第2章 学習・知覚・認知 Flashcards
レスポンデント条件づけ
レスポンデント条件づけとは,無条件刺激と条件刺激の対呈示により,本来は無条件刺激によって誘発される無条件反応が条件反応となり,条件刺激との新たな連合が生まれることである。ロシアの生理学者パブロフが犬の唾液分泌を用いた実験で示した。この理論はワトソンの行動主義の基礎理論となり,その後ウォルピによって行動療法として臨床活用され,系統的脱感作法などの様々な技法が誕生している。
オペラント条件
オペラント条件づけは,特定のオペラント行動に報酬刺激や嫌悪刺激を与えることで,そのオペラント行動の生起頻度を変化させることである。新行動主義者スキナーのスキナー箱の実験で示された。パブロフのレスポンデント条件づけが先行刺激に対する条件反射を条件づけの対象とすることに対し,スキナーのオペラント条件づけは,先行刺激なしで自発的に発生する行動を条件づけの対象とする点で異なる。
モデリング
モデリングとはモデルとする他者の観察と模倣によって成立する学習のことである。モデルとする他者の行動が強化された時,その強化は観察者にとって代理強化となり,直接行動を起こしていない観察者も同様の強化が得られることを,バンデューラが実験的に示した。このモデリング理論は,テレビや映画·ゲームなどの暴力映像の視聴が人の攻撃行動の獲得に影響を与えるものとして注目された。またモデリング療法など,その理論は臨床現場でも用いられている。
学習性無力感
学習性無力感とは自身で対処できない体験を数多く重ねることで,あらゆる行動への動機づけが失われる状態のことである。あらゆる行動をとっても電気ショックから逃れられない環境に長く置かれた犬は,電気ショックから逃れられる環境に移っても逃げようとしなかった。この実験結果から,セリグマンが提唱した概念が学習性無力感である。うつ病の背景要因の1つとして考えられているが,いまだ確実なものではない。
試行錯誤と洞察
試行錯誤とは,問題解決場面において様々な行動を起こすことによって,偶然の成功による解決を目指すプロセスであり,ソーンダイクによって明らかにされた。対して洞察は,問題場面の深い観察と全体的な理解による解決プロセスである。ゲシュタルト心理学者のケーラーによって明らかにされた。試行錯誤による解決は徐々に解決へと近づくことに対し,洞察による解決は成立した瞬間に急激に完成するという点でこの2つは異なる。
知覚の恒常性
知覚の恒常性とは,感覚情報が変化しても,知覚には大きな差は生じず,一貫性を保つことである。たとえば,何かの物を見ていた時,それが近づくと網膜像は大きくなり,遠くなると網膜像は小さくなる。だが,網膜像が変化しても,実際の大きさは変わっていないと理解できる。これは知覚の恒常性のうち,大きさの恒常性とよばれている。知覚の恒常性には他にも,明るさの恒常性,色の恒常性,形の恒常性などが挙げられる。
スキーマ
スキーマとは経験的に形成された知識·行動の枠組みのことである。過去の経験によって形成されたスキーマは,新規刺激に対する情報処理に影響を及ぼす。たとえば新たな情報が与えられた時,すでにもっているスキーマに関連づけることで,容易に理解·解釈することを可能にする。反面,スキーマに沿うように情報を歪めたり消去したりして,情報を受け入れやすいように変容させてしまっている可能性も存在する。(
プライミング
プライミングとは,先行刺激が後続刺激の解釈に無意識的な影響を及ぼすことである。たとえば,以下のような実験がある。事前に様々な動物の絵を見せたあとで,「ho( )seの()にアルファベットを入れて単語を作りなさい」という課題を与えると,houseにして家を表すこともできるにもかかわらず.馬を表すhorse を作る者が多かった。これは動物の絵が先行刺激となり,後続刺激の解釈に影響を及ぼしたプライミングの影響と考えられる。
メタ認知
メタ認知とは「何を認知しているか」ということに関する認知である。たとえば,ある人が今の自分の状態を問われ,「明るい部屋にいる「暑い」「楽しい気分」と様々な状態がある中で,「楽しい気分」のみを答えたならば,それがその人のメタ認知に相当する。裏を返せば「明るい「暑い」などは感じていても,意識的に認知されていないことになる。メタ認知に基づくモニタリングは,自身の認知活動を把握し,適切な行動の選択と制御を可能としている。
記憶の3過程
記憶の3過程とは,記憶が記銘·保持·想起の3つのプロセスを経ることである。なお,認知心理学など人間を情報処理システムとしてとらえる立場では,3過程を符号化·貯蔵·検索とよぶこともある。記銘(符号化)とは記憶痕跡を生み出す過程で,保持(貯蔵)とは記憶痕跡を保管しておく過程,想起(検索)とは特定の記憶痕跡が必要な場面で,その記憶痕跡を引き出し,利用可能な状態にする過程を指す。
短期記憶
短期記憶とは,感覚情報が意味処理され,認知作業のために保管された一時的な記憶のことである。この短期記憶に一時的に保管された情報を用いて,様々な作業を行ったり,課題を解決したりすることが可能となる。記憶容量は7±2チャンクとされており,保持時間は10秒から30秒と長くはない。そのため,長期記憶として保持しておくためには,頭の中で短期記憶の情報を復唱するリハーサルとよばれる処理が必要となる。
長期記憶
長期記憶とは,理論上永久に貯蔵される容量無限の記憶貯蔵庫のことである。短期記憶の情報が,精緻化リハーサルによって深く意味処理されることで,長期記憶へと移行する。長期記憶は大きく分けて言語化可能な宣言的記憶と,言語化が困難な動作の記憶である手続き記憶に分類される。さらに,宣言的記憶は時間的·空間的に特定可能な経験の記憶であるエピソード記憶と,一般的な知識に関する記憶である意味記憶に分類される。
系列位置効果
系列位置効果とは,記憶課題において提示順により再生率に違いが生じる現象である。とくに,最初の数項目の再生率が高いことを初頭効果,最後の数項目の再生率が高いことを新近効果という。初頭効果は最初の項目がリハーサルされやすく長期記憶に情報が移行しやすいため,新近効果は最後の数項目がまだ短期記憶に残っているためと考えられている。なお,提示から再生までの間に1分ほどの妨害課題を挟むことで,短期記憶が消失し,新近効果が見られなくなる。
忘却
忘却については複数の説がある。代表的な説に干渉説と検索失敗説がある。干渉説とは,記憶痕跡同士が干渉しあうために想起が困難になるという説である。検索失敗説とは,記憶痕跡を適切に検索できないが故に想起が困難になるという説である。両説とも,減衰説のように記憶痕跡が時間とともに薄れていき消失するとは考えておらず,長期記憶の記憶痕跡が永久に保持されていることを想定している点で共通している。