第9章 臨床(症状) Flashcards
病態水準
病態水準とは,現実検討能力,同一性統制度,防衛操作の3点を基準とした,カーンバーグによる精神症状の重篤さの分類である。比較的重篤ではない症状は神経症レベル,重篤な症状は精神病レベルとよばれ,その中間は境界例レベルとよばれる。ただし分類基準となる現実検討能力,同一性統制度,防衛操作はいずれも正確に測定することが困難で,適切に症状ごとの重篤さを分類することは難しい。そのため,現在ではこの分類は積極的に用いられていない。
DSM
DSMとはアメリカ精神医学会の発表した精神疾患の診断·統計マニュアルのことである。特定困難な病因ではなく,客観的に観察が可能な症状に注目することが大きな特徴である。特定の症状をいくつか満たせば診断を下すという操作的診断基準によって,統一した診断を可能にすることを目指している。現在では第5版が発表されており,とくに多軸診断を廃止したこと,広汎性発達障害を自閉症スペクトラム障害として整理したことが注目を集めている。
統合失調症
統合失調症とは,妄想や幻覚などの陽性症状,意欲の喪失や感情の平板化といった陰性症状,解体した会話や行動など解体症状の3つを主な症状とする精神障害である。原因は未だ特定されておらず,さまざまな要因が絡み合って発症に至ると考えられている。陽性症状が中心となる急性期は薬物や入院による鎖静を重視し,陰性症状が中心となる慢性期はSSTや家族への心理教育を重視して,患者の社会復帰を援助していく。
気分障害
気分障害の症状は,気分の低下を示す大うつ病エピソードと,気分の高揚を示す躁病エピソードに二分され,大うつ病エピソードのみを示すうつ病性障害と,両方のエピソードを示す双極性障害の2つに大別される。躁病エピソードの時は主に薬物による鎮静を,大うつ病エピソードの時は主に休養と薬物療法,認知行動療法を組み合わせて援助していく。最大の注意点は自殺であり,患者を追いこまないよう支持的な対応が重要となる。
不安傷害
不安障害とは不安を主症状とする障害のことである。一般的な他者にとって危機的ではない状況でも,交感神経が活発化して闘争か逃走反応が起こるために,動悸や発汗·震えなどの不安症状が生じる。不安障害は大きく分けてパニック障害,恐怖症,全般性不安障害,強迫性障害,心的外傷後ストレス障害,急性ストレス障害の6つに分類することができ,薬物療法や行動療法·認知行動療法による介入·援助が有効であるとされている。
PTSD
PTSD とは,自身の生命を脅かすほどの強烈な危機を経験し,その経験によってさまざまな症状が現れる不安障害の1つである。症状は,危機的経験を無意識に想起してしまう再体験症状,危機的経験に関する認知から目を背けようとする回避症状,不眠や緊張,集中困難などの過覚醒症状の3つからなる。これら症状の持続が1 ヶ月以内の場合は ASDとよび区別される。症状に関する早期の心理教育と,認知行動療法による心理援助が有効とされている。
身体表現性障害
身体表現性障害とは,医学的検査で所見が認められない身体症状や身体的なとらわれを特徴とする疾患の総称である。その原因は不安や葛藤,ストレスなど心理的要因と考えられる。身体表現性障害になりやすい性格傾向として,自身の感情や葛藤をうまく言語化できないアレキシサイミアがあげられる。また身体表現性障害の背景には,症状により特定の行動や責任を避け,周囲の関心や心配が得られるという疾病利得が関係している場合もある。
解離性障害
解離性障害とは,意識·記憶·同一性または知覚についての通常は統合されている機能が破綻している解離症状を主とする障害である。解離性障害には,生活史を忘れてしまう解離性健忘,新たな同一性を獲得する解離性遁走,複数の人格を有する解離性同一性障害,自分の身体が自分のもののように感じられなくなる離人症性障害の4つの下位カテゴリーが存在する。いずれも薬物療法はあまり有効ではなく,精神分析療法が主に用いられている。
摂食障害
摂食障害とは,ボディ·イメージの歪みと異常な食行動を示す障害である。大きく神経性無食欲症と神経性大食症に二分される。神経性無食欲症は体重が標準体重の85%以下であっても痩せねばと思ってしまう。神経性大食症は,一度食べはじめたら食べるのを止められなくなってしまう。病識がないことが多いため,適切な心理教育によって症状を認識してもらい,認知行動療法で歪んだボディ·イメージを改善していくことが望まれる。また,家族のサポートも重要となる。
パーソナリティ障害
パーソナリティ障害とは,属する社会の道徳や価値観から著しく偏ったパーソナリティをもつが故に困難が生じる障害のことである。奇異な行動を示すA群,派手で周囲を振り回すB群,強い不安や恐怖を示すC群の3群があり,さらに細かく10のパーソナリティ障害に分類することができる。パーソナリティ障害は,その偏りを根底から改善することが困難であるため,当面の生活上の困難を1つ1つ改善することで支援することが多い。
自閉症スペクトラム障害
自閉症スペクトラム障害とは,かつて広汎性発達障害とよばれていた,以下の3つの行動特徴をもつ障害のことである。1つ目は社会的相互作用の障害で,対人関係の形成·維持の困難さを示す。2つ目はコミュニケーションの障害で,会話を開始し継続することの困難さを示す。3 つ目は想像力の障害で,限局された興味対象への過度な集中を示す。これら3つの行動特徴が3歳頃までに示される。脳の機能障害と考えられており,不適切な親の養育による障害ではない。
LD と ADHD
LDとは学習障害のことで,知的能力は平均的だが,読む・書く・話す・聞く・計算するなどの特定の学習能力に著しい困難を示す障害である。ADHD は注意欠陥多動性障害のことで,不注意·多動·衝動性の3つの特徴が同年齢の子どもと比較して顕著な障害である。いずれも脳の機能障害が推測されており,親の不適切な養育態度によるものではない。周囲に誤解されやすく二次的な障害が生じやすいことから,親や教師の障害への理解と支援が求められる。