乳幼児のこころ Flashcards
乳幼児のこころ+子育て+アタッチメント+パーソナリティ
アタッチメント
アタッチメント (attachment):個体がある危機的な状況に接し(あるいはそれが予期され)、恐れや不安の感情を経験した際に、他の特定個体に近接し、その個体との関係を取り結ぶことによって、再び安全の感覚を回復・維持しようとすることに関わる行動制御システム
安全の環
安全の環 (circle of security):養育者と子どもの日常のあるべき関係性
安全な基地 (secure base):養育者が子どもに情緒的な燃料補給を行い、子どもを元気よく外界に送り出す
確実な避難所 (safe haven):子どもが困難な事態に遭遇して弱って戻ってきたときに、養育者がそれを確実に受け容れて慰撫する
⇒自発的な探索行動が可能⇒自律性
⇒他者に対する基本的信頼感・自分に対する自己肯定感の育成
アタッチメントの起源:子ども側
赤ちゃんの特質(錯覚を誘発しやすい)
幼児図式:赤ちゃん特有の顔・身体・動きなどの特徴(広いおでこ、大きな目、など)
社会的知覚:人らしいものに対して選択的に注意を向ける(人の声 > ほかの音、人の顔 > ほかの形、など)
社会的同調:周囲の人の動作に調子を合わせる(新生児模倣、共鳴動作、など)
社会的発信:顔や声を通じた感情表出(社会的微笑、感情表出、など)
アタッチメントの起源:養育者側
養育者の直感的育児 (intuitive parenting)と応答性 (responsiveness):赤ちゃんの特徴を魅力的だと感じ、赤ちゃんの情緒的なシグナルに敏感でタイミングよく反応する
幼児図式:「ただでさえかわいい」、社会的知覚:「見つめられる」、社会的同調:「応答される」、社会的発信:「感情を寄せられる」
養育者のmind-mindedness:赤ちゃんに対して内的状態(意図・感情・記憶等)を読み取ること
アタッチメントの発達段階
①:人物の識別をともなわない定位と発信(出生~生後3ヵ月)→近くにいる人に対して視線を向ける(定位);近くにいる人に対して微笑んだり泣いたりする(発信);シグナル行動が中心
②:1人または数人の特定対象に対する定位と発信(生後3ヵ月~6ヵ月)→人物の識別が可能;養育者に対してアタッチメント行動を向ける;シグナル行動も接近行動も
③:発信および移動による特定対象への近接の維持(生後6ヵ月~2, 3歳)→人物の識別の明確化;より能動的な接近行動;明確なアタッチメント形成期
④:目標修正的な協調性の形成(3歳前後~)→内的作業モデルの形成;アタッチメント欲求があっても、養育者の状態を推測して行動を調整・制御できる;アタッチメント対象が不在でも、情緒的な安定を保つことができる
⇒受動的→能動的、物理的近接→表象的近接、養育者への近接性の実現→養育者の情緒的利用可能性の覚知
ストレンジ・シチュエーション法
ストレンジ・シチュエーション法 (strange situation procedure)
対象:生後12ヵ月~18ヵ月の子ども
方法:実験室に子どもを連れてきて、そこで初めての人に遭遇させるとともに、その場から養育者が一時いなくなるという場面を子どもに経験させる
分離場面と再会場面における反応を観察
回避型
分離:泣いたり混乱したりしない
再会:目をそらしたり、養育者を避けようとする。養育者が抱っこしようとしても子どもの方から抱きつくことはなく、養育者が抱っこするのをやめてもそれに対して抵抗を示さない
探索活動:養育者と関わりなく行動することが多い(養育者を安全基地としてあまり使用しない)
親の日常的な関わり:子どもの働きかけに拒否的に振る舞うことが多く、子どもと対面しての微笑みや身体接触が少ない。子どもが苦痛を示したりすると、かえってそれをいやがり、子どもを遠ざけてしまう場合もある。また、子どもの行動を強く統制しようとする働きかけが多い。
安定型
分離:多少の泣きや混乱を示す
再会:養育者との身体接触を積極的に求め、すぐに落ち着く
探索:養育者を安全基地として、積極的に探索活動を行う
親の日常的な関わり:子どもの欲求や状態の変化などに敏感であり、子どもに対して過剰なあるいは無理な働きかけをすることが少ない。また、子どもとの相互交渉は全般的に調和的かつ円滑で、遊びや身体接触を楽しんでいる様子が多く観察される。
アンビバレント型
分離:非常に強い不安や混乱を示す
再会:養育者に身体接触を求めていくが、その一方で怒りながら養育者を激しくたたいたりする(近接と近接への抵抗という相反する行動を行う)
探索:全般的に行動が不安定で、随所に用心深い態度が見られる。養育者を安全基地として、安心して探索行動を行うことがあまりできない(養育者に執拗にくっついていようとすることが多い)
親の日常的な関わり:子どもが出す各種愛着のシグナルに対して敏感ではなく、子どもの行動や感情状態を適切に調整することがあまり得意ではない。子どもとの間で肯定的な相互交渉を持つことは持つが、それは子どもの欲求に応じたものというよりも養育者の気分や都合に合わせたものであることが多い。結果的に、子どもが同じことをしても、それに対する反応が一貫性を欠いたり、応答のタイミングが微妙にずれたりする。
無方向・無秩序型
何がしたいのか、どこへ行きたいのかが読み取りづらいタイプである。たとえば、顔をそむけながら養育者に近づこうとしたり、養育者にしがみついたかと思うとすぐに床に倒れこんだりする。また、不自然でぎこちない動きを示したり、タイミングのずれた場違いな行動や表情を見せたりする。さらに、突然すくんでしまったり、うつろな表情を浮かべつつじっと固まって動かなくなってしまったりすることもある。
親の日常的な関わり:Dタイプの子どもの養育者の特質に関する直接的な研究結果は未だに数少ない。しかし、Dタイプの子どもの養育者は、被虐待児であったり、抑うつなどの感情障害を持っている場合が非常に多い。そのため、次のような養育者像が推察される。(多くはトラウマなどの心理的に未解決な問題を抱え)精神的的に不安定なところがあり、突発的に表情や声あるいは言動一般に変調を来し、パニックに陥ることもある。言い換えると、子どもをひどくおびえさせるような行動を示すことが多く、通常一般では考えられないような(虐待行為も含めた)不適切な養育を施すこともある。
アタッチメントと遺伝
気質(生まれつきの個性)→“扱いにくい”=シグナルが分かりにくい→養育者の情緒的利用可能性の低下?
行動遺伝学の研究→アタッチメントの個人差に関して、遺伝的要因が小さい
遺伝的要因よりも環境的要因のほうの説明力が高い
アタッチメントがもたらすもの:自他に対する基本的信頼⇒内的作業モデル
極度の恐れや不安の状態になるときに、無条件的に、かつ一貫的に、養育者などの特定の誰かから確実に護ってもらうという経験の蓄積を通して、子どもはそうしてくれる他者およびそうしてもらえる自分自身に対して、高度な信頼の感覚を獲得することが可能になる
→他者は自分のことを受け入れる存在
→自分は他者に愛してもらえる存在
内的作業モデル (internal working model):発達早期の主たるアタッチメント対象との関係性の経験を通して固められる自己や他者あるいは対人関係一般についての主観的な見通しや確信、を基盤として構成される様々な対人的シミュレーションを行うための表象モデル
IWMを基礎として、人は種々の出来事を知覚したり、未来を予測したり、自分の行動の計画を立てる
一度形成されたIWMは、無意識的かつ自動的に働くようになり、意識的な修正は困難
→幼少期に形成されたIWMは、モデルによって表象されている内容と現実との間に大きな不一致が起こらない限りは、加齢にともなって安定性を増していく
★IWMが長期にわたる対人関係のパターンやパーソナリティの維持に関わる
アタッチメントがもたらすもの:自律性および自分の能力に対する根源的自信
養育者などの特定の誰かから確実に護ってもらうという経験の蓄積を通して、子どもは他者を「安全の基地」として、そこから外界に積極的に出て、自律的に探索活動を起こすことが可能になる
他者から実際に助力を引き出し、ネガティブな情動状態から抜け出ることが叶ったという成功体験の積み重ねは、子どもに、自分には他者を動かすだけの、世界を好転させるだけの力があると感じることができる
→一人でいられる能力
→自己効力感
アタッチメントがもたらすもの:心の理解能力および共感性
養育者は、子どもの情動を制御するだけではなく、それに一瞬先立って、その情動に同調し、つい同じような顔の表情や声の調子になるなかで、それを子どもに対して映し出してあげる、また子どもの心身状態に合致したラベリングをしてあげる
身体全体が何かいつもと異なる状態にあることそのものと、自分自身でその状態に意識のうえで気がつくことが異なる→養育者によって、子どもが前者から後者へと至らしめられる
→心の理解
→共感性
アタッチメントがもたらすもの:脳や身体生理的メカニズムへの影響
アタッチメントは、恐れや不安などの情動によって崩れた心の状態を立て直すだけではなく、その情動に伴う緊急反応によって崩れた身体の状態を元通りにする働きも担っている
人の基本的な諸活動に深く関与する脳内のHPA系やSAM系の発達に、幼少期に子どもが経験するアタッチメントの安定性が深く関与している可能性がある
ヒトの脳は、生まれたのちに養育者との豊かな相互作用経験が得られることを前提とした設計になっている→通常であれば得られるはずの経験が欠落することは、その後の脳機能の発達に大きな影響を及ぼす
感情理解と感情制御
被虐待児は、他者が示す様々な表情のなかでも(悲しみや苦痛には鈍感である一方で)怒りの表情だけには敏感であったり、またとくに特定の表情が浮かんでいない真顔を悪意ある怒りの表情と誤って知覚してしまったりする
被虐待児は、いつも些細なことでもネガティブな情動が生起しやすいという高覚醒状態に置かれており、ときに衝動的に激しい怒りに駆られ、無謀・無慈悲な攻撃行動に走ることがあり、しかもそうした状態にひとたび陥ると自分自身では制御困難となってしまう
乳幼児期以降のアタッチメント
就学前期~児童期の仲間関係
回避型:仲間に対して否定的な感情をもって攻撃的にふるまう仲間から拒否され孤立する
アンビバレント型:他児の注意を過度に引こうとしたり衝動的にふるまう従属的な態度をとる→仲間から無視されたり攻撃されたりする
安定型:仲間に対して積極的に、肯定的な感情をもって働きかける共感的行動を多く示すため、仲間からの人気が高い
青年期~成人期の恋愛関係
回避型:情緒的な関わりを避ける→関係がうまくいかない
アンビバレント型:不安に駆られて過剰にかかわりすぎる→ストレスに満ちた関係
安定型:良好な、満足度の高い、持続的な関係
老年期
回避型の比率が高まる→親密な他者との死別等を接する機会が多くなるなかで社会的接触や活動から徐々に撤退していこうとする可能性?
アッタチメントの世代間伝達
世代間伝達 (intergenerational transmission):アタッチメントは一つの世代から次世代へと受け継がれていく
個々のアタッチメントスタイルに関して、研究結果が一致していないが、安定型か不安定型かに関して、世代間伝達の可能性が高い
世代間伝達のモデル:養育者自身の幼少期の経験(→養育者のその後のアタッチメント関連の経験)→養育者自身の内的作業モデル(→社会的文脈)→敏感な応答性(→個人的特性)→子どものアタッチメント
しかし、
①差次感受性 (differential susceptibility) の文脈でいえば、養育行動を個々の子どもがいかに感受するかという影響の受けやすさに広汎な個人差が存在する
②養育者と子どもとの関係はあくまでも複雑なソーシャルネットワークを構成している数多くの関係性の中の一つだけである→年齢が上がるにつれ子どもが対人的ネットワークを拡張し、自身のアタッチメントやIWMの質に関しても、仲間や恋愛相手など、親以外の重要な他者から受ける影響が徐々に強まる
乳幼児期の可塑性と対人世界の広がり
①アタッチメント・スタイルは変化できる
ただし、その変化可能性=可塑性は、発達の早期であればあるほど高い
なぜかというと、加齢にともない、自分のIWMに合致した対人関係や社会的環境を構築し、それまでとは異質な対人関係や社会的環境を自ら遠ざけてしまう→変化の機会を与えうる、異質な対人関係に遭遇する確立が低くなる→アタッチメント・パーソナリティの連続性が増大する
②子どもは養育者以外の相手とアタッチメントを形成できる(家族内の養育者以外の成員;保育所の保育士、学校の教師など)
家庭外で最初に出会う大人とのアタッチメントの質が、学校のような集団的な状況の中でも子どもの適応性と深く関係する
錯覚とmind-mindedness
錯覚:実際には必ずしもあるとは言えないものまでもあると考えてしまう
養育者が錯覚を持つことによって、赤ちゃんに対する関わりや、その影響下での赤ちゃんの発達がごく自然に適切な形で進行していく
mind-mindedness:子どもの心をなぜかつい気遣ってしまう傾向、内的状態(意図・感情・記憶など)を読み取る傾向
当初、実体とはややかけ離れた錯覚が、養育者の子どもに対する関わりを適切に方向づけることを通じて、徐々に、子どもの心の実態を生み出す
錯覚の発達促進的な働き
①子育てへの動機づけの高まり
②子どもの自他に対する基本的信頼感+自己効力感の発達
③子どもが明確な期待や見通しをもって環境と関われるようになる
④子どもが自分の内的状態を気づけるようになる(ミラーリング・ことば)
脱錯覚とほどよい子育て
脱錯覚:子どもの実体としての心の発達につれて、養育者が自身が思い描いた子どもの心に対する「想像上の対話」から、現に子どもが感じたり思ったり欲したりすることに対する「現実の対話」をするようになる
ほどよい子育て:養育者が独りよがりに子どもにとってよかれと思い実践する子育てではけっしてなく、不満や不快なども含めて子どもから色々な声を聞きながら、あるいは子どもの力を借りながら、共同で軌道修正していくような子育て
「真の自己」と「偽りの自己」
真の自己:子ども自身の感情や欲求などからなる自己
偽りの自己:養育者の錯覚や願望などからなる自己
偽りの自己の発達:養育者が子どもの潜在的な心の状態に過剰に注意を向けている(欲求の先読み)ので、子どもの方は、特に葛藤や衝突を経験ことなく、養育者からの働きかけを比較的に素直に受け入れてしまう
真の自己の発達:養育者が子どもの潜在的な心の状態に注意を向けつつ、子どもに自らの欲求に従って様々な行動をする中で、自分自身の正負や、様々なな感情を経験する機会を与える→特にネガティブな感情を経験したときには、子どもが強い動機づけを持って、自ら積極的に外界に働きかける
情緒的応答性
情緒的応答性 (emotional availability):子どもが自発的にシグナルを発し何かを求めてきたときには確実に敏感に応じる一方で、子どもが特に何も求めてこないときには、あえてそこに踏み込まないでいる
成人疾病胎児期起源説
胎内環境が、出生後の生活環境に適うように胎児の遺伝子の発現をプログラミングし、それが生涯にわたるその個人の健康の維持や病気のかかりやすさなどに長期的に影響を及ぼす