時間が経つにつれて固定的になり、変革への抵抗が生じてきます。変革の抵抗の原因としては、1 つは変革することでコストが生じるという理由です。特に、既に発生しており回収できない埋没コストがある場合は、変革への抵抗が生じます。例えば、大規模な設備投資を行った事業から撤退する場合は、抵抗が予想されます。 次に、変革の必要性の認識が不足しているという理由があります。つまり、危機的な状況に向かっているにも関わらず、それを認識できないということです。また、たとえ危機を認識したとしても、現状維持の力が働くのが組織です。 ①組織で変革の必要性を認識することが必要  変革の必要性があるかを認識するには、組織の既存の手続きによって処理された情報ではなく、より加工されてないリッチな情報を入手することが必要です。例えば、顧客の生の声や、競合の実際の状況、技術の動向などのリッチな情報より、経営者が変革の必要性があるかを認識します。 変革が必要だと判明した場合は、リッチな情報を元に変革のアイデアを作成します。その際、組織内の様々なバックグラウンドを持つ人の知恵を活用することが重要です。 ②変革を実施して組織に定着させる  各種の抵抗が生じます。ここでは、トップによる制度的なリーダーシップが重要です。制度的リーダーシップとは、組織に理念を注入するようなリーダーシップです。つまり、新しい理念を表現し、それを組織の中に制度的に組み込みます。また、発生するコンフリクトを解消していくのも重要な役割です。このように、変革を成し遂げるにはトップのリーダーシップは重要です。 グループに独自の規範が形成され、グループの凝集性が高まると、組織メンバーには規範に従うよう圧力がかかります。個人が変革を志向したとしても、規範に反する行動を抑制する慣性が働き、組織変革への抵抗になります。 組織がある程度の規模になると、公式ルールが出来上がり組織メンバーはそれに従うことによりその組織が一つの社会として形成されることになります。このような公式化されたルールに従うといった社会化は、ルールから外れるような変革を生じさせにくくします。 組織固有の特殊スキルは組織外との交流がなければ環境変化に対して陳腐化に気づかない、競合他社の動向に気づかず価値を低下させてしまうといった問題が生じえます。しかし、組織の外部への専門家ネットワークを広げることにより環境変化に対する対応力が高まると言えます。 組織変革は予算、決定権限を持つグループの既得権益を奪いかねません。このようなグループは自らの利益や権力を守ろうとして変革に抵抗することになります。 部門等の組織のサブシステム内で変革が生じた場合でも、組織文化や規範が異なること、他のサブシステムでは必要性が認識されないこと等の理由により組織全体の変革までに至らず、部分的なものにとどまることがあります。
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解凍-変化-再凍結モデル(レヴィンの変革プロセス)
レヴィンの「解凍-変化-再凍結」モデルとは、組織の変革は3段階のプロセスで実行される、という考え方です。 その名のとおり、(1)解凍、(2)変化、(3)再凍結の3つのプロセスを経ることにより、組織変革が達成されるとしています。 (1)解凍    古い考え方や行動様式を持つ組織メンバーに、変革の必要性を理解させるプロセスです。   考えや行動様式の中には、メンバーのパーソナリティや社会関係と一体化しているものも含まれることもあります。現状に対して問題意識が薄い   と、組織のメンバーには変革に対する抵抗感が生まれます。新しい目標の重要性や、現状の組織が危機に瀕している状況などを伝え、変革へのモ   チベーションを高めることが必要です。必要以上に不安や脅威を煽る必要はありませんが、自分たちの失敗をきちんと認め、組織が危機に直面し   ていることを理解してもらうことは重要です。 (2)変化    組織のメンバーに、新しい考え方や行動様式を理解させるプロセスです。組織メンバーに、新しい考え方や行動様式を理解させる際には、すで   に新しい考え方や行動様式を身につけている人々と一体感や仲間意識を感じてもらうことは重要です。また、すでに新しい考え方や行動様式を身   につけている人々の立場に立つことにより、そうした考え方や行動様式の必要性が実感できることとなります。 (3)再凍結    新しい考え方や行動様式を、組織のメンバーに定着させるプロセスです。定着のためには、組織のメンバーが新しい考え方や行動様式に納得   し、自分のものとして取り入れるよう、奨励したり理解させたりする環境作りが重要です。また、彼らが重要だと思う第三者から、その行動や態   度を認めてもらうことは、大きな励みとなります。新しい役割や行動を身につけた組織メンバーは、その役割や行動が、自分自身のアイデンティ   ティに合っていたり、パーソナリティと矛盾していないと確信することにより安心します。また、その役割や行動様式を続けることへの動機づけ   にもなります。
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雇用管理
雇用管理は、人材の採用、配置、異動、退職までを含んだ人材の雇用に関する管理です。これには、次のような制度があります。 ●インターンシップ制度  新卒採用で学生が在学中に就業体験をする制度。学生は就業体験をすることにより、事前に仕事や企業に対する理解を深めることができます。  企業側は優秀な人材を採用したり、企業イメージを高めたりすることができます。 ●職能資格制度  1970年代後半以降に広く普及した制度で、様々な職能を困難度や責任度などにより区分した職能資格を設定し、それに基づいて処遇を決定する制度 ●ジョブローテーション  従業員に様々な職務を経験させることで、長期的な人材育成を図る制度 ●CDP(キャリア・デベロップメント・プログラム)(キャリア開発制度)  長期的な人材育成策。キャリア開発制度とも呼ばれます。CDPは、従業員のキャリアプランの実現と企業のニーズに合った人材育成を目的にします。 ●社内公募制度  新しい事業やプロジェクトを開始する際に、社内で要員を募集する制度
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高年齢者雇用安定法
高年齢者雇用安定法(正式名称:高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)の改正により、企業は雇用延長について、次の3つの制度のうちいずれかを行うのが義務となりました。 ``` ●定年の延長  従前の60歳定年制から65歳まで、定年を段階的に延長する ●継続雇用制度  定年の年齢になった従業員を引き続き雇用する勤務延長制度  定年の年齢になった従業員をいったん退職させた後で再び雇用する再雇用制度 ●定年制の廃止  定年を廃止する ```  少子高齢化が急速に進展する中、労働力人口の減少に対応し、経済と社会を発展させるため、高年齢者をはじめ働くことができるすべての人が社会を支える全員参加型社会の実現が求められています。 また、高年齢者雇用安定法は平成25年施行の改正で、定年に達した人を引き続き雇用する「継続雇用制度」の対象者について労使協定で限定できる仕組みを廃止したことに加え、令和3年4月の改正で、企業は段階的に65歳まで雇用を確保するこれまでの義務に加え、70歳までの就業機会の確保が努力義務として新設しました。70歳までの定年引き上げを義務付けるものではありません。
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人事評価の方法
人事評価とは、従業員の業績を評価することで、給与や昇進・昇格などの処遇や、配置・異動、教育・能力開発などの各種施策に活かしていくことを目的するものです。 ●成果主義  仕事の成果の評価をもとに、給与や昇格などの処遇を決定する 〈メリット〉 人件費を抑制しながら、優秀な従業員のモチベーションを高める 〈デメリット〉短期的な成果を求めることで長期的な視野が欠けてしまう、従業員の間の協力がおろそかになってしまう ●目標管理制度(MBO:Management By Objectives)  上司と面談の上で個人の業績目標を設定し、自主的に目標を達成する管理方法 〈メリット〉 従業員の創意工夫ややる気を引き出せる、面談により上司とコミュニケーションを取りながら仕事を進められる 〈デメリット〉意図的に目標を低く設定する現象が発生しやすい、若年者や業務によっては目標が設定しにくい、評価者の負担が増える ●コンピテンシー評価  高い業績を上げるための行動特性を明らかにし、その行動特性を基準にして人事評価を行うもの
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人事評価の際の心理的誤差
心理的誤差とは、人事評価の際の評価者の誤差のことをいいます。 ●ハロー効果  目立つ特徴により、他の要素の評価が歪められること。個別の評価要素ごとに独立して評価し、目立つ特徴により評価が歪められないようにします。 ●中央化傾向  評価に差をつけず中央に寄ってしまう傾向のこと ●寛大化傾向  評価が甘くなってしまう傾向のこと ●論理誤差  評価要素の間で間違った関連性をもとに評価してしまうこと。特定の要素が優れていると、他の関連する要素も優れていると誤解してしまいがち。 ●対比誤差  評価者自身の能力や価値観を基準にして評価してしまうこと。自身と比較して反対の特性を持つ被考課者を過大過小に評価してしまう。 ----------------------------------------------------------------------------------------------- 【心理的誤差を避けるための方策】 ●考課者訓練:評価をする者に対して行う育成策で、研修などにより行うもの ●多面評価(360度評価):上司からの単一の評価ではなく、同僚や部下、他部門の担当者や、取引先など、複数の評価者から多面的な評価をするもの  360度評価の効果には、顧客や取引先を評価者に含めることで被評価者の顧客志向が高まることがあります。また、被評価者に対する自分と異なる評価を見ることから、評価者に対する人事評価の訓練の機会を提供することができます。また、多様な評価者からの評価は被評価者の自信喪失や反発を生じることがあります。そのような反応を生じないよう。従来の人事評価以上にていねいなフィードバックを行うことが重要になります。その過程において、上司と部下のコミュニケーションの活性化が図られます。
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報酬管理
``` 基本給の決定方法には、次のものがあります。 ●年功給  勤続年数や年齢、学歴などにより支給額が決定される ●職能給  職能資格制度において、職能資格によって支給額が決定される。職能という能力に対して支払われる給与となり、日本企業独特の賃金体系です。 ●職務給  仕事の内容によって支給額が決定される ●成果給  成果主義型の評価制度において、成果に基づいて支給額が決定される ``` ベースアップ:全社員が一斉に昇給することです。これは、個人の能力や業績とは関係なく、企業の賃金表を書き換えることで賃金水準を底上げすることです。 定期昇給:査定昇給と自動昇給に分かれます。 ----------------------------------------------------------------------------------------------- 企業が退職金や年金の負担を軽減するための方法には、次のようなものがあります。 ●ポイント制退職金  従業員のこれまでの職能資格と勤続年数をポイント化し、ポイントに単価を掛けて退職金を算定する ●確定拠出型の年金  毎月の掛金が確定しており、運用実績次第で将来受け取る年金額が変わる制度。日本版の401Kと呼ばれます。確定給付型が将来受け取る年金額が決まっているのに対し、確定拠出型では毎月の掛金が確定しているものの、運用方法は加入者が選択でき、その運用実績次第で将来受け取る年金額が変わる制度です。 ●ストックオプション制度  従業員が決められた価格で株式を取得できる権利を与える制度のことをいいます。会社の業績を向上させて株価を上昇させる動機づけを強めることができます。
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能力開発の方法(OJTとOff-JT)
能力開発の方法には、次のものがあります。 ●OJT(On the Job Training)  実際の仕事を通じて能力を修得するもの 〈メリット〉 短期間で実務能力が身につけられる、きめ細かい指導ができる、コストがあまりかからない 〈デメリット〉能力開発が短期志向になりがち、指導者に教育の成果が左右される、体系的な知識の習得が難しい ●Off-JT(Off the Job Training)  仕事の場を離れて学習するもの 〈メリット〉 広い視野で体系的に知識を習得できる、新しい知識を習得しやすい。職務知識や能力を十分にもっていない場合に、OJTと組み合わせて用いると効果が高い。 〈デメリット〉コストがかかる、実務能力の修得が難しい
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能力開発(目標管理制度(MBO:Management By Objectives))
能力開発を行う際の留意点として、キャリア開発の視点を持つことが重要となっています。従業員が長い間同じ仕事に従事することは仕事の習熟には効果がありますが、従業員の視野を狭め、将来のキャリア像が描けなくなる恐れがあります。そのため、長期的なキャリアを設計し、計画的に異動や能力開発を行っていくことが必要です。 目標管理制度(MBO:Management By Objectives)とは、上司と面談の上で個人の業績目標を設定し、自主的に目標を達成する管理方法のことをいいます。この制度は、本来、次のような効果が期待されているものです。目標管理制度を導入する際には、評価制度だけではなく、能力開発制度として機能させることが重要です。目標を設定し、その目標を達成する過程で能力を向上させたり、自律的に管理する能力を高めたりしていくことが重要になります。目標管理制度は、人材育成において極めて有意義な実践の場と上司が密接にかかわる機会を提供します。目標管理制度の運用を最適化しつづけることで、社員から望ましい行動をより多く引き出し、上司に適切な育成行動を取らせることができます。 ``` ●経営者の視点  自律性を高める企業文化の形成 ●人事部の視点  能力開発の実施 ●管理者の視点  人材育成やマネジメントの能力の向上 ●社員の視点  自己の能力開発、組織への貢献 ```
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人事考課の手法の1つ、プロブスト法とは
従業員の勤務態度、性格や能力などに関する具体的な説明文を列挙しておき、評価者がそれぞれの該当する項目について確信が持てる場合のみチェックをいれていく方法のことです。項目の並び順に規則性がないため、論理誤差やハロー効果等を防止できるというメリットがあります。一方で、項目の選定などに時間がかかり、実施の手間が大きいというデメリットもあります。この方法は、「定められた基準(レベル)に基づいて評価する絶対評価」に分類することができ、その代表例といえます。
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人事考課の構成要素
人事考課は、職務遂行能力を評価する能力考課、職務遂行の度合いを評価する業績考課、そして情意考課から構成されます。 情意評価とは態度評価ともいわれ、従業員の仕事に取り組む際の態度や意欲、気力など、従業員自身の人物的特性・人間性を基準とする評価方法のことです。 人事考課は、従業員の業績を適切に評価することで、給与や昇進・昇格などの処遇や、昇進・昇格、昇給・賞与の管理、配置転換や人事異動および能力開発や教育訓練のニーズの把握など、さまざまな人的資源管理の根拠となります。評価をする上で、最も重要なのは公平な評価をすることですが、評価者も人間であるため、どうしても誤差が生じます。こういった評価者の誤差のことを心理的誤差と呼びます。
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ヒューリスティックやバイアス
人間や組織は、単純化や経験則に頼って意思決定をすることが多いです。こうした単純化の方法は、ヒューリスティックと呼ばれます。 ●確証バイアス(confirmation bias)  ある選択肢に好意を抱いた人は、その選択肢を支持するような証拠を探し求め、データをそのように解釈するバイアスです。これは、追認バイアスとも呼ばれます。 ●後知恵バイアス(hindsight bias)  物事が起きてからそれが予測可能だったと考える傾向のことです。 ●内集団バイアス(ingroup bias)  同じ業績であっても、上司のそばに席を置いている部下の方が、遠くの席の部下よりも高く評価される傾向があります。  自分が帰属している集団には好意的に考え、その外の集団には差別的に考えてしまう傾向のことです。 ●感情ヒューリスティック(affect heuristic)  好き嫌いだけで意思決定をし、理由を後付けする傾向のことです。 ●代表性ヒューリスティック(representativeness heuristic)  人間が意思決定する際に、「営業に適した人は社交性が必要だ」といったように、あらかじめ抱いている固定観念に合った特性を見いだそうとする傾向です。  典型的と思われることがらの起こる確率を過大に評価しやすいということで、「典型性ヒューリスティック」とも呼ばれます。 ●利用可能性ヒューリスティック(available heuristic)  想起しやすい事柄や事項を優先して評価してしまう傾向のことです。
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労働基準法による労働条件の効力順
労働基準法による労働条件の効力は、労働基準法などの法令が最も強く、続いて労働協約、就業規則、労働契約の順です。 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成して労働基準監督署長に届け出ることが義務となっています。 ``` ●労働基準法などの法令  労働基準法:労働者の保護を目的にして制定された法律 ●労働協約  労働組合と使用者の間で結ぶ協定 ●就業規則  企業での労働条件や守るべき規定について定めたもの  就業規則に記入するものには、必ず記載しなければならない絶対的記載事項、その定めをする場合は記載する必要がある相対的記載事項、使用者が自由に記載する任意的記載事項があります。絶対的記載事項には、労働時間に関する事項、賃金に関する事項、退職に関する事項があります。これらは就業規則に必ず記載する必要があります。 ●労働契約  労働者と使用者の間で結ぶ契約で、従業員を企業に採用するときに結ぶ契約です。労働契約を結ぶときには、労働者に対して賃金や労働時間などの労働条件を明示することが義務となっています。また、この労働条件は、就業規則や労働協約、法令に違反することはできません。 ```
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働き方改革を構成する2つのポイント
ポイントⅠは「労働時間法制の見直し」で、働きすぎを防ぐことで、労働者の健康を守り、多様な「ワーク・ライフ・バランス」を実現することが目的です。 ポイントⅡは「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」で、同一企業内における正社員と非正規社員の間の不合理な待遇の差をなくし、どのような雇用形態を選択しても待遇に納得して働き続けられるようにすることで、多様で柔軟な働き方を「選択できる」ようにすることが目的です。 ポイントⅡの「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」では、「同一企業内において、正社員と非正規社員の間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けること」を禁止しています。「同一企業グループ」ではなく、「同一企業」です。法人格単位なので、待遇に差を付けたい場合、別途グループ会社化することにより差をつけることができます。 パートタイム労働者・有期雇用労働者に対して、「均衡待遇規定の明確化」、「新たに有期雇用労働者も対象とする均等待遇規定」が定められ、派遣労働者に対しても、「派遣先の労働者との均等・均衡待遇」「一定の要件を満たす労使協定による待遇」のいずれかが義務化されました。あわせて、派遣先になろうとする事業主に対し、派遣先労働者の待遇に関する 派遣元への情報提供義務を新設します。 更に、「労働者に対する、待遇に関する説明義務の強化」として、非正規社員は、正社員との待遇差の内容や理由などについて、事業主に対して説明を求めることができます。 ◆「中小企業の取組を推進するため、地方の関係者により構成される協議会の設置等の連携体制を整備する努力義務規定」が創設された点もいわゆる働き方改革法の隠れ論点
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心理的契約
企業で働く個人とその雇用主との間に、契約書などで明文化されている内容を超えて、期待する暗黙の了解のことを、心理的契約といいます。 企業で働く人々は、雇用契約として規則で明文化されている処遇が改善されるかどうかにかかわらず、業務上で必要な仕事に取り組む傾向があるため、このような心理的契約があれば、組織は明文化された雇用契約以上の業績を期待することができます。 従来、終身雇用制を採用していた日本企業は、心理的契約によって支えられてきました。 雇用される前の契約書を作成する段階では、雇用主がその従業員の人格や仕事への意欲、キャリアアップの進捗度、離転職の可能性などについて完全に把握することはできません。一方、従業員も組織の内部事情についてすべてを詳細に知ることはできません。そのため、契約書にすべての内容を記述することができないことから、心理的契約が必要となります。このように、契約当事者の情報収集能力に限界があるため、雇用契約の契約書を文書化して作成する時点で必要な情報をすべて入手することができないことから、心理的契約が必要となります。 また、契約当事者を取り巻く外部環境や当事者自身は時間とともに変化します。このように、環境等の変化に対する予測に限界があるため、将来起こりうる事態を契約書に盛り込むことができないことから、心理的契約が必要となります。
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法定労働時間
労働基準法では、労働者の保護を目的に、次のように、労働時間を制限しています。 〈原則〉1日の法定労働時間は休憩時間を除いて8時間、1週間の法定労働時間は休憩時間を除いて40時間 〈例外〉常時使用する労働者が10人未満で、かつ特定の事業については週に44時間まで     特定の事業:小売や卸売などの商業、映画館などの映画・演劇業、病院などの保健衛生業、旅館や飲食店などの接客・娯楽業
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変形労働時間
変形労働時間とは、一定の条件を満たすことで、1 日あたりの法定労働時間を超えることができる制度のことをいいます。 変形労働時間制には、次の4 種類があります。業務上の都合でやむを得ず法定労働時間外の労働をさせるときには、あらかじめ労使協定を結び、労働基準監督署長に届け出る必要があります。 ●1 ヶ月単位の変形労働時間制  1ヶ月間以内の労働時間を平均して、1週間の法定労働時間(40時間)を超えない限り、特定の1日の労働時間が8時間を超えても良い。  なお、平均して週40時間以内であれば、特定の週の労働時間が40時間を超えても問題ありません。 ●フレックスタイム制  1ヶ月以内の一定期間の総労働時間を定めておき、労働者が始業や終業の時刻を自主的に決定できる。  フレックスタイム制を導入するには、就業規則に記載し、労使協定で総労働時間などの内容を定めることが必要です。 ●1年単位の変形労働時間制  1年以内の一定期間の労働時間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間を超えない限り、特定の1日の労働時間が8時間を超えても良い ●1 週間単位の変形労働時間制  労働者が30人未満で、特定の業種のみ(小売業、旅館、料理店、飲食店)、1週間の労働時間が40時間を超えない限り、特定の1日の労働時間が8時間を超えても良い。
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働き方改革の労働時間法制見直し8つの項目
1. 時間外労働の上限規制 2. 「勤務間インターバル」制度の導入促進 3. 年5日間の年次有給休暇の取得(企業に義務づけ) 4. 月60時間超の残業の割増賃金率引上げ 5. 労働時間の客観的な把握(企業に義務づけ) 6. 「フレックスタイム制」の拡充 7. 「高度プロフェッショナル制度」を創設 8. 産業医・産業保健機能の強化
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労働時間法制の改正のポイント
●時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間とする。臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできない。 ●時間外労働の上限である月45時間を超えることができるのは、年間6か月までである。 ●臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合であっても、年720時間を超える時間外労働は認められていません。 ●勤務間インターバル制度は、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に一定時間以上の休息時間を確保する仕組みであるが企業の努力義務とされる。
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解雇の制限
労働基準法では、労働者を保護するために、解雇の制限を設けています。次の期間においては、解雇することはできません。 ●業務上の負傷や疾病のための休業期間や、休業が終了した後の30日間 ●産休の期間と休業終了後の30日間 使用者が解雇をする場合には、少なくとも30日前に労働者に予告をするか、30日分以上の賃金を支払う必要があります。 ただし、合理的な理由がない場合には解雇はできず、無効になります。 なお、日々雇い入れられる労働者や試みの使用期間中の者は、解雇予告は必要ありません。 育児・介護休業法では、労働者が育児休業や介護休業の申し出をしたり、取得したりすることを理由とする解雇も禁止されています。
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賃金の支払方法
●通貨払いの原則  通貨で払う必要がある ●直接払いの原則  労働者に直接支払う必要がある ●全額払いの原則  全額を支払う必要がある ●毎月1回払いの原則  毎月1回以上支払う必要がある ●一定期日払いの原則  支払い期日を定める必要がある
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時間外労働の割増賃金率
法定労働時間以外の労働に対する割増賃金は、 時間外労働の場合は25%以上 休日労働の場合は35%以上 深夜労働の場合は25%以上 割増賃金について、複数の条件が組み合わさった場合は、率を加算する必要があります。 休日かつ深夜労働の場合は、35%と25%を加算して60%以上の割増賃金を支払う必要があります。 ----------------------------------------------------------------------------------------------- 労働基準法では、一時帰休の期間中は、使用者に平均賃金の60%以上の休業手当の支払義務を設けています。
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高度プロフェッショナル制度
●職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,075万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、年間104日の休日を確実に取得させること等の健康確保措置を講じる ●本人の同意や委員会の決議等を要件として、 労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする ●健康確保措置として、年間104日の休日確保措置を義務化。加えて、①インターバル措置、②1か月又は3か月の在社時間等の上限措置、 ③2週間連続の休日確保措置、④臨時の健康診断のいずれかの措置の実施を義務化(選択的措置) ●在社時間等が一定時間を超える場合には、事業主は、その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければならないこととする。(※労働安全衛生法の改正) ●対象労働者の同意の撤回に関する手続を労使委員会の決議事項とする
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勤務間インターバル制度の普及促進等
働き方改革法では「事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならないこととする。」という努力義務規定です。
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不当労働行為
不当労働行為とは、労働組合を組織することを妨害したり、労働組合員に対して不当な扱いをしたりするものをいい、使用者は、これを禁止されています。  不当労働行為には、次のようなものがあります。 ``` ●不利益な取り扱い  労働者が労働組合に加入したり活動をしたりしたことを理由に、解雇や減給などの不当な取り扱いをすること ●黄犬契約の締結  労働者が労働組合に加入しないことや脱退することを雇用の条件にすること ●団体交渉拒否  使用者が正当な理由がなく団体交渉を拒否すること ●支配介入  労働組合の結成や運営に対して、使用者が支配したり介入したりすること ●経費援助  使用者が労働組合の運営に関する経費を援助すること  経費援助が不当労働行為とされるのは、使用者が労働組合の運営に関する経費を援助することによって、労働組合の自主性を損なう恐れがあるためです。 ```
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労働安全衛生法
労働安全衛生法は、労働災害を防止し、労働者の安全と健康の確保や、快適な職場環境の形成を促進するための法律です。  労働安全衛生法は、一定規模以上の事業場では、次のような安全衛生管理の体制を作ることを義務としています。 ●総括安全衛生管理者  全体を管理する  労働安全衛生法によると、事業場が一定規模以上の場合には、総括安全衛生管理者を選任する必要があります。例えば、建設業、運送業の場合は常時使用する労働者が100人以上、製造業や小売業の場合は300人以上の場合に、義務となります。 ●安全管理者  安全に関わる部分を管理する  ほとんどの業種では、常時使用する労働者が50人以上の場合に義務となります。 ●衛生管理者  衛生に関わる部分を管理する  常時使用する労働者が50人以上の場合に義務となります。 ●産業医  労働者の健康を管理する  常時使用する労働者が50人以上の場合には、労働者の健康を管理するために産業医を選任します。産業医は、医師から選任する必要があります。また、事業者は、労働者について年一回の健康診断を行う必要があります。
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産業医・産業保健機能の強化
産業医・産業保健機能の強化により、産業医の活動環境の整備として事業者から産業医への情報提供を拡充・強化され、また産業医の活動と衛生委員会との関係が強化されます。  労働者に対する健康相談の体制整備、労働者の健康情報の適正な取扱いルールの推進として、産業医等による労働者の健康相談を強化し、事業者による労働者の健康情報の適正な取扱いを推進することとされています。
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労働保険
労働保険には、労災保険と雇用保険があります。 ●労災保険  労働者を一人でも雇用していれば加入が義務となり、事業主は労働保険料を政府に納める必要があります。労災保険で補償される災害には、次のものがあります。 ・業務災害 ・通勤災害 ●雇用保険  事業所規模にかかわらず、①1週間の所定労働時間が20時間以上で②31日以上の雇用見込がある人を雇い入れた場合は適用対象となります。雇用保険の給付には、次のものがあります。 ・求職者給付(失業保険) ・就職促進給付 ・教育訓練給付 ・雇用継続給付
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社会保険
``` 社会保険には、健康保険と厚生年金があります。 ●健康保険  健康保険法で規定  業務外の疾病や負傷、死亡、出産に対して給付を行う  被保険者だけではなく扶養家族に対しての給付も対象  事業主と被保険者が半分ずつ保険料を負担 ``` ``` ●厚生年金  厚生年金保険法で規定 ・国民年金(基礎年金):全ての国民が対象 ・厚生年金:会社員が対象 ・厚生年金基金:企業が任意で加入する年金 ```  健康保険や厚生年金の保険料は、事業主と被保険者が半額ずつ負担することに注意。
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労働者派遣
労働者派遣とは、自己の雇用する労働者を、他人の指揮命令を受ける他人のための労働に従事させることです。  派遣労働という働き方、およびその利用は、臨時的・一時的なものであることを原則とするという考え方のもと、常用代替を防止するとともに、派遣労働者のより一層の雇用の安定、キャリアアップを図るために、労働者派遣法は改正され、平成27年9月30日から施行されています。  改正前の、いわゆる「26 業務」への労働者派遣には期間制限を設けない仕組みが見直され、施行日以後に締結された労働者派遣契約に基づく労働者派遣には、すべての業務で、次の2つの期間制限が適用されるようになりました。 ① 派遣先事業所単位の期間制限  同一の派遣先の事業所に対し、派遣できる期間は、原則、3年が限度となりました。派遣先が3年を超えて受け入れようとする場合は、派遣先の過半数労働組合等からの意見を聴く必要があります。なお、1回の意見聴取で延長できる期間は3年までです。 ② 派遣労働者個人単位の期間制限  同一の派遣労働者を、派遣先の事業所における同一の組織単位に対し派遣できる期間は、3年が限度となりました。 注文主と労働者との間に指揮命令関係がある場合には、請負形式の契約により行われていても労働者派遣事業に該当し、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律の適用を受ける。労働者派遣とは、自己の雇用する労働者を、他人の指揮命令を受ける他人のための労働に従事させることです。よって、注文主と労働者との間に指揮命令関係がある場合には、請負形式の契約により行われていても労働者派遣事業に該当し、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律の適用を受けます。 改正労働者派遣法では、これまでの一般労働者派遣事業(許可制)と特定労働者派遣事業(届出制)の区別は廃止され、すべての労働者派遣事業が許可制となりました。
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変形労働時間制と裁量労働制
◆変形労働時間制 結果として変形期間を平均して週40時間の範囲内であっても、変形期間の開始した後に労働基準監督署に届け出た労働時間並びに始業及び終業の時刻と異なる日に労働させるような変更は、使用者が任意に行うことはできません。また、残業が発生すれば残業代を支払う義務があります。 1年単位の変形労働時間制では1週間の労働時間の上限は52時間、1日の労働時間の上限は10時間です。しかし、使用者の任意に業務都合等によって労使協定で定めた労働日並びに始業及び終業の時間と異なる日時に変更することはできません。また、残業が発生すれば、残業代を支払う義務があります。 フレックスタイム制は始業及び終業の時間の両方を労働者の決定に委ねなければなりません。 ◆裁量労働制 専門業務型裁量労働制は具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令に定める業務に適用され、その専門家である弁護士、会計士等専門家に労働者が限定されています。そのため個別の同意は不要です。 一方で、企画業務型裁量労働制は、事業運営に関する事項について企画、立案、調査及び分析の業務を対象業務としており、適用される業務と労働者が広く対象となります。そのため、企画型裁量労働制では適用される労働者の個別の同意が必要とされています。
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解雇
●産前・産後の女性は、休業する期間とその後30 日間は解雇できないとされています。 ●日々雇い入れられる者や2か月以内の期間を定めて使用される者を解雇する場合は、解雇予告や解雇予告手当の支払いの必要はありません。ただし、所定の期間を超えて引き続き使用された場合は、解雇予告や解雇予告手当の支払いが必要となります。 ●労働者が業務上の理由で怪我をしたり病気にかかり、その療養のため休業する期間とその後30 日間の解雇は禁止されていますが、療養開始後3 年を経過しても治らない場合は、平均賃金の1,200 日分の「打切補償」を行った場合に限り、解雇することができます。「特段の保障なく解雇することができる」というわけではありません。 ●労働者の責めに帰すべき事由により解雇する場合でも、少なくとも30日前に解雇予告するか、または30 日分以上の平均賃金の解雇予告手当を支払う必要がありますが、労働者の責めに帰すべき解雇事由について行政官庁の認定を受けた場合は、その必要はありません。 ●天災事変その他やむを得ない事由により事業の継続が不可能になり、その事由について行政官庁の認定を受けた場合は、解雇予告や解雇予告手当は必要はありません。 ◆解雇予告の適用除外 【原則】                    【例外】 日々雇い入れられる者                 1箇月を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く 2箇月以内の期間を定めて使用される者         所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く 季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者  所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く 試みの使用期間中の者 14 日を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く
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賃金
●賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものです。 ●賞与は、ボーナス、一時金、期末手当などの呼称で呼ばれることがあるが、労働基準法上の賞与は、定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績及び経営状態等に応じて支給されるものであって、その額があらかじめ確定されていないものをいう。 ●定期昇給は、あらかじめ定められた賃金表がある場合にはそれに基づいて、賃金表がない場合には、年齢や勤続年数、考課査定などをもとに、毎年1回以上定期的に個別賃金を引き上げるものであるのに対し、ベースアップは賃金水準を底上げするもので、賃金表がある場合には賃金表そのものを書き換えることにより行われる。 ●モデル賃金とは、学制どおりに進級して正規に学校を卒業し、直ちに入社して引き続き同一企業に勤務し、その後標準的に昇進・昇格、昇給して、世帯形成も標準的に経過している標準者の賃金カーブをいう。 ●労働基準法第12条では、「平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう」と規定されています。「総日数」とは労働日も休日もすべて含めた日数であるのに対し、「所定労働日数」とは、総日数から所定休日や労働しなかった日を除いた日数のことです。なお、平均賃金は、解雇予告手当や休業手当、業務上の災害における災害補償の計算等に用います。
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労働契約の期間
労働契約の期間は、通常の採用の場合、定めなしとすることが多いですが、 労働基準法では、期間の定めをする場合は、期間が長期間になると労働者の自由を拘束する恐れがあるため、原則期間は3年までとなっています。 例外として、高度の専門知識を持つ医師や弁護士のような労働者や、60歳以上の労働者は期間を5年までとすることができます。 同様に、薬剤師の資格を有し、調剤業務に従事する場合は、例外期間である5年が適用されます。
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医師による面接指導
医師による面接指導については、労働者の週40時間を超える労働が1月当たり80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる場合には、労働者の申し出を受けて、医師による面接指導を行わなければなりません。これは、常時50人未満の労働者を使用する事業場においても平成20年より適用されています。医師による面接指導の結果については、その結果に基づいて、実施年月日、当該労働者の氏名、面接指導を行った医師の氏名、当該労働者の疲労の蓄積の状況、当該労働者の心身の状況、医師の意見を記載した記録を作成の上、5年間の保存する義務が課せられています。 事業者は労働安全衛生法66条の8の1項又は66条の8の2の1項の規定による面接指導を実施するため、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインから ログアウトまでの時間)の記録等の客観的な方法その他の適切な方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければなりません。 医師による面接指導は80時間を超えた場合です。「週40時間を超えて労働させた時間が1月当たり80時間を超え、 かつ疲労の蓄積が認められる者であって、当該労働者が申し出た場合」に医師による面接指導を行わなければなりません。  因みに、時間外労働が1月当たり45時間を超える労働者については、事業者は「健康への配慮が必要な者の範囲と措置」を検討し、 それらの者が措置の対象となるように基準を設定しておくことが望まれています。 例えば、「45時間を超える労働者については、産業医が必要と認めた者に対して面接指導を実施する」等といった基準です。
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労働保険料・社会保険料の納付
事業主である企業には、自らが負担する保険料だけでなく、従業員が負担する保険料を合わせた保険料の全額を国に納付する義務が課せられています。 労働保険料は申告書作成後、労働保険料と一般拠出金を申告・納付し、 申告書に付いている領収済通知書(納付書)を使って、 6月1日~7月10日(10日が休日なら翌営業日)までに納付します。 社会保険の被保険者は、会社などに常時雇用される者で、国籍、年齢、報酬の多少などに関係ありません。 被保険者の社会保険料は翌月徴収、当月徴収いずれでも構いません。 なお、健康保険の任意継続被保険者に関する保険料については、月初めに送付される納付書で その月の1日から10日(10日が土・日 曜日又は祝祭日の場合は翌営業日)までに納めなければなりません。 初回保険料の納付期日については、管轄の社会保険事務所の指定した日となります。 労働保険事務組合を利用すると労働保険料の納付を年3回に分割できます。
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マーケティングの定義
●P.コトラー 「マーケティングとは、個人や集団が、製品および価値の創造と交換を通じて、そのニーズや欲求を満たす社会的・管理的プロセスである」 ●AMA(米国マーケティング協会)2007年改訂 「マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである」 ●P.F.ドラッカー 「マーケティングの究極の目標は、セリングを不要にすることである」 ●T.レビット 「マーケティングとは、顧客の創造である」 マーケティングとは、一言で表せば「売れる仕組みづくり」ということになりますが、「顧客」、「価値」、「プロセス」というキーワードをおさえておきましょう。
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マーケティング・コンセプト
マーケティング・コンセプトとは、企業がマーケティング戦略を遂行するにあたり、経営理念を具体化したものをいいます。 P.コトラーは、マーケティング・コンセプトを、次の5つに分類しました。 ●生産志向 効率的に製品を生産し、大量生産を実現しようとするもの ●製品志向 より良い製品を作り、改良することで顧客に買ってもらおうとするもの ●販売志向 製品をいかに販売するかを重視するもの ●顧客志向 顧客のニーズを探り、顧客満足を満たす製品を提供していこうとするもの ●社会志向 顧客満足だけでなく、社会全体に対する責任を果たし貢献していこうとするもの
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マーケティング3.0
マーケティング3.0とは、P.コトラー、H.カルタジャヤ、I.セティアワンらによって提唱されたもので、 ニューウェーブの技術によってもたらされる次世代のマーケティング・コンセプトのことです。 ◆マーケティング2.0 マーケティング2.0は製品中心ではなく、消費者志向のマーケティングです。 マーケティング2.0の目的は、製品を販売することではなく、消費者を満足させ、つなぎとめることです。 消費者との交流について、マーケティング2.0は1対多数の取引ではなく1対1の関係とします。 ◆マーケティング3.0 マーケティング3.0は消費者志向ではなく、価値主導のマーケティングです。 マーケティング3.0は消費者を満足させ、つなぎとめることではなく、世界をよりよい場所にすることです。 消費者との交流について、マーケティング3.0は、多数対多数の協働です。
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マーケティングの4P
E.J.マッカーシーは、顧客の要求に満足を与えることのできる手段として、 ①Product(製品)、②Price(価格)、③Promotion(販売促進)、④Place(販売チャネル)の4つを挙げました。 これらは、企業がコントロールできる要因です。これらの要素は、マッカーシーの4Pと呼ばれることもあります。 ``` ●マーケティング機能要素別戦略 ・製品戦略(Product) ・価格戦略(Price) ・チャネル戦略(Place) ・プロモーション戦略(Promotion) ```
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マーケティングの階層
マーケティングの階層は、下から次のような3 階層となっています。 ``` ●マーケティング機能要素別戦略  次の4つの機能から構成され、マーケティングの4Pと呼ばれる ・製品戦略(Product) ・価格戦略(Price) ・チャネル戦略(Place) ・プロモーション戦略(Promotion) ``` ●マーケティング・マネジメント戦略  マーケティングの4Pを統合する戦略  マーケティング・ミックスとは、各種のマーケティング要素を組み合わせることをいいます。 ●戦略的マーケティング  企業全体の方向性を決める企業戦略に近い戦略
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マーケティング・リサーチ
質問法は、用意した質問に対して、調査対象者に回答してもらうことでデータを収集する方法です。これには、次のようなものがあります。 ●面接法 〈メリット〉 図表や写真などの視覚ツールを活用できる、相手の反応に応じた質問ができる、質問の回答率が高くなる 〈デメリット〉1 人ずつ面接するためコストがかかる、調査員による偏りが生じやすい ●集団面接法(グループ・インタビュー) 〈メリット〉 個別の面接法に比べてコストが安い、集団内で発言が促される 〈デメリット〉司会を担当する調査担当者の能力によって結果が大きく変わる ●電話法 〈メリット〉 短時間で調査できる、面接法に比べて低コストで調査できる 〈デメリット〉調査対象者に不信感が生まれやすく、非協力的になりがち ●郵送法 〈メリット〉 人件費のコストが安い 〈デメリット〉回収率が低くなる、対象者の住所のリストを入手することが難しい ●留置法 〈メリット〉 郵送法と比べて回収率が高い、回収時に調査員が記入漏れなどをチェックできる、記入に時間がかかる調査に向いている 〈デメリット〉調査対象者の家族などの意見が影響する可能性がある、調査対象者以外の者が回答する可能性がある
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購買意思決定プロセス
P.コトラーは、消費者の購買行動のプロセスを、次の5つの段階で考えました。 ●問題認知  消費者が何かが必要だという問題を認識する ●情報探索 ニーズを満たすものを得るために、様々な情報を得る ●代替品評価  情報収集によって購入する商品の候補、つまり代替品を評価する ●購買決定  代替品のうち最も高い評価を得たものを購入する ●購買後の行動  購買後に評価する
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AIDMAとAISASモデル
●AIDMA(アイドマ)モデル  AIDMAは、Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の頭文字を取ったものです。 AIDMAモデルでは、消費者が新しい商品を購入する時は、まずその存在を知り(注意を払う)、興味・関心を持ちます。さらに欲しいという欲求が生まれ、記憶の中で吟味することによって、購買という行動につながるという流れとなります。 ●AISAS(アイサス)モデル  AISASは、Attention(注意)、Interest(関心)、Search(検索)、Action(行動)、Share(共有)の頭文字を取ったものです。 注意、関心まではAIDMAと一緒ですが、その後のSearch(検索)から後が異なります。AISASモデルの最後のSは、Share(共有)です。このShare(共有)は、購入して使用した後の感想や評価をネット等で共有することです。例えば、商品比較サイトに評価を書き込んだり、ブログに感想を書き込んだりします。いわゆるクチコミですが、共有された情報は、Search(検索)で、他の顧客の購買決定に利用されるため、とても重要となります。
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購買決定行動のタイプ
購買決定行動のタイプは、購入する製品のタイプにより、次の3つに分類することができます。 ●日常的反応行動:よく購入する最寄品に多い  消費者がその製品についてよく知っており、ブランドについてはっきりした選択基準を持っている場合の購買行動 一般的には、低価格で購買頻度が高い製品、つまり最寄品に多い購買行動です。 ●限定的問題解決:買回品に多い  消費者はその製品については良く知っているものの、ブランドについてはあまり知らない場合の購買行動 いくつかの製品を比較した上で購入される製品、つまり買回品に多い購買行動です。 ●拡大的問題解決:専門品に多い  消費者が製品やブランドのことを良く知らない場合の購買行動 一般的には、専門的で購買頻度が低い製品、つまり専門品に多い購買行動です。 「広範囲問題解決」と呼ばれることもあります。
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準拠集団
準拠集団は、個人の価値観や態度、行動に対して影響を及ぼす集団のことです。例として、家族や友人、同僚などが挙げられます。 個人の判断や行動は、その人の属する準拠集団に強く影響されます。準拠集団は、必ずしも公式に所属する集団ではない場合があります。例えば、その人が将来属したい集団であったり、強く同一化する集団が準拠集団になっていたりするケースもあります。準拠集団は、その個人が現在、所属する集団だけではありません。 ライフコースによって消費傾向が異なる場合があります。そのため、家族の消費者行動への影響を分析する際にも、ライフコースにも注目する必要があります。 ライフコースというのは、個人が一生の間にたどる人生の道筋を表します。 個人の一生には、就学、就職、結婚などの様々なライフイベントが発生します。そのライフイベントにおいて、どのような選択をしたかでライフコースが決まります。 例えば、女性の場合、結婚と仕事というライフイベントだけ見ても、結婚をしないで働いている人、結婚を機に仕事を辞めた人、結婚後に仕事を辞めたが再度働いている人というように、様々なライフコースがあります。 パブリックな場面で使用される製品の方が、準拠集団の影響は大きくなります。例えば、家の中で使う製品よりも、外に着ていく衣服などの方が、準拠集団の影響は大きくなります。
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消費者行動と関与
関与(製品関与)は、ある商品に関して、個人が持つこだわりや関心の度合いを表します。 こだわりの度合いが高い場合は「高関与」、こだわりの度合いが低い場合は「低関与」と呼びます。 認知的関与が高い人は、商品に対して豊富な情報を持つ傾向にあり、さらに情報の収集や分析を楽しむ傾向があります。 関与は、関与の動機によって、次のように分類されます。 ●認知的関与(分析的関与)  商品の機能やコストを追求するといった功利的動機に基づく 論理的に情報を捉えようとする関与であり、情報を収集したり分析したりすることに重きを置いています。 ●感情的関与  商品を使用することで感情的な充足を求めるなど感情的な動機に基づく 商品を使用することで感情的な充足を求めるなど感情的な動機に基づく関与であり、感情的関与が高い人は、知識ではなく経験を楽しむ傾向があります。 ◆内部探索と外部探索  外部探索とは、外部の情報源から情報を探索することです。一方、内部探索は、自分の記憶の中にある情報を探索することです。  消費者は、最初に内部探索を行い、内部探索で得られる情報に満足しない場合に、外部探索を行います。  つまり、店舗に行ったり、カタログやウェブサイト、友人の意見などを収集します。
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消費者の購買意思決定理論
消費者の購買意思決定には、次のような理論があります。 ●ロジャースの普及理論  ロジャースは「普及率16%の論理」を提唱し、イノベーターとアーリー・アダプターの割合を合計した16%のラインが商品普及のポイントであると主張しました。 ●バラエティ・シーキング論  低関与製品のうち、ブランド間の知覚差異が大きい場合には、頻繁にブランド・スイッチングが起こるという考えです。 ●精緻化見込みモデル  広告に対して、消費者は、広告の内容について理解し詳細に検討する対応(中心ルート)か、広告の詳細な内容より、広告に登場したタレントや音楽、あるいはパッケージの見た目などのイメージによって形成される対応(周辺ルート)をとるとするものです。 ●多属性態度理論  ある製品が有する複数の属性(価格、デザイン、性能など)の重要度と、それらの属性をその製品が有しているという主観的判断から、ある製品に対する消費者の態度をとらえようとするものです。パソコンの購入に際して、消費者は最も重視する属性で高評価な候補製品を選び、その属性で候補製品が同評価であれば、次に重視する属性で選ぶ場合がある。こうした決定方略は辞書編纂型と呼ばれます。多属性意思決定の辞書編纂型とは、消費者が一番重視している属性が最も優れている製品を選択する方法です。 多属性意思決定のEBA(elimination-by-aspects)型について述べられています。EBA型とは、検討している属性のうち、1つでも基準を満たさないものがある製品は選択しない、という方法です。マンション購入に際して、消費者は価格、立地、間取り、環境や建設会社など、検討すべき属性を網羅的にあげ、候補物件において全属性を評価し、総合点が高い選択肢を選ぶことがある。これは、多属性意思決定の加算型です。 生産財の購買について、生産財の購買は組織内の異なる部門や複数の階層から構成される購買センターを通じて行われるため、購買主体は十分な知識を持つのが困難です。そのため、購買主体が情報を収集・検討するのに時間がかかり、迅速な意思決定を下すことが難しくなります。
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ロジャースの普及理論
``` ロジャースの普及理論は、新しい商品に対する購入の早い順に、 イノベーター(革新者) アーリー・アダプター(初期採用者) アーリー・マジョリティ(前期追随者) レイト・マジョリティ(後期追随者) ラガード(遅滞者) の5つに分類した上で、イノベーターとアーリー・アダプターの割合を合計した 16%のラインが商品普及のポイントであると主張した理論です。 ```
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消費者行動に影響を与える他者や他者集団
●準拠集団  個人の価値観や態度、行動に対して影響を及ぼす集団のことです。例として、家族や友人、同僚などが挙げられます。個人の判断や行動は、その人の属する準拠集団に強く影響されます。準拠集団は、必ずしも公式に所属する集団では無い場合があります。同様に、必ずしも現在所属している集団ではなく、将来所属したい集団等である場合もあります。 プライベートな場面で使用される製品よりも、パブリックな場面で使用される製品の方がそのブランド選択において準拠集団の影響は大きくなる。 ●消費者間の弱いつながり  リアルで直接話をする相手や、SNSで繋がっている友達などは、「強いつながり」になります。しかし、強いつながりだけではクチコミやSNSでの情報拡散は起こりません。「知り合いの知り合い」や「SNSの友達の友達」といった、弱い関係性が、大規模な消費者行動を喚起するポイントとなります。 ●オピニオンリーダー  特定の集団の中で、他者に対して影響力を持つ人物のことです。新商品の購買に影響力を発揮するオピニオンリーダーは、ロジャースの普及理論におけるアーリー・アダプター(初期採用者)と呼ばれる人々であることが多いです。 ●情報発信型消費者  オピニオンリーダーとは対照的に、製品カテゴリ横断的な幅広い知識を持ち、さらには知識を伝える方法も幅広く持っていることに特徴づけられる情報発信型消費者は、マーケットメイブンと呼ばれます。市場の達人という意味です。
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セグメンテーション(市場細分化)
セグメンテーション(市場細分化)とは、市場をある基準に基づいて、小さい集団に細分化することをいいます。 セグメンテーションにおける細分化の基準には、次のようなものがあります。 ●地理的基準(ジオグラフィック基準)  地域や気候、人口などの地理的な基準。地域別の商品を企画したり、特定の国をターゲットとしたマーケティングを開発したりする場合は、細分化する基準として、地理的基準が用いられます。 ●人口統計的基準(デモグラフィック基準)  年齢や性別、家族構成、職業、所得などの人口統計的な基準 ●心理的基準(サイコグラフィック基準)  志向やライフスタイルなどの心理的な基準 ●行動変数基準  消費者の製品に対する知識や態度、反応など行動にかかわる基準 細分化したセグメントが有用であるための基準について、P.コトラーは、 ①測定可能性、②到達可能性、③維持可能性、④実行可能性 の4つの要件を満たしている必要があると指摘しました。
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ターゲティング
``` 市場のターゲットを絞ってマーケティングを行う方法を、ターゲット・マーケティングと呼びます。 ターゲット・マーケティングには、3つのプロセスがあります。 最初に、市場を細分化するセグメンテーションを行います。 次に、標的とするセグメントを決めるターゲティングを行います。 最後に、自社をどのように差別化するかを決めるポジショニングを行います。 ``` ``` セグメントを選択するには、次の3つのアプローチがあります。 ●無差別型マーケティング セグメントを考慮せず、単一のマーケティング・ミックスを市場全体に投入する。 いわゆるマス・マーケティングの手法で、消費者に個別に対応することができないため、 様々な消費者ニーズに対応することはできません。 〈メリット〉 マーケティング・コストを抑えられる 〈デメリット〉様々な消費者ニーズに対応するのが難しい ``` ``` ●差別型マーケティング 細分化したそれぞれのセグメントに対し、別々のマーケティング・ミックスを投入する。 いわゆるフルライン戦略となります。差別型マーケティングは、全てのセグメントのニーズに対応するため、 売上が最大化されるのがメリットです。 〈メリット〉 売上が最大化される 〈デメリット〉複数のマーケティング・ミックスを構築するためにコストがかかる ``` ●集中型マーケティング 特定のセグメントにターゲットを絞り込み、そこに全ての経営資源による単一のマーケティング・ミックスを投入する 〈メリット〉 限られた経営資源を有効に活用できる 〈デメリット〉リスクが分散できない 特に、中小企業では経営資源が限られているため、セグメントを絞り込む集中型マーケティングを取ることが多くなります。
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ポジショニング
ポジショニングとは、市場の中で自社の製品がどのように位置づけられるのかを示すものをいいます。これにより、選択したセグメントで競合他社よりも優位性を築くことができます。ポジショニングの検討には、ポジショニング・マップ(知覚マップ)と呼ばれる図がよく使われます。ポジショニング・マップは、2つの軸を持ったマップです。この2つの軸により、競合との差別化を表現します。 同じセグメントであっても、ポジショニングが異なっていれば、別のマーケティング・ミックスが必要となります。ポジショニングのポイントは、有効な差別化をするための軸を見つけることです。また、ポジショニングを決定したら、それに基づいたマーケティング・ミックスを構築し、顧客に統一されたポジショニングを伝達することが重要です。 フルライン戦略を取っており製品ラインが多い企業では、自社の製品間での差異を確認しておかないと、カニバリゼーションが発生するおそれがあります。カニバリゼーションとは、共食いという意味で、自社の製品で売上を奪い合う状況のことをいいます。 市場を細分化するのはセグメンテーション、標的とするセグメントを決めるのはターゲティングです。 市場の中で自社の製品がどのように位置づけられるのかを示すのが、ポジショニングです。
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マーケティング・パラダイム
パラダイムとは認識枠組のことであり、マーケティング・パラダイムとは、マーケティングに関わる実務家や研究者などが共有するマーケティングの考え方や行動の枠組のことをいいます。 伝統的なマーケティング・パラダイムでは、マーケティングは「交換」の実現を目的として行われる市場活動としてとらえられ、交換パラダイム(トランザクショナル・パラダイム)と呼ばれてきました。 1990年代にそれまでの交換パラダイムに変わってシフトしたものは、関係性パラダイム(リレーションシップ・パラダイム)です。関係性パラダイムは、企業と顧客、取引先、資本家・投資家、大衆との関係性に注目し、いかに有効な関係を開発、維持、発展させるかを議論の対象とするものです。 交換パラダイムに変わって関係性パラダイムにシフトした背景には、①市場の成熟化、②アフター・マーケットの拡大化、③情報技術の発展などが挙げられます。
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ソサイエタル・マーケティング
ソサイエタル・マーケティングとは、企業の社会的影響力を考慮に入れつつ行う具体的マーケティング活動をいいます。 社会的利益を考慮したマーケティングであり、グリーン・マーケティングやエコロジカル・マーケティングがあります。 社会志向的マーケティングと訳されるソサイエタル・マーケティングは、伝統的なマーケティングを社会的価値や 社会的役割という新しい観点から捉えなおしたものです。「消費者と社会の幸福を維持・向上させる方法」をとる ソサイエタル・マーケティングは、企業の社会的影響力を考慮に入れたマーケティングですので 長期的、間接的な企業やブランドのイメージ、ブランド・ロイヤルティといったマーケット成果への効果も期待されます。 ソサイエタル・マーケティングは、現在の企業ニーズと将来の消費者のニーズを満たすことに主眼が置かれています。 それに対して、サステイナブル・マーケティングは、消費者の長期的な利益 あるいは社会的利益を企業の長期的な経営計画と統合することですので同義ではありません。 コーズリレーテッド・マーケティングとは、売り上げによって得た利益の一部を社会的貢献の目的で寄付し、 企業イメージの向上や売り上げの増加を目指すものです。 ソーシャル・マーケティングとは、マーケティングと社会とのかかわりを扱うもので 「非営利組織のマーケティング」と「ソサイエタル・マーケティング」に大別されます。 非営利組織のマーケティングでは、非営利組織にマーケティングの考え方や手法を適用するものです。 一方、企業の社会的影響力を考慮したマーケティング活動はソサイエタル・マーケティングです。
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非営利組織のマーケティング
非営利組織のマーケティングの特徴は、消費者ニーズの把握が難しく、場合によっては無関心(ゼロ)や嫌悪(マイナス)であることもあります。長期的視点でコンセプト提案を粘り強く行う、適切なプロモーションによって細分化したターゲットに働きかけるといった必要が生じます。しかし非営利組織だからといって価格要素の持つ相対的重要性は低いとは言えません。むしろ、一定の運営コストは徴求せざるを得ないこと、価格が高いと思われたら利用されない、反発を持たれるなどといったことが生じますので、価格は重要な要素になります。
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マーケティング・ミックスの4Pと4Cの対応関係
マーケティング・ミックスの4Pは、製品戦略(Product)、価格戦略(Price)、チャネル戦略(Place)、プロモーション戦略(Promotion)です。 この4Pは企業から見た、マーケティング・ミックスです。消費者から見たマーケティング・ミックスは4Cといわれます。 4Cは、4Pと対になる考え方で「Product(製品)対Customer Value(顧客にとっての価値)」「Price(価格)対Cost to the Customer(顧客の負担)」「Promotion(販売促進)対Communication(コミュニケーション)」「Place(販売ルート)対Convenience(入手の容易性)となります。
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マーケティング・ミックスの修正や見直し
4Pのうち、最も企業側から柔軟に変更できるのはPromotion、つまり販売促進です。 例えば、製品を変更するといったら、製造装置やライン等を変更する等検討が必要となります。 価格の変更は、収益性に大きな影響が生じてしまいますし、競合との価格競争を考慮する必要が生じます。 販売ルートは販売チャネルである他社との契約や関係性に影響を及ぼしかねません。 それらに比べると、他社を巻き込んだり、設備の変更の必要がない販売促進は最も柔軟性があります。
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認知的不協和
矛盾する2つの認知をした場合に自分にとって不都合な方の認知を変えようとする心理のことを、「認知的不協和」といいます。 購入した商品は最良と思う一方で、他の商品のほうがよかったのではないかとも考えるといった、 2つの認識の矛盾から、心理的な緊張を高める状態を表す語句は、「認知的不協和」です。 「サイコグラフィックス」とは、ライフスタイル、行動、信念、宗教、価値観、個性などによって顧客を分類する際に用いられる心理学的属性のことをいいます。 「バラエティシーキング」とは、低関与製品のうち、ブランド間の差異が大きい場合に見られる頻繁なブランドスイッチングのことです。 「ブランドスイッチング」とは、消費者がこれまで購入していた商品の銘柄(ブランド)を変更することです。
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マーケターの役割
マーケティング理論や市場調査に専門的な知識を持つマーケティング戦略立案者のことを、マーケターといいます。顧客のニーズを的確につかみ、顧客のニーズを製品の設計者に正確に伝えることが、マーケターの主な役割です。購買行動に対する消費者の文化的、社会的、個人的、心理的な特性を変容させることは、なかなか難しく、これはマーケターに与えられた役割ではありません。
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アサエルの購買行動類型
アサエルの購買行動類型とは、「関与水準」と「ブランド間の知覚差異」という2つの軸を使い、消費者の購買行動を4つのタイプに分類したものです。「関与水準」とは、「消費者がその製品にどれぐらいこだわっているのか、関心があるのか」ということです。また、「ブランド間の知覚差異」とは、「その製品のブランドによる違いを、どの程度理解できているのか」ということです。 特別な人に贈る宝石は、一般の消費者にとって重要性の高い製品のため、関与水準は高くなります。一方で、消費者は、宝石の良し悪しを正確に判断できないため、ブランド間の知覚差異は小さくなります。このような製品は、不協和低減型に当たります。ブランド間の知覚差異が小さいため、一般の消費者は多くの製品を比較・検討して評価することが困難です。そのため、複雑な情報処理を伴う購買行動をとりにくくなります。
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消費者の購買意思決定に影響を与える人 役割別5分類
消費者の購買意思決定に影響を与える人を、役割別に分類する考え方があります。 「発案者」、「影響者」、「決定者」、「購買者」、「使用者」の5つに分類できます。 ``` 「発案者」とは、購買することを最初に考えたり提案する人のことです。 「影響者」とは、最終的な購買決定を行う際に、購買者に影響力のある人のことです。 「決定者」とは、購買決定またはその一部を最終的に行う人のことです。 「購買者」とは、実際の購買を行う人のことです。 「使用者」とは、購買された商品やサービスを使う人のことです。 ```
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市場細分化と製品差別化は代替的なもの
製品差別化は製品の品質や価格で差別化していく方法であり、市場細分化は市場を細分化することで、競争相手と異なるセグメントにアプローチする方法と位置づけられます。どちらも、手段は違いますが、差別化をしていくという点では代替的と考えられます。いずれもブランド化シナリオの中核にある考え方で、両者はしばしば代替的な関係に置かれます。市場細分化と製品差別化は代替的なものであると考える立場では、製品差別化は、同じセグメントで製品によって差別化する方法であり、競合と正面からぶつかる方法となります。一方、市場細分化は、市場を細分化することで、競合と違うセグメントにアプローチする方法であり、競争を回避する方法となります。
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市場細分化と製品差別化は代替的なもの
製品差別化は製品の品質や価格で差別化していく方法であり、市場細分化は市場を細分化することで、競争相手と異なるセグメントにアプローチする方法と位置づけられます。どちらも、手段は違いますが、差別化をしていくという点では代替的と考えられます。いずれもブランド化シナリオの中核にある考え方で、両者はしばしば代替的な関係に置かれます。市場細分化と製品差別化は代替的なものであると考える立場では、製品差別化は、同じセグメントで製品によって差別化する方法であり、競合と正面からぶつかる方法となります。一方、市場細分化は、市場を細分化することで、競合と違うセグメントにアプローチする方法であり、競争を回避する方法となります。
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二次データ
「二次データ」とは、すでに他者が収集したデータのことであり、マーケティングの初期段階に利用されることが多いです。また、二次データは社内に蓄積されている「内的データ」と社外に存在する「外的データ」に分類されます。前半は適切な記述ですが、POSデータなどの販売データは、POSシステムにより収集され社内に蓄積されたデータですので、内的データと言えます。
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系統的抽出法
「系統的抽出法」とは、無作為抽出手法の一つです。母集団の全ての一覧(顧客名簿や従業員名簿など)から等間隔で調査対象者を抽出する方法です。例えば、2,000人の一覧から200人を抽出したい場合、開始番号を5番目、抽出間隔を10と設定し、5番目、15番目、25番目と続けて1,995番目までを抽出し、この200人に対して調査を行うものです。この方法は、母集団から無作為に1人ずつ抽出する「任意抽出」よりも効率的な抽出法と言えます。
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消費財の種類
消費財とは、個人的な消費のために最終消費者によって購入される製品のことをいいます。 P.コトラーは、消費財を、次の4つに分類しています。 ●最寄品  習慣的に購入するような製品。例としては、日常的に購入する食料品や日用雑貨が挙げられます。最寄品は購買頻度が高く、低価格であるため、時間や労力をかけずに購買されます。最寄品は「時間や労力をかけずに購買」されるため、「探索性向の水準」は低いといえます。 〈購買行動〉日常的反応行動 ●買回品  消費者が比較し、探し回るような製品。例としては、洋服やテレビなどの家電が挙げられます。買回品は、最寄品に比べ、購買頻度が低く、値段は高くなります。消費者は好みの製品を選ぶために、時間と労力をかけて複数のブランドを比較します。このことから、「探索性向の水準」は高いといえます。買回品の購買行動は限定的問題解決です。 〈購買行動〉限定的問題解決 ●専門品  自動車や宝飾品など贅沢品のように専門的で、価格が高く、購買頻度が低い製品。消費者は、製品についてあまり知らないので、時間をかけて製品を調査します。この購買行動は拡大的問題解決です。なお、日常的反応行動とは、消費者がその製品についてよく知っており、ブランドについてはっきりした選択基準を持っている場合の購買行動です。 〈購買行動〉拡大的問題解決 ●非探索品  消費者の関心が低く、あえて自ら求めない製品。例としては、生命保険などが挙げられます。非探索品は、必要性が生じるまでは意識したり、興味を抱きません。これでは、何もしないと売れないため、積極的な広告と、人的販売が必要な製品です。 製品には大きく分けて、有形財と無形財があり、有形財には消費財と産業財があります。 さらに、製品の種類により、適した価格やチャネル、プロモーションがあります。
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プロダクト・ミックス(製品ミックス)
プロダクト・ミックス(製品ミックス)とは、製品の組み合わせ、つまり品揃えのことをいいます。 プロダクト・ミックスは、次の2つから構成されます。 ●製品ライン  類似している製品のグループ ●製品アイテム  製品ラインの中の個別の製品 プロダクト・ミックスの検討では、製品ラインの幅と、製品アイテムの深さについて意思決定を行う点、それらの区別、そして企業は、マーケティング戦略に沿ったプロダクト・ミックスにすることが重要です。 ◆製品ラインの幅と深さ 製品ラインの幅とは、どのような車種をラインナップするかということです。 例えば、通常の乗用車に加えて、軽自動車やトラックを扱うことで製品ラインの幅が広がります。 製品アイテムの深さを深くすると、品揃えが豊富になります。 同じ車種の中でも、排気量や装備により様々なグレードを揃えるということです。 フルライン戦略とは、製品ラインの幅を広げ、市場全体を漏れなくカバーしようとする戦略をいいます。 製品ラインの幅を広げると、それだけ売上が増加します。一方で、競合との競争も増え、コストがかかります。 中小企業では、経営資源に限りがあるため、製品ラインの幅をある程度絞り込むことが一般的です。
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製品ライフサイクル
製品ライフサイクルは、製品が生まれてから衰退するまでの一生、つまりライフサイクルを表した考え方です。 これは、一般に、導入期、成長期、成熟期、衰退期の4つから構成されます。 導入期は、製品を市場に導入する段階です。まだほとんどの人は製品を知らないですが、一部のイノベーター(革新者)から購入が始まります。導入期の主要顧客はイノベーターやアーリー・アダプターです。競合もまだ少ない状態です。この段階では、まだ製品があまり知られていないため、売上は少ない状態です。知名度を向上させることを目的とします。導入期は販売促進などにコストがかかり、製品も完全とはいえないこともあり改善するための投資が必要です。また、競合が市場に参入していないこともあり、競合他社からの明確な差別化の必要性は高くありません。 成長期は、売上が急速に成長する段階です。この段階では、市場規模が急成長し、多くの競合が参加してくるため、競争が激しくなります。そのため、この段階でのマーケティングの主な目的は、シェアを最大化することになります。ここでは、積極的な投資をして売上を伸ばし、シェアを確保することが重要です。 成熟期では、競争企業との技術的な差異はなくなるため、技術的により複雑で高度な製品よりもパッケージなど製品の副次的機能での差別化が必要となります。 衰退期は、売上が減少し、市場が衰退する段階です。この段階では、業績が良くない競合は撤退していきます。この段階のマーケティングの目的は、支出削減と円滑な市場撤退です。衰退期のマーケティング戦略において、製品については弱小アイテムをカットし支出を減らします。どんな製品でも、いずれは衰退期を迎えます。一般的には、衰退をできるだけ遅らせるように、ロングセラー化を図り製品寿命をのばす取組みが行われます。 -------------------------------------------------------------------------------------------- 業界標準が成立してしまうと、その標準に準拠する、もしくは対抗するといった成立した業界標準に対応したマーケティングを実行することが望ましいといえます。例えば、アップルはMac OSでマイクロソフトが業界標準としたWindowsに対抗する戦略をとりましたが(現在はアップルでWindowsを利用することができます)、その戦略により路線の違いを際立たせ、コアの支持者をつかんだことが昨今の成功をもたらしたと考えると、準拠ばかりが成功の鍵ではありません。
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ブランドの機能
米国マーケティング協会の定義によれば「ブランドとは、製品やサービスの生産者や販売者の商品を識別する、名称、記号、シンボル、デザインまたはそれらの組み合わせ」です。 また、同協会は、「ある売り手の財やサービスが、他の売り手のそれとは異なるものであることを識別してもらうための、①名前、用語、デザイン、シンボル、およびその他のユニークな特徴」であると説明している。現在では、②ブランド概念のさまざまな側面が議論されている。 ブランドが果たす機能には、次のものがあります。 ●出所表示機能  製品の提供者を明らかにする機能のことをいいます。これにより、顧客が特定の製品を選択しやすくして購買を促進することができます。 ●品質保証機能  顧客に製品やサービスの品質を保証する機能のことをいいます。これにより、顧客はブランドを品質の判断基準にすることができます。 ●広告宣伝機能  ブランドにより広告宣伝を行う機能のことをいいます。これにより、ブランドは顧客に対するイメージを向上させることができます。 ●資産価値機能  ブランド・エクイティ(資産価値)を高めます。ブランド・エクイティは簡単に入手できないので、強力な差別化要因となります。
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ブランド要素
商品を識別するためのブランドの具体的な構成要素のことを、ブランド要素(ブランド・エレメント)と呼びます。 代表的なブランド要素には、次のようなものがあります。 ●ブランド・ネーム(名称) ブランド要素のうち言葉で表せるもの。キリン一番搾り、コカコーラは、商品名であり、ブランド要素のうち言葉で表せるものです。 ●ブランド・マーク(記号、シンボル) ブランド要素のうち言葉で表せない記号、シンボルなど。キリンビールの麒麟のマークは、ブランド要素のうち言葉で表せない記号です。 ●デザイン、パッケージ 商品のデザインや、パッケージのデザイン。 ●トレード・マーク(商標) ブランド要素を法律的に保護するための商標。ナイキの「Just do it」は、ブランド要素を法律的に保護するための商標であり、ブランドが伝えたいメッセージを簡潔に表したものです。よって、ブランド要素のうち、トレード・マークやスローガンに該当します。 ●スローガン ブランドが伝えたいメッセージを簡潔に表したもの。Canon - ”make it possible with Canon”, JAL - "Dream Skyward" ●キャラクター ブランドのイメージを表すキャラクター。ミシュランマン。 ●ジングル 音によるブランドのメッセージ。インテル入ってる。
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ブランドの種類
ブランドは、所有者によって、次のように分類されます。 ●ナショナルブランド(NB:National Brand、生産者ブランド)  大手メーカーが全国規模で展開するブランドのことを、ナショナルブランド(NB:National Brand)といいます。ナショナルブランドは製造業者のブランドです。 ●プライベートブランド(PB:Private Brand、ストアブランド)  プライベートブランドは販売業者がつけるブランドで、流通業者のブランドであるといわれますが、厳密には、流通業者が独自に開発したものだけではなく、メーカーと連携して開発したブランドもプライベートブランドといいます。  日本の国内においては、食品や日用品などを中心として1990年代からプライベートブランド(PB:Private Brand)が増加しました。これには、不況などによる消費者の価格志向の高まり、技術進歩による品質の底上げ、大型化・チェーン化・経営統合などによる小売店の交渉力の向上が背景となっています。プライベートブランドは、一般的に、ナショナルブランドと比べて低価格の製品が多いです。プライベートブランドに十分な品質や性能が備われば、消費者は ナショナルブランドに対して価格プレミアムを支払う意味はないと判断します。 このような状況により、ナショナルブランドは価格の見直し、新たな差異化、新たなプレミアム製品カテゴリーへの脱却などの対策を図る必要に迫られてきました。 ライセンシング:ブランドの提供元に料金を払ってそのブランドの製品を提供すること。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------ ・流通加工とは、流通の段階において、商品の価値を高めるために様々な加工を施すことをいいます。 仕入れた商品に装飾を施すなど、この加工による独自の付加価値づくりを重視するものです。 ・意匠加工は仕入れた商品に装飾を施すなど、この加工による独自の付加価値づくりを重視するものです。 ・ダブルチョップとは、メーカーと流通業者が共同して構築する共同開発ブランドのことをいいます。
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ブランド採用戦略
ブランド採用戦略とは、多角化した企業が複数の製品にどのようにブランドをつけるかということです。 ブランド採用戦略の種類は、企業のブランド採用戦略による製品ライン間の類似性と、標的市場の類似性の2軸によるマトリクスで、次のように示されます。 ●ファミリーブランド(コーポレートブランド):  製品ラインが同質であり、標的市場も同質である場合の戦略です。ファミリーブランドでは、全ての製品に同じブランドがつけられます。例えば、無印良品のように、ほとんど企業そのものを表すブランドが用いられる場合が多いため、コーポレートブランドと呼ばれることもあります。 ●個別ブランド:  個別ブランドは、製品ラインが異質であり、標的市場も異質である場合の戦略です。個別ブランドでは、個々の製品に対してブランドがつけられます。 ●ダブルブランド:  ダブルブランドは、製品ラインが異質であり、標的市場が同質である場合の戦略です。ダブルブランドでは、同じターゲットに対して製品の違いを打ち出すために、統一的なファミリーブランドと、個別ブランドを組み合わせます。 ●ブランド・プラス・グレード:  BMWの3、5、7シリーズというように、共通の製品を表すブランドに、ターゲットの違いを表すグレードをつけるものは、ブランド・プラス・グレードです。ブランド・プラス・グレードは、製品ラインが同質であり、標的市場が異質である場合の戦略です。ブランド・プラス・グレードでは、同じような製品を、違うターゲットに提供していくため、共通の製品を表すブランドに、ターゲットの違いを表すグレードをつけます。 ●分割ファミリーブランド:似たような製品ラインをグループ化して、複数のファミリーブランドをつけるものです。
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ブランド基本戦略
製品が増えてきた場合に、どのようにブランドをつけるのかにより、次のような4つのブランド基本戦略が考えられます。 ●ライン拡張戦略:既に確立したブランドをマイナーチェンジした製品に使用する戦略  一般的に改良型の製品開発の場合は、ライン拡張戦略を取ります。これは、最もリスクが低い方法です。 ●ブランド拡張戦略:新しいカテゴリーの製品に既存のブランドをつける戦略 ●マルチブランド:同じカテゴリーの製品に、違うブランドをつける戦略  マルチブランド戦略は、同じ市場において、様々な顧客ニーズに対応し、市場のカバー率を高めるのが狙いです。また、店頭での陳列スペースを多く確保する効果もあります。 ●新ブランド戦略:新しいカテゴリーの製品に、新しいブランドをつける戦略  新ブランドを立ち上げるのは、コストや時間がかかりますが、新ブランドが確立すれば売上を増加させることができます。
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ブランドカテゴライゼーション
ブランドカテゴライゼーションとは、ある製品カテゴリーに含まれるブランドを類型化する枠組みです。最も広いカテゴリーは入手可能集合です。入手可能集合はそれぞれの製品カテゴリーにおいて入手可能なブランドです。次のカテゴリーは、ブランドの名前を知っているか否かです。知っている場合は知名集合となりますが、知らない場合は非知名集合となります。実質的にブランドの特徴を知っている集合は、処理集合といい、名前しか知らない程度のブランドは非処理集合といいます。処理集合は更に以下の3つの集合に分かれます。 想起集合-処理集合のうち購入したいと思うブランドの集合です。考慮集合と呼ばれることもあります。 拒否集合-処理集合のうち購入したいとは思わないブランドの集合です。 保留集合-何らかの理由で購入を思いとどまっているブランドの集合です。品質の割に価格が高い、自分が属する集団やグループで誰も買わない、あるいは十分な情報が入手できないなどの理由で、仮に認識していたとしても購買代替案から外されるブランドの集合のことです。
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パッケージング
パッケージングとは、製品の包装や容器のことをいいます。 パッケージの機能には、次のものがあります。 ●運搬・保護機能 ●情報提供機能 ●販売促進機能 パッケージングには、次のような3つの分類があります。 ●個装  個々の製品に対する包装。個装は、製品の保護や、製品の魅力を高めるための包装です。製品を運搬するときには、さらに包装貨物という形にして、製品を保護したり運搬しやすいようにしたりします。個装は、販売促進機能と情報提供機能を重視しています。 ●内装  包装貨物の内部の包装。内装は、衝撃や湿気などから製品を保護するために行う包装です。内装は運搬・保護機能を重視しています。 ●外装  包装貨物の外部の包装。外装は、運搬したり保管をしたりするために、荷造りを行った包装です。外装は運搬・保護機能を重視しています。
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新製品開発
新製品開発は、マーケティング・マネジメント戦略に沿って行います。環境分析を行った上で、ターゲットとする顧客セグメントを決定し、競合とのポジショニングを行った上で、新製品を開発する必要があります。 一般に、新製品開発プロセスは、次の順番となります。 ●製品コンセプトの検討  新製品開発の一般的なプロセスは、まず製品コンセプトを検討することから始めます。この段階では、顧客のニーズや、自社の強みであるシーズに着目し、製品化のアイデアを数多く挙げていきます。次に、アイデアの中から、事業戦略や実現性、市場性などを基準にアイデアを絞り込むスクリーニングを行います。スクリーニングで残ったものは、さらに製品のコンセプトを明確にしていきます。ここで、ターゲット顧客やポジショニングを明確化します。 ●マーケティング戦略の検討  新製品開発の2番目のプロセスは、マーケティング戦略を検討することです。この段階では、製品、価格、チャネル、プロモーションなどのマーケティング戦略の仮説を作成します。また、このマーケティング戦略に基づいて、事業の予想売上高、原価、利益などをシミュレーションし、経済性を評価します。評価の結果、事業として採算が見込める場合には、次の段階に進みます。 ●製品化  新製品開発の3番目のプロセスは、製品化することです。この段階では、実際の製品開発を行います。製品コンセプトに基づいて製品の設計を行い、試作品を作成します。つぎに、顧客を限定して実験的に販売するテストマーケティングを行います。ここで、市場の反応を確認し、製品の設計やマーケティング戦略を最終調整します。 ●市場導入  新製品開発の最後のプロセスでは、最終的に決定した製品の設計をもとに製品を生産し、市場導入を行います。
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コ・ブランディング(共同ブランディング)
コ・ブランディング(共同ブランディング)とは、複数のブランドを組み合わせて、一つの製品やサービスに対して使用することです。
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成分ブランド
成分ブランドとは、コ・ブランディングの一種で、製品の原材料や部品などのブランド力を利用して、それを製品そのものに反映させてブランド力をアップさせることです。PC市場におけるインテルの戦略は、この成分ブランディングの良い例といえます。
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プライベートブランド
プライベートブランドは、ストアブランドとも呼ばれ、卸売業者や小売業者などの販売業者がつけるブランドです。例えば、コンビニエンスストアでは、独自のブランドをつけた商品が開発されています。
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ブランド・アイデンティティ
ブランド・アイデンティティとは、自社の製品やサービスが競合他社の製品やサービスとどこが違うのかを明確に示すものです。つまり、企業が消費者にその製品やサービスを「どう思ってほしいか」という目標・理想像のことです。そのため、それが実現されるためには、「情緒的・自己表現的便益を明確にすることが重要」といえます。
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ブランド・エクイティ
ブランド・エクイティとは、ブランドが持つ資産価値を表します。ブランド・エクイティは、ブランド・ロイヤリティ、知名度、知覚品質の高さ、ブランド連想の強さ、特許、商標などから構成されていますが、それぞれを標準的に数式化するのは困難です。
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ブランド開発
ブランド開発では、企業の製品やサービスを消費者の生活空間・生活場面と結び付け、それらへの意味付けを行うことによって、価値や便益を作り出し、それをわかりやすく伝えていくことが大切です。したがって、「顧客との強力な関係性を構築するかが重視される」といえます。
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ブランド価値構造
ブランド価値の研究者である和田充夫氏は、顧客が感じる価値をブランド価値構造として4つの階層に分けて、「基本価値」、「便宜価値」、「感覚価値」、「観念価値」と位置づけて説明しています。顧客にとっての価値の重要性は、基本価値から観念価値にいくほど増加すると考えられています。和田氏によるブランド価値の概念において、それぞれの価値は階層的と位置づけられています。和田氏によると、「基本価値」が十分に提供されなければ「便宜価値」は創造されないというように、下位価値を前提に上位価値が成り立っているとしています。すべての価値を一度に高められない場合、ターゲットに応じて他の価値のいずれかを強化したとしても、基本価値のレベルが低ければ、顧客はその製品やサービスに価値を見いだせないことになります。 例えば、自動車の場合を考えてみましょう。使用目的にあった速度、乗員数、積載量などの機能が「基本価値」です。運転のしやすさや燃費等の経済性が「便宜価値」、乗り心地の良さやデザインが「感覚価値」、ブランドのステータス性やストーリー性が「観念価値」です。 「基本価値」とは、製品の物理的機能が提供する価値です。 「便宜価値」とは、製品の購買・消費時に利便性を提供する価値です。 「感覚価値」とは、五感を通して楽しい消費経験を提供する価値です。「感覚価値」とは、パッケージなどブランド要素や広告などのプロモーションといったものなどによって、購買時に楽しさを感じるなど消費者が五感で感じる価値のことです。製品や広告、販促物に感じる魅力や好感度が「感覚価値」を構成しているので、「感覚価値」を高めるには非価格競争が重要になります。そのため、「感覚価値」を高めることで企業が価格競争に巻き込まれやすくなるとはいえません。 「観念価値」とは、ブランドなどから顧客が抱くストーリー、ヒストリー、文脈などが提供する価値です。「観念価値」は、ブランドが発信するノスタルジー、ファンタジー、ブランドの歴史への憧れや共感度、あるいは自己のライフスタイルへの共感度などによって構成される価値です。和田氏によると、「観念価値」はブランドに「単なる品質や機能以外のストーリーを付加する」ものと位置付けられています。入手の難しい高価なブランドにおいては、「観念価値」の作用する割合が大きく、ブランドの歴史や物語などの訴求を通じて、ブランドの高い価値を支えているといえます。
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価格の影響要因
●消費者の需要 ・市場均衡理論  需要が供給よりも大きい場合は価格が上昇し、需要が供給よりも小さい場合は価格が低下する。一般的にも、人気がある製品は価格が高めに設定され、不人気の製品は安売りされることが良くあります。 ・需要の価格弾力性  需要の価格弾力性が大きい場合は、価格を高くすると売上高が減少します。一方、需要の価格弾力性が小さい場合は、価格を高くしても売上高は大きく変化しません。需要の価格弾力性とは、価格が1%変化したときに、需要量が何%変化するかを表すものです。これは、価格が変化したときに需要量がどれだけ反応するかという反応度を示します。価格を変化させたときに大きく需要量が変化する場合、需要の価格弾力性は高い(大きい)といい、価格を変化させたときにあまり需要量が変化しない場合、需要の価格弾力性は低い(小さい)といいます。 ●製品のコスト  製品の製造や販売にかかるコストにより価格設定する ●競合の存在  通常は市場には複数の競合がいるため、競合を意識した価格設定をする ●法的な規制  独占禁止法ではメーカーが流通業者の販売価格を拘束することなど、不公正な取引を禁止している
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価格の3つの基本戦略
価格設定には、何を重視するかによって、次の3つの基本戦略が考えられます。 ●コスト志向の価格設定(コストプラス法、マークアップ法)  製品のコストを重視する。コスト志向の価格設定では、製品の原価に一定の利益を上乗せすることで、価格を設定します。 ●需要志向の価格設定  需要を重視する。つまり、消費者の需要が生産者の供給よりも大きければ高い価格を設定し、消費者の需要が生産者の供給よりも 小さければ低価格を設定します。  ◆心理的価格設定  また、特に消費者の心理を重視して価格を設定するのが、心理的価格設定です。心理的価格設定には、いくつかの種類があります。  ◇名声価格   名声価格は、威光価格と呼ばれることもあります。   名声価格は、あえて高い価格をつけることで、消費者に高い価値があるということを認識させるような価格です。   例えば、高級時計などのブランド品は、値段が高い方が、ステータスが上がり、低い価格をつけたときよりも売れる場合があります。  ◇端数価格   端数価格は、980 円など、あえて値段を端数にした価格設定です。   9や8が付く端数価格をつけると、消費者は実際よりも値段が安く感じることが多いため、   食料品や日用品などで特によく用いられる価格設定方法です。  ◇慣習価格   慣習価格は、消費者が慣習的に一定の価格のみ受け入れているような価格です。   例えば、現在は、缶ジュースは 120円で売られていることが多いですが、120 円よりも高くなると需要が急激に減ります。   よって、常に 120 円という慣習価格で販売されます。 ●競争志向の価格設定  競合の価格を重視する 競争志向の価格設定の代表的なものに、実勢型価格設定と入札型価格設定があります。  ◆実勢型価格設定   競合企業の実勢価格に従う。一般的には、価格を支配的に決定しているリーダー企業、すなわちプライスリーダーの価格に、  プライスフォロワーが追随します。実勢価格型価格設定は、消費者が価格差に敏感な製品に良く使われる方法です。  ◆入札型価格設定   契約が入札で決定される場合に用いられる。入札では最も価格が低い企業が契約を受注できるため、入札に参加する  競合企業の価格を予想しながら入札価格を設定する必要があり、これは競争志向の価格設定の一つです。
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Hi-Low価格戦略
Hi-Low価格戦略は、集客のために、セールや特売など一時的に低価格で販売する方法です。同一商品の価格が時期によって上下に変動することから、このように呼ばれます。原価の低減を図るために、前もって大量に商品の購入を行って、通常より安い価格で仕入れることをフォワード・バイイングと言います。
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製品ミックスによる価格設定方法3つ
◆抱き合わせ価格 複数の製品を組み合わせてセットで販売する方法です。例えば、上下セットの服や、ソフトがあらかじめ組み込まれたパソコンなどが抱き合わせ価格の例です。セットで安い価格で販売することで、消費者にまとめて販売することが狙いです。多くのスキー場で、往復交通費にウェアやスノーボードのレンタル料やリフト券を組み合わせています。 ◆プライスライニング プライスラインという段階的な価格帯に沿って、製品を販売する方法です。例えば、最近はスーツやメガネなどでも、製品のランクごとのプライスラインを設定している店舗があります。プライスラインを設定することで、消費者が製品を選択しやすくすることができます。 ◆キャプティブ価格 キャプティブとは「虜」という意味で、メインの製品を安く設定し、付随する製品を一緒に購入してもらう戦略です。例えば、以前の携帯電話は本体が非常に安く、通話料で利益を確保するような価格設定がされていました。このように、キャプティブ価格では、メインの製品を魅力的な価格設定にして顧客を取り込み、付随製品で儲けることが狙いです。プリンターとトナーの関係をイメージすると理解しやすいです。 -------------------------------------------------------------------------------------------------------------- サブスクリプションとは顧客がサービスや商品の利用期間に応じて料金を支払う方式です。 従来は顧客に商品やサービスを売切りで販売し、所有してもらうプロダクト販売型のビジネスモデルが一般的でしたが、 クラウドコンピューティングの進化に伴い、ソフトウェアを所有せずに利用するサブスクリプション型のビジネスが普及してきました。
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価格の品質バロメーター機能
製品やサービスに関しての知識や情報が少ない場合は、価格の高いものは品質も良いという、価格の品質バロメーター機能がはたらきました。しかし、消費者が製品やサービスに関する知識や情報を多く持つようになってきたため、価格の品質バロメーター機能が作用しにくい状況が生じています。
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販売チャネルによる価格設定
販売チャネルによる価格設定には、次のようなものがあります。 ●機能割引  販売相手が遂行する流通機能によって割引をする ●アローワンス  メーカーが流通業者に対して行う割引 ●リベート  取引が終了した後の一定期間後に現金などが支払われる ●オープン価格  メーカー希望小売価格を表示しないもの
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エブリデーロープライス政策(EDLP 政策)
エブリデーロープライス政策とは、名前の通り、常に商品を低価格で販売する方法です。この方法は、ウォルマートが推進したことで有名になりました。エブリデーロープライス政策では、強力な購買力を背景に低コストで仕入れることにより、ロスリーダーに頼らずに、すべての商品を安く販売します。エブリデーロープライス政策を実行するためには、大規模な仕入やローコストのオペレーションを築くことが必要です。
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価格割引
◆現金割引 現金割引は、現金で支払う場合に価格を安くする制度です。現金による支払では、クレジットカードや掛けによる支払よりも資金回収が早くなり、資金の回収不能というリスクがなくなります。 ◆数量割引 次に、数量割引があります。数量割引は、大量に購入する場合に適用される割引です。大量に購入してもらうことで、販売に関わる事務などのコストが削減できます。 ◆季節割引 次に、季節割引があります。季節割引は、需要が停滞する季節に適用される割引です。例えば、旅行業界では、需要が少ない季節には安い価格を設定し、需要を喚起することが一般的です。
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ロスリーダー政策
ロスリーダー政策とは、採算を度外視した値段をつけた目玉商品を設定し、その商品目当てに来店した顧客に、目玉商品以外の商品も購入してもらうことで、利益を確保する方法です。 この目玉商品のことをロスリーダーと呼びます。よくスーパーでは、幾つかのロスリーダーを設定し、チラシなどで集客をしています。しかし、ロスリーダーだけ購入されてしまうと利益が出ないので、注意が必要です。
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新製品の価格設定戦略2つ
◆上澄吸収価格戦略(スキミングプライス)  上澄吸収価格戦略は、スキミングプライスや初期高価格戦略と呼ばれることもあります。 上澄吸収価格戦略は、新製品に高い価格を設定し、価格にそれほど敏感でない消費者に販売する方法です。 需要の価格弾力性が高い場合には、向いていない戦略です。どんな新製品でも、いずれは競合に模倣されて価格競争になっていきます。 初めは上澄吸収価格戦略により高価格を設定した場合でも、時間が経つにつれて価格が下がるのが一般的です。 新製品の発売当初は、価格が高くても購入するイノベーター(革新者)という顧客層がいます。 そういった顧客層をターゲットに高価格で販売することが狙いです。 〈メリット〉 利益率が高い、新製品の製品コストを早く回収できる 〈デメリット〉価格を高く設定すると、実際にはあまり売れない 〈成立条件〉 新製品の品質やイメージが高く、競合と差別化できており、競合が模倣しにくいこと ◆市場浸透価格戦略(ペネトレーションプライス)  市場浸透価格戦略は、ペネトレーションプライスや初期低価格戦略と呼ばれることもあります。 市場浸透価格戦略は、新製品に安い価格を設定し、大量に販売することでシェアを高める戦略です。 模倣されやすい最寄品でよく見られる価格戦略です。 〈メリット〉 一気にシェアを高めて競合他社よりも規模の経済性や経験曲線効果を早く発揮できる、より安い価格で販売することができる 〈成立条件〉 需要の価格弾力性が高いこと、規模の経済性や経験曲線効果が働くこと
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参照価格
参照価格とは、消費者が商品やサービスを購入する際に基準とする価格のことです。 参照価格には「内的参照価格」と「外的参照価格」があります。 内的参照価格:過去に購入した経験や記憶などから自身が基準とする価格        消費者は値引きセールの価格を一度認知しているため、過去の経験として記憶に残っています(内的参照価格)。        ここで、お店が定価に戻すと消費者は内的参照価格と比較して「高い」と感じるようになります。 外的参照価格:ネットの通販サイトやお店で表示されている販売価格 消費者は実際の商品の価格(実売価格)と参照価格を比較して、参照価格よりも実売価格が低い場合に「安い」と感じます。 逆に、実売価格が参照価格を上回っている場合は「価格が高い」と感じます。
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販売促進による価格設定
販売促進による価格設定には、次のようなものがあります。 ●ロスリーダー政策  採算を度外視した値段をつけた目玉商品を設定し、その商品目当てに来店した顧客に、目玉商品以外の商品も購入してもらう ●エブリデーロープライス政策(EDLP政策)  常に商品を低価格で販売する
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チャネルの機能
メーカーで生産された製品は、様々な流通経路をたどって最終消費者まで届けられます。この流通経路のことをチャネルと呼びます。 チャネルの機能には、次のようなものがあります。 ●所有権移転機能  商流として製品の所有権を移転する ●製品輸送・保管機能  物流として製品を輸送したり保管したりする ●情報伝達機能  情報流通として需要や供給などの情報を伝達する ●販売促進機能  情報流通として販売促進する ●金融機能  流通業者がメーカーから製品を買い取ることにより、 最終消費者に購入される前に支払いが行われる ●危険負担機能  製品が消費者に売れないリスクを流通業者が負担する
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取引数最小化の原理
メーカーと小売業者の間に卸売業者が介在することで取引の数が少なくなり、流通が効率化すること。 メーカーと小売業者が多数存在する市場では、取引のパターンが、【メーカーの数×小売業者の数】だけ存在することになります。 ここでメーカーと小売業者の間に卸売業者が介在することで取引の数が少なくなり、流通が効率化するとされる 「取引数最小化の原理」があります。 一方で、近年では卸売業の中抜きなどが進行している業界も多く、流通業界の再編も進んでいます。
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●オムニ・チャネル・リテイリング ●電子商取引におけるモール型 ・マーケットプレイス型 ・テナント型プラットフォーム
●オムニ・チャネル・リテイリング 実店舗、オンラインストア等すべての販売チャネルや流通チャネルを統合することをいい、 統合販売チャネルを実現することでどの販売チャネルからも同じように商品購入可能な環境を実現することができます。 モール型ECサイトは、Web上のショッピングモールのようなスペースを提供するECサイトで、 更にマーケットプレイス型とテナント型に分かれます。 ●マーケットプレイス型  マーケットプレイス型は、モール内で商品を販売したい企業が、商品のデータのみを掲載するタイプのモール型ECサイトです。 「出品」となりますので、商品データはモール側が管理することになります。出品企業にとっては、自社のECサイト運用負担の軽減、 事業の初期投資を抑えることができますが、企業の存在感を打ち出すことはできません。従って、商品力が売上を左右します。  会計上の売上はモール側の売上となるため出品企業にとっては流通総額(取扱高)が会計上の売上となるわけではありません。 あくまで売上からモール側の手数料を引いた金額が売上となります。 ●テナント型プラットフォーム  テナント型は、現実世界のショッピングモールと同様に、多くのECサイトが立ち並んだモール型EC市場です。 企業側の運用負担はありますが、店舗の特徴を出してブランド力を高める工夫ができます。 出店企業は売上総額を自社の売上として計上し、モール側に販売手数料を支払います。
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チャネルの種類
チャネルの長さによる種類:チャネルの段階の数によって、次のように分類します。 ●直接流通  メーカーが直接消費者と取引を行うチャネル ●間接流通  メーカーと消費者の間に流通業者が介在するチャネル ``` チャネルの幅による種類:取引する流通業者の数によって、次のように分類します。 ●開放的チャネル政策  メーカーが取引する流通業者を限定せずに、幅広く製品を流通させる 〈メリット〉 幅広く製品を流通させることで、たくさんの製品を販売できる 〈デメリット〉メーカーがチャネルをコントロールすることが難しい ``` ●選択的チャネル政策  メーカーが取引する流通業者を、一定の基準によって選択して、業者の数を絞り込む 〈メリット〉 流通業者を絞り込むことで、販売の努力が集中できる、得意先の管理がしやすくなる 〈デメリット〉流通業者の販売やプロモーションへの協力が不十分な場合がある ●排他的チャネル政策  製品の流通を制限し、専売店のみに販売権を付与する 〈メリット〉 自社のブランドを高めるのに向いている 〈デメリット〉消費者の認知度が低下し、売上が低下する可能性がある
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垂直的マーケティングシステム(VMS:Vertical Marketing System)3つ
垂直的マーケティングシステム(VMS:Vertical Marketing System)とは、 メーカーや卸売業者、小売業者を含めて垂直的に組織された流通システムのことをいいます。 垂直的マーケティングシステムには、次の3つの種類があります。 ●企業型システム  チャネル全体が一つの資本によって垂直統合されているもの  例えば、自動車メーカーは、自動車の販売ディーラーを系列会社として所有しています。企業型システムは、  チャネルリーダーの支配力が最も強いのが特徴です。先ほどのチャネルの種類では、排他的チャネルに分類されます。 ●契約型システム  独立した企業同士が契約によって結びつくシステム。契約型システムは、企業型システムに比べるとチャネル内のつながりが弱くなります。 ・フランチャイズチェーン  本部であるフランチャイザーと加盟店であるフランチャイジーが契約を結んだ事業  本部のフランチャイザーは、特定の地域の販売権や商標などを使用する権利を、加盟店のフランチャイジーに与えます。  また、フランチャイザーは、事業ノウハウを元に経営指導などを行うことで、フランチャイジーの事業を支援します。  フランチャイジーは、その対価としてチェーンに加盟する際の加盟料と、定期的なロイヤリティーをフランチャイザーに支払います。  フランチャイズチェーンのメリットは、少ない経営資源で迅速に事業を拡大できることです。 ・ボランタリーチェーン  独立した企業同士が結合して、経営の合理化をはかるもの。本部が集中的に仕入などを行うことで、業務の効率化を行います。  ◇コーペラティブチェーン(小売業者主宰)   小売業者が主宰するコーペラティブチェーンです。コーペラティブチェーンでは、小売業者同士で水平的に統合し、   共同で本部を設けて共同仕入や、在庫管理などを行います。  ◇ボランタリーチェーン(卸売業主宰)   卸売業者が主宰するボランタリーチェーンです。卸売業主宰のボランタリーチェーンでは、卸売業者が小売業者に対して   リテールサポートを行います。リテールサポートとは、卸売業者が小売業者から入手した売れ筋などの情報を元に、   商品情報の提供などの支援を各小売業者に行うことです。 ●管理型システム  チャネルリーダーが他のメンバーを契約によらず組織化するもの。3 つの垂直的マーケティングシステムの中では、  最もチャネルリーダーの支配力が弱くなります。
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物流戦略
物流は、物的流通の略で、メーカーから消費者まで製品を届けることをいいます。 物流戦略では、いかに安く届けるかということと、いかに顧客満足を満たすかということが重要です。 物流の機能には、単にものを輸送するだけでなく、保管や荷役、包装まで含まれています。 例えばメーカーでは、まず材料や部品を購入します。このときの物流が購買物流です。工場で製品が生産された後に倉庫で保管されます。 倉庫の中では商品の仕分けや梱包が行われ、出荷されます。このときの物流が販売物流です。 ●ロジスティクス  材料の調達から生産、顧客への配送などの一連の物流活動を、個別機能ごとではなく全体最適で計画的に管理するプロセス。  ロジスティクスでは、物流を全体最適化するために、工場や倉庫などの物流拠点の配置や、材料や製品の輸送方法、生産や配送の  スケジューリング、在庫管理方法などを総合的に計画し管理します。 ●サードパーティーロジスティクス  サードパーティーロジスティクスは、輸送や倉庫業務といった個別の業務だけでなく、ロジスティクス全体をアウトソーシングします。  ロジスティクスの専門業者を利用することで、物流業務を改革しコスト削減や顧客満足度の向上を図ることが狙いです。
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価格弾力性と交差弾力性
【価格の交差弾力性】  価格の交差弾力性とは、ある財の価格の変化が他の財の需要量に及ぼす度合いを表します。 X財に対するY財の価格の交差弾力性とは、次式で示されます。  交差弾力性=Y財の需要変化率/X財の価格変化率 =(△Y/Y)/(△Px/Px)    Px:当初のX財の価格、Y:当初のY財の需要量  交差弾力性は、X財の価格が変化した場合に、Y財の需要量がどう変化するかを示しています。 【交差弾力性と財の代替・補完】  価格の交差弾力性が正である場合、X財とY財は代替財であり、X財の価格が上がるとY財の需要増加となります。 負である場合X財とY財は補完財であり、X財の価格が上がるとY財の需要減少をもたらします。 価格の交差弾力性がゼロであれば独立財であり、X財とY財には代替性も補完性もありません。 牛肉と豚肉、鶏肉は相互に代替財であり、また、コーヒー豆とお茶や紅茶も代替財です。代替財では交差弾力性は正の値となります。 軽自動車の価格変化が高級スポーツカーの需要量に影響しないのであれば、交差弾力性の値は、ゼロに近いといえます。 消費者が品質を判断しやすい製品の場合には威光価格が有効に働くため、価格を下げることが需要の拡大につながるとは限らないとしていますが、プレミアム感がある製品の価格を一時的に値下げするような販売促進においては品質低下のイメージを持たせることなく、需要を拡大することができます。例えば、ブランド力が強い高級車を一時的に値引きキャンペーンすれば需要が拡大するでしょう。
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価格の交差弾力性
価格の交差弾力性とは、ある財の価格の変化が他の財の需要量に及ぼす度合いを表します。 X財に対するY財の価格の交差弾力性(Es)とは、次式で示されます。 Es=Y財の需要変化率/X財の価格変化率 =(⊿y/y)/(⊿Px/Px) Px:当初のX財の価格、y:当初のY財の需要量 つまり、X財の価格が変化した場合に、Y財の需要量がどう変化するかを示しているものです。 価格の交差弾力性とは代替効果弾力性として捉えることができます。「代替財が存在しにくい傾向」は、価格の交差弾力性の低さとして理解可能です。価格の交差弾力性が低ければ低いほど、「競合相手による価格切り下げに伴って奪われる需要量が、より小さくて済む」ことを意味します。  価格の交差弾力性が正であればX財とY財は代替材であり、X財の価格が上がるとY財の需要増をもたらす、つまり需要がX財からY財へシフトします。負であればX財とY財は補完財であり、X財の価格が上がるとY財の需要減をもたらす、つまりX財の価格上昇に伴う需要減につられて、Y財の需要も減少します。また、価格の交差弾力性がゼロであれば独立財と呼ばれます。
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極端の回避性(松竹梅の法則)
2つの価格帯を用意した場合は当然に低価格帯の商品が選択されやすくなりますが、 さらに3つの価格帯を用意した場合、消費者は中間の価格帯を選ぶ傾向にあります。 これは、価格の品質バロメーター機能により、人は高価格なものは高品質、低価格なものは低品質、と認識する傾向があるためです。 その場合、高価格帯のものを購入することで贅沢に感じたり、購入後に失敗だった場合に喪失感を抱くことを恐れたりして敬遠しますし、 低価格のものは品質が低そうと懸念することにより、結果的に購入しないことを選択します。 そうしたときに、中間の価格帯のものがあることにより、それを購入しやすくなります。
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心理的財布
「心理的財布」とは、消費者が持つ物理的な財布は1つであっても、 購入する商品の種類によって心理的に複数の財布を持っている、という概念です。 例えば、同一の消費者が車を購入する場合に、感覚的に気に入った車が比較対象の車より10万円高くても 選択してしまうのに対し、日用品を購入する場合には10円でも安い商品を選ぶ、といった行動のことです。 高額商品を購入した直後の消費者は、一般的に、支出に対して無頓着になり、 マンション購入後に、高額な家具や家電製品をあわせて購入する、といった購買行動をとりやすくなります。
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海外市場へ進出する際のフランチャイジング契約形態
国際フランチャイジング 国際フランチャイジングには、次の 3 つのものがあります。 1.ストレート・フランチャイジング契約  国内の本部が進出先国でフランチャイジング参加の募集をかけ、現地事業者と直接フランチャイジング契約を締結する形態。一切の投資が必要ないというメリットがある反面、海外進出が成功するかどうかは現地のフランチャイジーの能力に大きく依存することになり、リスクも大きいものとなる点に注意が必要です。 2.合弁型フランチャイジング契約  国内の本部が進出先国でのパートナーとともに現地に合弁会社や子会社を設立し、そこを相手先としてマスター・フランチャイズ契約を結ぶもの。コンビニではファミリーマート、ミニストップ、ローソン、セブン-イレブンなどが海外進出していますが、ストレート・フランチャイジングは少なく、ほとんどが合弁あるいは子会社による進出です。 3.サブ・フランチャイジング契約  海外の現地本部(マスター・フランチャイザー)が、現地で加盟店を募集し、フランチャイズ契約による店舗展開を行うもの。 海外市場へ進出する際は、現地企業と合弁で現地本部を設立し、まずはこの現地本部との間でマスター・フランチャイジング契約を結びます。これにより、現地本部に本国から責任者を派遣することができ、現地での運営・管理に本部の意向を反映させたり、事業リスクを低減させたりすることができるようになります。その後、現地本部と他の事業者との間でサブ・フランチャイジング契約を結びます。これにより、海外の現地本部(マスター・フランチャイザー)が、現地で加盟店を募集し、フランチャイジング契約による店舗展開を行うことができます。 「味千ラーメン」(重光産業)はアジア各国、アメリカ、カナダに進出していますが、圧倒的に香港を含む中国への進出が集中しており、香港に合弁会社を設立し、その後、サブ・フランチャイジングの形で大陸全土に展開する方式をとっています。外食産業では、吉野家も同様です。
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フランチャイジング契約
フランチャイジングとは、フランチャイズを利用した仕組みのことをいいます。 フランチャイジングとはフランチャイザーと呼ばれる事業者がフランチャイジーと呼ばれる他の事業者との間に契約を結び、 フランチャイジーに対して同一のイメージのもとに事業を行う権利をフランチャイザーが有償で与えるものです。 アメリカのフランチャイザーが1970年代に日本に進出してきた際、日本側のフランチャイジーにフランチャイズ事業の経験がなかったため、選択肢アの方式をとるケースが多かったのです。例えば、ミスタードーナツはダスキンと、ケンタッキー・フライド・チキンは三菱商事と、マクドナルドは藤田商店と第一パンというように、マスター・フランチャイズ契約をし、日本へ進出したわけです。
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チェーンストアオペレーション
フランチャイジングを用いたチェーンストアオペレーションは、フランチャイズチェーンと呼ばれます。
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コーポレートチェーン
ひとつの企業で多数の店舗を有する大規模小売業をコーポレートチェーンと呼びます。
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電子商取引の流通チャネル
インターネット上の仮想ショッピング・モールでは取扱商品の幅、奥行きが拡大すると探索効率が高まらないかぎり購入者数と流通総額に限界が生じるとされています。 オムニ・チャネル・リテイリングは、消費者の囲い込みのための戦略で「オムニ」は「あらゆる」「すべての」といった意味です。 消費者があらゆるチャネルから自社の製品、商品を購入してもらおうという戦略です。 マーケットプレイス型プラットフォームは、企業は「出店」ではなく「出品」をする形になります。 従って、テナント型プラットフォームに出店する経営主体は、流通総額を売上高に計上し、販売手数料をプラットフォーマーに支払いますが、マーケットプレイス型プラットフォームに出品した企業は、プラットフォーマーに対し販売した総額が売上高であり、販売手数料を含まない総額が流通総額となります。
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物流における保管・在庫
商品を生産者から顧客に納品するまでの一連の活動が物流であり、この物流には配送や、保管、包装、荷役、流通加工などが含まれます。 物流とよく似た用語「ロジスティックス」とは、物流の各活動を統合し、物の流れを一元管理して、全体の最適化をする考え方のことです。 需要には季節変動がある場合があります。また、実際に商品が購買されるかどうか、すなわち需要されるかどうかは、不確実性が伴います。 そのため、企業は、需要が大きく伸びる場合に対応できるようにするため、商品を保管します。 リードタイムとは、注文から納品までにかかる時間のことです。所有される在庫量は、需要変動の大きさやリードタイムなどに依存します。 製品ライフサイクルが短縮すると、在庫量が変動します。 ----------------------------------------------------------------------------------------- 「小売業態ライフサイクルとは、小売業態の発展段階が、導入期→成長期→成熟期→衰退期といったプロセスを経るという考え方 「ボラティリティー」とは、価格変動の度合いのことです。 「サイクルタイム」とは、繰り返し行なう作業や処理における一回の工程にかかる所要時間や製品を製造するのにかかる時間のことです。
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プロモーション・マーケティングコミュニケーション・プロモーションミックス(戦略2つ)
プロモーションとは、顧客や流通業者に対して情報伝達を行うことにより購入を促進することをいいます。 プロモーションでは、情報をどのように伝えるのかということを扱います。これを、マーケティングコミュニケーションと呼びます。 プロモーションでは、様々な手段によって情報を伝達します。この手段には、広告、パブリシティ、人的販売、販売促進等があります。 これらを目的に合わせて適切に組み合わせていくことが重要です。この組み合わせのことを、プロモーションミックスと呼びます。 プロモーションミックスは、大きく次のものに分けられます。 ●プル戦略  消費者の需要を喚起する戦略。つまり、消費者が自らお店に足を運んだり、自ら製品を購入したりするように導くことです。 これは、広告やパブリシティによって消費者に働きかけ、消費者に自社の製品に興味・関心をもたせ、消費者から購買行動を とってもらおうとする戦略です。 〈手段〉広告、パブリシティ(マスコミなどに対して積極的に情報公開などを行ない、メディアに報道されるよう働きかけること) ●プッシュ戦略  消費者に自社の製品に興味・関心をもたせ、消費者から購買行動をとってもらおうとする戦略。つまり、積極的に消費者に対して製品を売り込むことで製品を購入してもらうことです。これは、製造業者が卸売業者や小売業者へ自社の販売員を送り、販売店援助を行い、消費者に積極的に販売してもらおうとする戦略です。 〈手段〉人的販売、販売促進
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統合マーケティングコミュニケーション(IMC:Integrated Marketing Communications)
統合マーケティングコミュニケーション(IMC)とは、多岐にわたるメディアにおける企業発信のメッセージを | 統一・統合して展開するマーケティングコミュニケーションのことをいいます。
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広告の媒体
広告の媒体は、次のように、大きく分けてマスコミの4媒体と、 マスコミ以外の媒体であるセールスプロモーション広告(SP広告)に分類されます。 広告の媒体には様々な種類がありますが、それぞれメリットとデメリットがありますので、 目的に合わせた媒体を選択する必要があります。 新聞のメリットは、カバー範囲が広いこと、短いリードタイムで広告を出せること、信頼性が高いことです。 テレビのメリットは、視聴者が多いこと、映像・音声などを使い消費者の感覚に訴えられることです。 ラジオのデメリットは、表現方法が音声のみであることと、消費者の注意をあまり集められないことです。 雑誌のデメリットは、広告が出るまでのリードタイムが長いこと、読者数が少ないことです。 ダイレクトメールのメリットは、対象の選択ができること、消費者に個別に対応できることです。 屋外広告のメリットは、コストが安く、反復的に露出できることです。 インターネット広告のメリットは、検索したときに表示されるなど双方向性が高く、低コストであることです。
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広告の評価
広告の評価には、次のような3つの段階があります。 ●接触効果  消費者がどれぐらい広告に接触したか、広告をどれぐらいの人が目にしたか ・リーチ:広告の【到達率】。一定期間の間に広告が見込み視聴者の目に触れた割合を表します。      広告を視聴した対象者10万人÷対象者50万人=リーチ20%となります。 ・フリークエンシー:1人あたりの広告の【平均視聴回数】。一般的に、広告は一度よりも複数回見る方が記憶に残りやすいため、           媒体によっては複数回の広告を行い、フリークエンシーを高めるようすることがあります。 ``` ●心理効果  消費者の心理面への影響を測定する ・認知度:広告がどれぐらい【認知】されているか ・理解度:製品がどれぐらい【理解】されているか ・興味関心度:顧客がどれぐらい【興味や関心】を持ったか ``` ●売上効果  広告の実施により、どれぐらい【売上】が増加したか
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パブリシティ
パブリシティは、PRの中でも主に製品等の情報を伝達する手段であるため、PR活動の一環として位置づけられます。 テレビや新聞、雑誌などのメディアに働きかけることで、ニュースとして取り上げられることを目的とします。 広告と違い、直接消費者にメッセージを届けるのではなく、メディアの判断でニュースとして取り上げられるということになります。 企業は、パブリシティを活用するために、プレスリリース等の手段を使ってニュース素材をメディアに提供します。 〈メリット〉 コストが安い、メディアが自主的に掲載するため、消費者の信頼性が高い 〈デメリット〉企業にとってコントロールができない       →掲載されるかどうかが分からなかったり、企業の思い通りのメッセージが報道されるとは限らなかったりします。        企業側は積極的にメディアが興味を示すようなニュース素材の提供を行い、報道機関との良好な関係を築いていくことが重要 パブリックリレーションズ(PR:Public Relations): 株主、従業員、消費者、マスコミなど企業の様々な利害関係者とのコミュニケーションを通じて、利害関係者と良好な関係を築いていく活動
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人的販売
人的販売とは、販売員が直接顧客と接することにより、購入を促進したり、販売を締結したりする活動のことをいいます。 〈メリット〉 顧客ニーズに個別に対応できる、顧客への影響力が強い、長期的な関係を築くことができる 〈デメリット〉対応できる顧客数に制限がある、販売の成果が販売員の能力に依存する 販売員には、新規顧客を獲得するオーダーゲッター、既存顧客からの受注を獲得するオーダーテイカー、販売のサポートを行うサポーティング・セールスパーソン、製品の補修を行なうカスタマーエンジニア、販売の成果を歩合によって受け取るコミッションマーチャント、製品説明および販売促進全般について支援するミッショナリー・セールスパーソンなどがいます。
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販売促進
販売促進は、消費者や流通業者の購買意欲を高めるための短期的なプロモーションのことをいいます。 販売促進では、購入へのインセンティブを付与することで、販売を促進します。 ``` 販売促進は、次のように、消費者向け、流通業者向け、社内向けに分けられます。 ●消費者向け販売促進 ・サンプル:製品の試用版を無償で提供するもの。製品を知ってもらい、需要を拡大することが狙いです。 ・プレミアム:景品など、製品とは別の物品や便益を消費者に付与するもの。プレミアムは製品の購入意欲を高めることが狙い。        懸賞もプレミアムに含まれます。 ・ポイントカード ・会員カード ・POP広告(POP:Point of Purchase) ・カタログ ``` ●流通業者向け販売促進 ・リベート:取引金額が多い場合や、メーカーの販売促進に協力してくれた場合など一定の基準を満たすと、取引後に流通業者に       現金などを支払うことです。 ・アローワンス:流通業者がメーカーの意図に従って広告や陳列などを行った場合に割引を行うものです。 ・販売店コンテスト:販売店同士を競争させて、優秀な販売店を表彰したり優遇したりする制度です。 ・リテールサポート:販売店に対して経営支援をすることです。 ●社内向け販売促進 ・社内販売コンテスト:社内の販売員を対象にした販売コンテストです。社内の販売員がどれだけ販売したかを競うものです。            優秀な販売員を表彰したり優遇したりすることで、販売を促進することが狙いです。 ・販売マニュアル:販売マニュアルは、優秀な販売員の販売技術をマニュアル化したものです。          販売マニュアルにより、販売員の教育を行い、販売能力を高めるのが狙いです。
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関係性マーケティング(リレーションシップマーケティング)
関係性マーケティング(リレーションシップマーケティング)は、顧客との双方向のコミュニケーションなどにより関係性を深めて、顧客を維持していくことが目的です。 カスタマーリレーションシップマネジメント(CRM:Customer Relationship Management)とは、顧客との関係を深めることで、顧客ロイヤルティを高め、収益を拡大しようとするマーケティング手法のことをいいます。新規顧客の開拓よりも、既存顧客の維持の方がマーケティングコストを削減でき、収益性を高められるという考えを前提としています。また、20%の顧客で80%の売上を稼いでいるという、80対20の法則に基づけば、20%の優良顧客を優遇し維持した方が、収益性を高められるということになります。 顧客が企業に対して持つロイヤルティには、行動的ロイヤルティと態度に係る心理的ロイヤルティがあり、両者が高いと「真のロイヤルティ」といわれます。 行動的ロイヤルティが高くても、心理的ロイヤルティが低いこともあり、「見せかけのロイヤルティ」といいます。 顧客は反復購買をしていますが、そのブランドにロイヤルティを持っているわけでなく、そのほかの理由、 例えば、頻繁に訪れるスーパーマーケットやコンビニで見かけたところにその商品がいつもある、といった理由で購買しているということもあります。 関係性マーケティングでは「顧客進化」の考え方があり、顧客獲得後の関係性は低いレベルから、「顧客(クライアント)」→「支持者(サポーター)」→「代弁者・擁護者」→「パートナー」と高まっていきます。自分のすばらしい経験を顧客が進んで他者に広める状態は「代弁者・擁護者」段階以上になれば期待できるでしょう。 CRMの重要な概念に、次のようなものがあります。 ●ライフタイムバリュー(LTV: Life Time Value、顧客生涯価値)  1人の顧客が長期間にわたってもたらしてくれる利益の合計 マーケティングでは、売上の上位2割の顧客層に対しCRMやLTV(顧客生涯価値)を高めることが重要です。 ●RFM分析  Recency(最新購買日)、Frequency(購買頻度)、Monetary(購買金額)を指標として、顧客ごとにポイントの合計を算出し、優良顧客を判別するための分析 ●FSP(Frequent Shoppers Program)  優良顧客に対して、優先的にプロモーションを行う手法 顧客との関係構築はIT技術が発展するまでは、BtoBのマーケティングにルーツがありました。 これは、購買担当や取引先との関係構築が利益に大きな影響を及ぼしていたからです。 BtoCのマーケティングは、IT技術の進歩により、データ入手が容易になったことで 顧客の購買履歴等が追えるようになり、RFM分析などができるようになったからです。 アップセルとは、顧客の単価を向上させるため、既存顧客からより上位のモデルに乗り換えてもらったり、 見込顧客に検討しているモデルよりも上位モデルを購入してもらう販売促進手法です。従って、クロスセルやアップセルが可能な顧客は優良顧客といえます。
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顧客生涯価値
顧客生涯価値はこれまでに購買された金額ではなく、新規顧客が顧客ライフサイクル、または一定年数の間に企業にもたらす利益の現時点における正味現在価値です。
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ワントゥワンマーケティングの目標
ワントゥワンマーケティングでは、顧客シェアを高めることを目標とします。 顧客シェアとは、1 人の顧客が購入する金額の中で、自社が占める割合です。 例えば、ある人は年間 10 万円分ビールを消費するとします。 そのうち特定のブランドへの消費が 5 万円であれば、このブランドの顧客シェアは 50%です。 マスマーケティングでは、市場シェアを高めることが目標でしたが、 ワントゥワンマーケティングでは、顧客シェアを高める、つまり顧客を囲い込むことが目標となります。
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ワントゥワンマーケティング
ワントゥワンマーケティングは、顧客に個別に対応していくマーケティングです。 従来のマーケティングは、顧客を集合として扱うマスマーケティングでしたが、 ワントゥワンマーケティングは、顧客の個別のニーズに対応していく、1 対 1 のマーケティング手法です。 これは、近年では顧客のニーズが多様化していることと、IT の発展によって顧客への個別対応が 実現できるようになってきたことが背景として挙げられます。
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ワントゥワンマーケティングの手段
ワントゥワンマーケティングでは、たくさんの顧客に対して個別にニーズを把握し、 最適なマーケティングプログラムを実行する必要があります。 そのため、通常この手法では IT の活用が必須となります。 ◇データベースマーケティング ワントゥワンマーケティングを支える手段の 1 つは、データベースマーケティングです。 データベースマーケティングでは、顧客データベースを活用して、見込み客の発見から購入、 さらにリピーターへの育成を行うためのマーケティングプログラムを実行します。 顧客データベースには、顧客の様々な属性が格納されます。例えば、性別、年齢、職業、所得などの デモグラフィックデータだけでなく、趣味やパーソナリティ、購買履歴などの各種の属性データを充実させることで、 個別対応を可能にします。例えば、顧客の購買金額に応じて割引を提供したり、 過去に購買した商品に関連する商品を推奨したりすることが可能です。 ◇マスカスタマイゼーション また、ワントゥワンマーケティングを支えるもう 1 つの手段として、マスカスタマイゼーションがあります。 マスカスタマイゼーションは、大量生産のスケールメリットを生かしながら、顧客ごとにカスタマイズを図る手法です。 例えば、スーツのオーダーは、従来は顧客ごとに完全に個別対応するフルオーダーだったので、非常に高価でした。 しかし、最近では幾つかのパターンから型を選択したり、細部を指定したりすることができるイージーオーダーが登場し、 比較的安い金額で自分の好みに合わせたスーツを作ることができるようになりました。こうすることで、 従来の既製服では満足できないが、フルオーダーほどお金はかけたくない、という顧客を取り込むことができます。 このように、マスカスタマイゼーションでは、IT 技術などを使いながら、低コストで個別対応をしていく狙いがあります。
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消費者生成メディア
消費者生成メディアとは、CGM(Consumer Generated Media)のことです。CGMとは、インターネットなどを活用して消費者が内容を生成していくメディアのことです。口コミ・サイト、ナレッジ・コミュニティ、Facebook やMixi などのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、Youtube などの動画共有サービス、ブログ・ポータル、BBSポータル、電子掲示板などが、その例です。 CGMは消費者間での情報のやり取りを促進し、CtoCコミュニケーションを強力な口コミの場へと成長させました。2000 年代後半になると、新たなツールが目覚ましく発達し、CGMはソーシャルメディアと呼ばれることが多くなりました。これらのソーシャルメディアの登場により、それまでは主に情報の受け手だった消費者が、情報の作成者・発信者に変化したわけです。 CGM の登場と普及により、消費者が生み出すクチコミは、他の消費者の購買行動に大きな影響力を及ぼすようになりました。そのため、企業もこういったメディア、クチコミを自社のマーケティングに生かすことができないかを検討するようになりました。ただし、マスコミなどの既存メディアと違い、CGM は企業が直接コントロールすることができないという特徴があります。
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ソーシャルメディア
ソーシャルメディアは、ユーザーが情報を発信したり、ネットワークを形成したりするメディアの総称のことです。 ソーシャルメディアの登場により、それまでは主に情報の受け手だった消費者が、情報の作成者・発信者に変化することになりました。 そのため、このようなメディアは、CGM (consumer-generated media:消費者生成メディア)と呼ばれます。 これに関連して、トリプルメディアという言葉が使われることがあります。これは、メディアを次の3つに分類する方法です。 ●ペイドメディア(Paid media):「買うメディア」  マスコミ広告やWEB広告など ●オウンドメディア(Owned media):「所有するメディア」  自社のWEBサイトや、販売員など ●アーンドメディア(Earned media):「評判を得るメディア」  ソーシャルメディアなど
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アーンドメディア
現在では、ソーシャルメディアはアーンドメディア(Earned Media)の主要な一部として、 重要なマーケティング・コミュニケーション・ツールと考えられるようになっています。アーンドメディアとは、 「評判を得るメディア」という意味です。
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ペイドメディア・オウンドメディア
ペイドメディア(Paid media)とは、「買うメディア」という意味で、マスコミ広告やWEB広告などが例として挙げられます。 オウンドメディア(Owned media)とは、「所有するメディア」という意味で、自社のWEBサイトや、販売員などが例として挙げられます。
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サービスマーケティング
サービスには、物理的な製品とは異なる次のような4つの特性があります。 ●無形性(非有形性)  サービスは目で見たり触ったりできない ●不可分性(同時性)  生産と消費が同時に行われる。変動性とは、サービスの提供者やタイミングなどによってサービスの品質が変わってしまい、  品質の均一化が難しいということです。そうであれば、中間業者がサービス提供の場にいれば不可分性の問題は生じません。  例えば、デパートの有名ブランドの売り場には、当該ブランドの販売員が派遣されてサービスを提供しています。 ●変動性  品質が変動し、品質の均一化が難しい ●非貯蔵性(消滅性)  貯蔵することができず、サービスが提供された後に消滅してしまう  サービスの特性への対応方法として、次のものがあります。 ●品質を向上させる方法  マニュアル化や教育訓練が挙げられます。また、コンタクト・パーソネルの満足度を向上させることが必要です。 ●生産性を向上させる方法  需要の調整を図る方法や供給能力を改善する方法があります。需要の調整を図る方法として、予約制の導入や、  ピーク時以外の需要の活性化が挙げられます。また、供給能力を改善する方法として、非正規社員の活用や、  セルフサービスの導入が挙げられます。
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サービスマーケティング 3つのマーケティングの方向性
企業と顧客の間のエクスターナル・マーケティング 企業とコンタクト・パーソネルの間のインターナル・マーケティング コンタクト・パーソネルと顧客の間のインタラクティブ・マーケティング
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サービスの品質評価や顧客満足
●SERVQUAL サービス(Service)と品質(Quality)を組み合わせた造語が、SERVQUALです。これは、次の5つの面からサービス品質を評価するもの。 サーブクウォル(SERVQUAL)においては、サービス利用前と利用後の2時点で評価を計測し、その差を確認することが推奨されています。 ``` 信頼性(Reliability):約束されたサービスを確実に提供すること 対応性(Responsiveness):顧客に迅速なサービスを提供すること 確実性(Assurance):従業員のしっかりした知識と対応の丁寧さ 有形性(Tangibles):施設、設備、従業員の外見 共感性(Empathy):顧客に対する気遣いや注意 ``` ●サービス・スケープ  店舗の外見、店やデザイン、明るさや色、音楽、香りなど、サービスを提供する物理的環境すべてのもの ●サービス・エンカウンター  顧客がサービスを提供される場面のこと。顧客がサービスに接し、企業に対する印象を抱く機会として重要。真実の瞬間ともいわれます。 ●サービス・プロフィット・チェーン  顧客と従業員の満足を収益性に結びつけようとするもの。組織が従業員を大切にして従業員の満足を高めれば、従業員は顧客によりよいサービスを提供し、顧客満足や顧客ロイヤルティの向上につながるという考え方がとられています。
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マーケティングの7P
マーケティングの4P【製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、販売促進(Promotion)】は製品、商品のマーケティングには適用できますが、無形であるサービスに対しては不十分といえます。そこで、サービスマーケティングでは4Pに加え、Personnel(人・要員)、Process(業務プロセス・販売プロセス)、Physical Evidence(物的証拠)の3Pを加え、7Pを適用することになります。 ◆Personnel(人・要員)  人員(Personnel)は、従業員、関係者、協力会社等までを含め、顧客に自社のサービスを提供する全ての人員が含まれる。 ◆Process(業務プロセス・販売プロセス)  業務プロセス・販売プロセス(Process)は、顧客にサービスを提供する様々な方法である。 企業は高い品質のサービスを提供する仕組みをプロセスとして設計し、いつでも提供できるよう改善や効率化が求められる。 ◆Physical Evidence(物的証拠) 安心・安全保障を指すもので品質認定、証明書、契約書、食品の生産者を明記するトレーサビリティーに加え、店舗のロゴやサービスマークも含まれます。ブランドの出所表示機能と共通するものです。 7P はサービスマーケティングの品質を高めるだけでなく、各 7P のバランスをとりながら、 7P のどれかを競争優位として強化することで収益を上げていくことができるフレームワークといえます。
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サービスマーケティングと組織の関係
サービスマーケティングと組織の関係においては、次の3つの方向のマーケティングがあります。 ●エクスターナル・マーケティング  企業と顧客の間のマーケティングで、物理的な製品のマーケティングと同じです。 エクスターナル・マーケティングでは、マーケティングの4Pを中心にした活動を行います。 ●インターナル・マーケティング  企業とコンタクト・パーソネルの間のマーケティングです。 サービスの質はコンタクト・パーソネルの満足度や能力次第ですので、 コンタクト・パーソネルへの教育などを適宜行っていく必要があります。 ``` ●インタラクティブ・マーケティング  コンタクト・パーソネルと顧客の間のマーケティングです。 顧客がサービスを受けるのは、この段階です。インタラクティブという名前の通り、 顧客とコンタクト・パーソネルの間の相互作用が重要です。 つまり、良好なサービスや対話により信頼関係を築き、顧客ロイヤルティを高めていくことが求められます。 ```
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消費者の購買行動に対するプロモーション・ミックス
4つのプロモーション手段(広告、販売促進、人的販売、パブリックリレーションズ)を対象となる製品・サービスの特性に応じて使い分けることが重要です。 したがって、重要性は対象が消費財か生産財かによって変わります。消費財の場合、通常プロモーションの対象は一般消費者であるので、プル戦略で消費者の需要を喚起して、消費者が自ら製品を購入するように導く「広告」が最も重要であると言えます。生産財の場合、プロモーションの対象は企業や団体になります。企業や団体は意思決定のプロセスが消費者よりも複雑という特性があることや、製品の品質や顧客が享受する便益を専門的に伝達する必要もあります。そうなると、プッシュ戦略で最も手厚く、きめ細かく顧客への働きかけができる「人的販売」が最も重要となります。 企業が広告を作成する狙いは様々な要素があります。再購買時に当該企業のもつブランド想起を促進し、その企業の製品を再購買させることも1つです。購買後に消費者が認知不協和を感じた場合、その企業や製品の広告を再度見聞することにより、消費者が購買したという判断が適切だったと再認識し、認知不協和を減らすことができるとされています。 製品やサービスに対する知名率や理解率が高いものの購買に至らないということは、買い手の当該製品やサービスに対する関与が高いにもかかわらず、購買に結びつかないということです。この場合、買い手は製品やサービスについて熟知している可能性が高く、製品やサービスの品質や付加価値を高める必要があります。短期的なインセンティブを提供する販売促進により、一部の買い手に対し一時的に購買を促進する可能性はありますが、関与の高い買い手に対しては、購買に至らない状態を覆すとは考えにくく有効とは言えません。 プル戦略には広告とパブリック・リレーションズ(PR)があります。
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デジタル・マーケティング
デジタル・マーケティングとは、いわゆるデジタルメディアを駆使したマーケティング活動全般を指し「Webマーケティング」を含む、より広範な概念です。 Webマーケティングは基本的にはインターネットとWebサイトを中心に置く概念ですが、デジタル・マーケティングではWebサイトにソーシャルメディア、モバイルアプリ、電子メールやデジタルサイネージまで、あらゆるメディアやチャネルが含まれます。こうした多種多様なチャネルを有効に組み合わせ、最適なマーケティング成果を獲得する、という点に主眼が置かれています。 ●タッチポイント タッチポイントとは、ブランドと顧客とのすべての接点のことで、ブランドについて顧客に何らかの印象が残るあらゆる接点が当てはまります。具体例としては、ウェブサイトや広告、店舗や営業マンといったものから、商品のパッケージもそのひとつとされます。従って、物理的空間だけでなく、オンライン上でも様々な形で設定されています。 ●ダイナミック・プライシング ダイナミック・プライシングとは需給状況に応じて価格を変動させることによって需要の調整を図る手法です。需要が集中する季節・時間帯は価格を割高にして需要を抑制し、需要が減少する季節・時間帯は割安にして需要を喚起するもので、航空運賃・宿泊料金・有料道路料金などで導入されています。従って、デジタル・マーケティング時代以前から存在する価格戦略です。 ●クラウド・ファンディング 製品開発のための資金をオンライン上の多数の消費者から調達する手法はクラウド・ファンディングです。 ●クラウド・ソーシング クラウド・ソーシングとは、インターネットを利用して不特定多数の人に業務を発注することや、 受注者の募集を行うこと、そのような受発注ができるWebサービスをいいます。 ●価値の毀損性 価値の毀損性はデジタル財のコモディティ化を指しますが、コモディティ化は他者が使用すると直ちに価値が低下することではなく、 商品の普及が一巡して汎用品化が進み、競合商品間の差別化が難しくなって、価格以外の競争要素がなくなることをいいます。
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クチコミ
クチコミは経験しないと判断できない「経験属性」があるため、説得力があり参考になります。 クチコミを集約したランキングや星評価は商品比較において利便性を高めるものです。 オンライン上で交換したクチコミ情報が蓄積される場所は、アーンドメディアです。 アーンドメディアは購入や所有することができないコミュニケーションチャンネルです。 対面のクチコミに比べて、インターネット上のクチコミは、多数の人に高速に伝播します。 WEB サイト等でクチコミの場を設けた場合、誹謗中傷や名誉棄損、有害なもの、権利侵害などの クチコミが発生する可能性があります。こういったクチコミを防ぎ、健全なコミュニティーを運営するためには、 倫理ガイドラインを整備・運用する必要があります。 オウンドメディアは主に、ウェブサイトやブログ・または電子メールのように、宣伝主体みずからがコントロール可能なコミュニケーションチャンネルです。 なお、主に伝統的な広告をペイドメディアといいます。 マーケッターが企業と無関係な消費者であるかのように振る舞って情報を受発信することは、 「なりすまし」であり消費者を欺く行為と受け止められます。 当該企業にとっては短期的利益となっても、消費者からの信頼を損なうこととなれば、長期的利益にはつながりません。 「消費者の情報過負荷」とは、消費者が検討する代替商品の数や、属性の数が多すぎて、消費者の情報処理能力を超えてしまうことを表します。 現代では、商品や情報があふれているため、基本的に情報過負荷になりやすい状況にあります。ここで、クチコミがあれば、 そのクチコミの内容に従って購買意思決定ができます。例えば、クチコミサイトの評価に従って、購買を決定することで、情報過負荷が軽減されます。 ブログではコメントの書き込みにより、ブログの書き手と読み手の間の双方向のコミュニケーションができます。 また、トラックバックにより、簡単にリンクを貼ることができるため、インターネット上でネットワークが形成され、情報伝播を促進しました。 購買意思決定段階の後半になるほど、クチコミの影響は大きくなります。 購買意思決定の段階には、問題認知、情報探索、代替品評価、購買決定、購買後の行動があります。 クチコミは、問題認知や情報探索段階よりも、購買決定や購買後の行動段階の方により強い影響力を持ちます。
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ブランド・コミットメント
ブランド・コミットメントとは「売上という観点で捉えられるブランド・ロイ ヤルティでは捕捉できない部分をカバーできる概念」とされ「その高低やタイプによって消費者の行動がどのように異なるかについての関心が向けられている」ものです。つまり、ブランド・コミットメント は、態度的な概念とされます。
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ロイヤルティ・プログラム
ポイントを付与すれば必ずしもロイヤルティが高まるわけではなく、顧客が継続的に再購入をするかは、 | ポイントの還元率の高さや利用のしやすさも影響します。よって、経済効率が非常に高い施策とは言い切れません。
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サービス・トライアングル
サービス・トライアングルとは、主として接客を要する業態において「企業」「顧客」「提供者」の3者を頂点とした三角形で、相互のサービス提供関係を表現したものです。 企業と顧客:企業が提供する商品やサービスを示します。通常のマーケティング(対外的マーケティング)の関係性です。 企業と提供者:企業と従業員との関係性です。インターナルマーケティングです。 提供者と顧客:従業員と顧客との接点、サービスを示します。インタラクティブマーケティングです。 上記の3つの関係のバランスが図られることがサービス提供の重要なポイントとされます。
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逆さまのピラミッド図
逆さまのピラミッド図は、顧客志向のための組織図です。顧客をトップ位置づけ、顧客に近い販売担当者等を次にという順序で、経営トップを一番低い位置付けとするものです。あくまで、顧客第一主義を示す図であり、マネジャーと現場スタッフの権限関係が逆転していることを示すものではありません。